第2話 初心者狩り 2
女店主はカガミが持ってきた電子機器のスクラップを買い取った。カガミはもう店に用はなかったが、この少女が何を売るのか気になったので、戸棚の商品を見るフリをして少女と女店主の会話に耳を澄ますことにした。
すると、白い少女が無表情のままくすくすと笑い出す。
「くすくす、お兄さん。そんなに気になるなら、もっと近くで見れば?」
「ぐっ……!」
白い少女は少し横にそれて、カガミの分のスペースを開けた。カガミは顔を赤らめながらバツが悪そうにカウンターに戻ってきた。そんなカガミを見て、女店主は思わず噴き出してしまう。
「ぷっ……す、すいません。あのカガミさんが、初心者の女の子に踊らされてると思うと……つい」
「っ……ふん! そもそも、あんたが本当に初心者かどうか怪しいけどな!」
カガミと女店主は、少女の装備品を見て『おそらく初心者だろう』と考えているだけだ。初期装備を着た上級プレイヤーが2人をからかっている可能性はある。
白い少女はその答えとして、自分のプロフィール画面を2人に見せた。
「キララ、Lv1……プレイ時間……1時間30分!? 本当に初心者だったのか……!」
「SOOはデバイスの生体登録情報とアカウントをリンクさせているので、サブ垢が作れない……つまり、キララさんは正真正銘の初心者ってことになるっスね」
「そゆこと。残念だったね、お兄さん」
そう言って白いツインテールの少女、キララはまた無表情のままクスクスと笑った。カガミは怒ってそっぽを向いた。
「さて、キララさんは何を売りたいんすか?」
「これ」
そう言ってキララがカウンターに並べたものを見て、二人は目を疑った。
「……キララさん、失礼ですが、このアイテムが何なのか本当にお分かりっすか?」
「アイテムドロップ率増加アンプル。初心者しか入手できないけど需要は無限大。だからとんでもない値段で売れるって聞いた」
キララは当たり前だと言わんばかりにそう言いきって見せた。カウンターに並べられた5本のアンプルを見て、カガミは頭を抱えた。
「今の相場だとそうだな……アンプル1本につき150万クレジットはくだらないだろう。つまり、それだけ貴重な品だということだ、悪いことは言わない、売るのはやめておいた方がいい」
「たったの、150万クレジット?」
キララは目を細めて見せた。
「キララさん、150万クレジットは大金っスよ。それだけのクレジットを集めようとすると、1番効率がいい金策ダンジョンを、みっちり1時間は周回する必要があるっス」
キララは首を横に振った。
「私は150万クレジットの価値を疑ってるんじゃなくて、アンプルの価値を疑ってるの」
これが、そんじゃそこらの初心者のセリフであったらカガミも女店主も耳を貸さなかっただろう。しかし、キララは明らかに他の初心者とは違うオーラを放っていた。
(ただでさえ無茶な値段で取引されているドロアンプルを、これ以上高く売る方法なんて存在するのか?)
カガミは顎に手を当てて考えた、二人が悩んでいるのを見てキララは口を開く。
「ヒントを出してあげる、紙とペン、貸してくれる?」
「チラ裏でいいなら、どぞ」
カガミは、ヒントなんぞに頼ってたまるかと、意地を張ってそっぽを向いた。キララはチラシの裏にペンを走らせていく。ヒントでカラクリを理解した女店主は、思わず手を叩いた。
「あぁ! あっ……なるほど! 確かにそれなら相場より高く売れるかもしれないっス! 160万、いや、170万は堅い! なるほど、勉強になります」
「くすくす、お兄さんも、意地張ってないでヒントを見たら?」
「そうっスよカガミさん、いい加減降参したらどうっスか? これでハッキリしました、キララさんは正真正銘の天才プレイヤーっス、張り合っても仕方ないっスよ」
「くっ、こっちにだって上級者としてのプライドがあるんだ! そう簡単にヒントなんか─────」
結局、10分考えても分からなかったのでカガミは歯ぎしりしながらそのヒントを見た。しかし、ヒントを見たカガミは穏やかにキララに向き直った。
「……あんた、初心者狩りを目撃したのか」
それまで無表情を貫いていたキララの口角が、ほんの少しだけ上がる。
「正解。お兄さん、やっぱり上級者だね」
キララがペンを走らせた紙にはこう書かれてあった。
証明書
私、キララは自らの意思でこのアンプルを売却したことを、ここに証明します。
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