第19話 粘着PK 11

あかりの配信の前日。


 キララはまねきねこでナナホシ、カガミと話をしていた。


「ナナホシさん、ナナホシさんって、なんでも屋なんだよね」


「そうっスけど?」


 ナナホシは、キララが買った布やら何やらを梱包しながら答えた。


「次の仕事、私一人だと目が足りない。カガミのお兄さんとナナホシさんに監視の協力をして欲しい。報酬は支払う」


 カガミとナナホシは驚いて顔を見合わせた。


「意外だな、あんたはてっきり、全部一人でやるタイプだと思ってた」


「別にそんなことは無い。狙撃をする時だって、本当は隣に優秀なスポッターが欲しい」


「協力は構わないし、報酬も別に要らないっスけど……ご期待に添えるかはわかんないっスよ? フィールドでモンスター狩るくらいなら人並みにできるっスけど、対人戦、まして監視業務なんてほとんど経験ないっスからね」


「俺も別に、初心者から金をせびろうとは思わないから無報酬でいい……しかし、あんた一人だと目が足りないってどういうことだ?」


 キララは、星ノあかりが粘着PKに遭っており、解決を依頼してきた事を説明した。ナナホシはタバコに火をつける。


「ノワールさんには、君達に話をする許可を取ってるから安心して欲しい」


「大物の名前が出てきましたね、私、星ノさんはたまに見てるッスよ……しかし、粘着PKっスか、有名人は大変っスね」


 カガミは顎に手を当てた。


「ワープポータルの監視程度なら、やっぱりあんた1人で十分だと思うが……あ、いや、別に協力が嫌ってわけじゃないんだが。しかし、狙撃手は監視のプロだろ? 何が不安なんだ?」


 狙撃手の仕事は狙撃だけではない、対象の監視オーバーウォッチも狙撃手の重要な仕事なのだ。しかしキララは首を横に振る。


「私はあかりちゃんの周辺を監視する。カガミのお兄さんにはワープポータルを、ナナホシさんには建物の中を監視して欲しい」


 カガミは眉をひそめた。


「打ち合わせの時と言ってることが違うじゃないか。一体何を警戒しているんだ? ワープポータル以外の場所にワープできるスキルやアイテムはSOOに存在しないぞ?」


「……ちょっと待ってください……まさか、キララさん……」


 ナナホシはタバコを深く吸った。しばらく何か考えていたナナホシであったが、何かに気づいて大きく目を見開く。


「なるほど……キララさんが何を警戒しているのか、大体分かったと思います。いいっスよ、どうせ店番は暇なんで、お付き合いするっス」


「うん、ありがとう、流石はナナホシさん」


「おいちょっと待て、俺抜きで話を進めるな、何が分かったんだ!?」


 ナナホシはタバコの灰を落としながら意地悪そうに笑った。


「この依頼の違和感は、カガミさんみたいなプレイヤーには分かんないっスよ」


「ぷーくすくす、諦めることだね、カガミのお兄さん」


「ぐっ……人のこと馬鹿にしやがってぇ……」


 ナナホシがタバコの煙で輪っかを作る。


「卑屈っスねぇカガミさん、私達は、カガミさんのこと褒めてるんスよ? ねー?」


「そうそう、普通の人間は、……なんて芸当できないからね」


 キララのその言葉にカガミはハッとした。そう、普通のプレイヤーではあかりの居場所を突き止めることすらままならないのだ。SOOのマップは、並大抵のオープンワールドゲームよりも広い。現在判明している探索可能な惑星の数だけでおよそ1800。地上部分だけでも、単純計算で地球の1800倍もマップが広いのである。配信に写っている背景を見ただけで居所を特定するのは至難の業だ。


「まぁ実際には、プレイヤーがワープポータルからそう離れることは滅多にないんで、特定が不可能……ってわけじゃないんスよね?」


 ナナホシはカガミに問いかけた。


「……そうだ、辺境の惑星なんかはワープポータルが1箇所しかない……なんてこともあるからな。実際に覚えるべきランドマークはそう多くない。ワープポータルから遠く離れた場所に意図的に移動しないかぎり、どの惑星に居るかは背景だけでも大体特定できる」


「カガミさんみたいな情報屋の場合はっスけどね、並大抵のプレイヤーにできることじゃないっス」


「つまり、UNKNOWNはカガミのお兄さんみたいな情報屋か、情報屋からあかりちゃんの居所の情報を買っているただのプレイヤーか、もしくは────」


 カガミはキララが言わんとすることを察して固唾を飲んだ。


「最初からあかりちゃんの居場所を知っているプレイヤーってことになるね」

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