第13話 粘着PK 6
キララはノワールに連れられて、立派な扉の先の応接室に入った。部屋の中には既に2人のプレイヤーがソファーに掛けていた。
一人は、キララも見たことがある有名人だった。大人気ネットストリーマー、『星ノあかり』。至る所に星の意匠が施された可愛らしい衣装に身を包んでおり、濃紺のショートボブに青い瞳をした美しい少女だ。
もう一人は、スーツとメガネをした真面目そうな男だった。
キララとノワールが部屋に入ってくると、2人はソファーから立ち上がる。
「お待たせ致しました。お初にお目にかかります、『鉄靴の魔女』会長のノワールと申します」
「は、はじめまして。ゴジロクジネットストリーミング所属ストリーマーの星ノあかりです。今日はよろしくお願いします」
「同じく、ゴジロクジネットストリーミングのヤマモトです。本日はよろしくお願いします」
ゲームの中とは思えない仰々しいやり取りに、キララは肩を竦めてみせた。
ヤマモトがキララの方をちらりと見る。あかりも、キララのことを怪訝な目で見つめた。
「あの、そちらの方は……」
「キララ」
キララはぶっきらぼうに挨拶をした。
「あかり様、ヤマモト様。こちらのキララ様こそが、本日私が是非ご紹介したいプレイヤーの方なのです」
ノワールの説明に、あかりとヤマモトは顔を見合せた。
「そうですね、では、まだ事情をご存知ないキララ様のため、そして状況の再確認のために今何が起こっているか教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
◆◇◆
4人が小さなテーブルを挟んでソファーに座ると、メイド達が現れ、紅茶と茶菓子をテーブルに並べた。カロリーや栄養バランスを気にしなくていい仮想の食事は、VRMMOの醍醐味の1つだ。キララは、SOOで初めての食事に遠慮なく手をつけることにした。
キララが紅茶を飲み始めると、あかりが話を始める。
「先月の終わりごろから、この1ヶ月ほどの間、とあるプレイヤーに粘着PKをされています。私の今のレベルが65なんですけど、そのプレイヤーのレベルは90で、襲われると勝ち目がありません。そのプレイヤーは、私が配信を始めるとすぐに私の元に現れて、襲いかかってくるんです。配信直前まで配信内容を伏せて、配信中もマップなどが配信画面に写りこまないようにしているんですけど、それでも場所を特定されて襲われてしまいます」
粘着PKは普通のPKと異なり、特定のプレイヤーを執拗に付け回して襲い掛かりキルをする行為だ。PKが許可されているゲームでも、多くの場合、粘着PKは悪質な迷惑行為として認識されている。
キララの目に映った星ノあかりは、お世辞にも喧嘩が強そうなタイプには見えなかった。キララは熱い紅茶に舌鼓をうつ。
「……ここ最近の配信は、あかりさんがひたすら粘着PKに倒される映像を流すだけのものになってしまっており、ファンからの苦情や心配の声が多く寄せられています。このままでは、あかりさんにSOO配信を一時休止して頂くことになってしまいます。しかし、あかりさんのSOO配信は、『星ノあかりのメインコンテンツ』と言えるほどの大きな人気があり、会社としてもSOO配信を辞めて欲しくありません」
キララは耳を傾けながらクッキーを頬張った。
「どうか、粘着PKから守って頂けないでしょうか。私、SOOの配信を辞めたくないんです。SOOの中で手に入るものなら、どんなものだってご用意します! どうか、助けてください!」
そう言ってあかりは立ち上がり、深々と頭を下げた。
「私からも、どうかよろしくお願いします」
同じようにヤマモトも立ち上がり、頭を下げる。キララは二人が頭を下げている隙に、ノワールに『待て』とハンドサインを送った。
キララはクッキーを飲み込むと、口を開いた。
「ねぇ、じゃあさ、報酬として私とフレンド登録してよ」
「へ?」
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