第14話 粘着PK 7

 キララが突拍子もないことを言うので、あかりは思わず顔を上げた。


「えっと……それは……」


「ごめんごめん、噓だよ。有名配信者はフレンドを自分の裁量で選べないよね、配信中にうっかりフレンド欄を開いた時に、フレンド欄に謎の一般プレイヤーの名前があったらファンが嫉妬しちゃうからね」


「ご、ごめんなさい。そうなんです。フレンド登録をしていいのは、同じ会社の配信者さんか、会社が特別に許可を出したプレイヤーだけなんです。すみません……」


「へぇー、大変だね。ってことは、案外ヤマモトさんもあかりさんとフレンド登録できなかったりするの?」


「はい、私はあくまであかりさんのマネージャー、陰の存在ですので、フレンド登録などとても……」


 ふーん、と、キララは紅茶をまた口に運んだ。


「ねぇ。運営に助けを求めたり、ヤマモトさんがあかりさんを守ってあげることはできないの?」


「運営のサポートセンターに相談もしてみたんですけど、個別の対応は難しいと言われてしまいました」


 SOOは5000万人の大人気ゲームだ。バグ報告、チーター報告への対応で手一杯で、個人間の紛争の解決に余力を割けないのだろう。


「ヤマモトさんは? Lvはいくつなの?」


「私のレベルは一応90まで上げてありますが、あかりさんの配信中はゲームにログインできないんです。万が一の機材トラブルに対応するために、PCの前で待機しなければならない決まりでして……」


 これは、VRゲームの配信ならではの文化だろう。VRゲームの配信は、VRヘッドギアを配信用パソコンを繋いで、パソコンの配信ソフトを使って行われる。もし、パソコンの方に何かトラブルが起きた場合、仮想世界に居る配信者本人はトラブルに対応できない。いざという時の配信トラブルに速やかに対応するためには、パソコンを見張る人間が必要なのだ。


「えー、じゃあヤマモトさんは、あかりさんの自室で、寝てるあかりさんの隣でPCを操作してるんだ」


 キララはわざと茶化すようにそう言った。


「な、なんて失礼なんだあなたは! 違います! 配信用パソコンは私の部屋にあります! あかりさんの部屋にあるVRヘッドギアとは、インターネットを経由して接続されているんです!」


 ヤマモトは当然の怒りをあらわにした。キララは相変わらずの無表情でけらけらと笑って見せた。


「ごめんごめん、流石は大手配信者事務所だね。ちゃんとプライベートに配慮されてるんだね」


「ノワールさん、失礼ながら、この方、本当に信頼できるんでしょうね! 装備品だって初期装備じゃないですか! 本当に凄腕なんですか!?」


「ご安心ください、キララ様の腕前は『鉄靴の魔女』の名に懸けて私が保証いたします。今回の仕事に、キララ様以上の適任はSOOに存在しません。と、言うより……


 ノワールがそう言い切ったので、ヤマモトは驚きを隠せなかった。


「ですので、キララ様が今回の依頼を受けてくださらないのであれば、私はご依頼をお断りせざるを得ません。ご満足いただける解決手段を提供できませんので」


 ノワールはキララの方へ向き直った。


「キララ様、今回の『星ノあかり様のボディガード』というご依頼、受けてくださいますか? 報酬は、500万クレジット相当の商品割引でいかがでしょう」


「いいよ、女の子に粘着PKしてるストーカー野郎をコテンパンにしてあげる」


「ちょっと待ってください!」


 ヤマモトは声を上げた。


「……まず、キララさんのステータスを見せていただけますか?」


「ん? 別にいいけど」


 キララはホログラムのステータス画面を表示し、ヤマモトとあかりに見せた。あかりはそれを見て大きく目を見開く。ヤマモトも驚愕の様子を隠せなかった。


 キララ Lv4  ID:killerla


「レ、レベル4!? 冗談じゃありません! ノワールさん、ご相談に乗って頂いたのに申し訳ありませんが、今回は別の傭兵派遣クランを当たらせて頂きます! 行きましょう、あかりさん!」


 そう言って出口の方へ歩いていこうとするヤマモトを、あかりは止めた。


「ヤマモトさん……多分、キララさんなら大丈夫だと思います……」


「あかりさん!?」


 あかりは恐る恐るキララを見つめた。何かに気づいた様子のあかりに、キララは薄っすらと笑みを浮かべた。


(キララさんのこの『killerla』というプレイヤーID……! 私はこの人を……いや、この方を知っている! もし彼女がなら……!)


「どうする? 私は依頼を受ける気満々だから後は君たち次第だよ?」


「ヤマモトさん、お願いします。ここは、キララさんにお任せしましょう」


 そういってヤマモトを必死に見つめるあかりに、ヤマモトは渋々折れた。


「……あかりさんがそうおっしゃるなら」

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