アサシンガール・オンライン~天才美少女暗殺者は悪質プレイヤーをわからせます~
酒春
初心者狩り編
第1話 初心者狩り 1
「ギャハハハ! マジ弱っえええ!」
男は死体になった少女のアバターを踏みつけた。少女は男を睨む。
「卑怯者! 初心者狩りして何が楽しいのよ!」
少女のレベルは1、対する男のレベルは40。どうやったって覆らない戦力差に、少女はなすすべもなく倒されてしまったのだ。少女の仲間のプレイヤー達も、男の仲間の高レベルプレイヤー達に瞬く間に倒されていく。
「スターオーシャンオンラインじゃPKは日常茶飯事だぜ? 俺たちはそれを初心者のお前らに教えてやってるのさ。まぁ、愛の鞭ってやつだな」
「うひょー! 団長、優しい〜!」
「何よ! 高レベルプレイヤーと戦うのが怖いだけのくせに!」
男達はゲラゲラと笑った。
「何よ! だって~ かわいい~。こんなゲームやめて、あふれるアニマルの林でもやってたらどうだ~?」
「それになぁ、お嬢ちゃん、俺たちだってリスクを背負って初心者狩りやってんだぜ~?」
「リスクですって!?」
少女は歯ぎしりしながら男を睨んだ。
「そうだとも、
「ま、そんなことありえねーんだけど。ギャハハハハ!」
下卑た笑い声を上げながら、男達は少女達の死体を物色し始めた。SOOでは、キルしたプレイヤーの死体からアイテムや装備品などの一部を奪うことができるのだ。男は3本のアンプルを少女から奪い取ると、それを掲げた。
「くぅ~コレコレ! この『アイテムドロップ率増加アンプル』が、トッププレイヤーの連中にそれはもうとんでもない値段で売れるのよ!」
「ドロアンプルは、初心者限定ログインボーナスでしか入手できない貴重品なのに需要は無限大だからなぁ!」
「初心者から奪ったドロアンプルを売って、その金で良い装備を買う! これこそSOOの必勝攻略法!」
「初心者に攻略法を教えてあげるなんて、俺たち優しい~!」
そんな初心者狩りの現場を、岩陰からひっそりと覗く少女が居た。白いツインテールが揺れる。
「どのゲームにも悪い奴は居るんだね」
ぽつりとこぼした白い少女は、ひっそりとその場を離れた。
◇◇◇
スターオーシャンオンライン、通称
武器をとってモンスターと戦うもよし、宇宙船を買って運び屋になるもよし、都市に店を開いて商店主になるもよし、悪人になって悪事を働いてもよし。何をしても許される自由のゲーム、それがSOOなのだ。
そんなSOOでプレイヤー達が初めて訪れる街である『自由都市フリード』は、リリースから3年が経った今でもプレイヤー達の活気に溢れていた。
「君、初心者かい? SOOにようこそ! どうだいこの光線銃! SFっぽくて最高だろう! 安くしとくよー!」
「初心者応援パック! 回復アンプル10本セットで1200クレジットだ! 安いよ安いよ!」
初心者が多い街ということもあり、華やかな商店が並ぶ大通りは沢山の初心者達で賑わっていた。
(何が『初心者応援パック』だ。アイテムの相場を知らない初心者をカモにしてる悪徳商人共め)
フードを被った黒ずくめの男は、大通りに並ぶ店を睨むと足早に路地へ消えていった。迷路のような暗い路地を、男は迷わず歩いて行く。しばらく歩くと、男は『まねきねこ』と書かれた看板がかかった小汚い店へと入っていった。
店の中は強烈にタバコ臭く、壁に据え付けられた棚に用途不明の物が大量に詰め込まれていた。
「らっしゃっせー」
気の抜けた声が店の奥から聞こえてくる。男がフードを脱ぐと、目つきの悪い黒髪の青年の顔が現れた。青年は店のカウンターに大きな箱を置く。
「買い取りを頼む」
カウンターの下から店主が顔を出す。ヨモギ色のボサボサのショートカット、同じくヨモギ色の猫耳、気だるげな三白眼の下には酷いクマが出来ている。やる気のなさそうなお姉さんだ。
「はいはーい、買取っすねー……ところで、そちらはお連れさんですか?」
そう言って、女店主は青年の後ろに立つ少女を見つめた。青年は慌てて振り返る。
そこには、白いツインテールを揺らす美しい少女が立っていた。無表情な緋色のジト目、透けるような白い柔肌。初期装備を装備しているところを見るに、おそらく初心者なのだろう。
白い少女は首を横に振り、コロコロと可愛らしい声で喋り始めた。
「ううん、そのお兄さんとは初対面だよ。私が勝手に付いてきただけ」
「付いてきた? 俺の事を尾行していたのか? 全く気づかなかった……」
「へぇ、カガミさんが尾行に気づかないなんてこと、あるんすね」
カガミと呼ばれた青年は情報屋、しかも凄腕であった。職業柄、尾行をすることもされることも多いため、その手の技術には心得があったのだが、カガミは少女の尾行に気づけなかった。カガミは少女を怪訝な目で見つめた。
「お兄さん、上級者っぽかったから尾行しちゃった。ごめんね」
そう言って少女は無表情のまま『てへぺろ』をして見せた。一切謝意は感じられない。
「俺が上級者に見えたのか? 俺は見るからにみすぼらしい装備をしていると思うが」
カガミの黒ずくめの装備は、コートからブーツの紐に至るまで何もかもがボロボロでみすぼらしかった。お世辞にも上級者には見えない。
「そうだね、でも、お兄さんだけは一切マップを見ていなかった。他のプレイヤーは、みんなこうしてマップを見ながら歩いてたのに」
少女がそう言って指を一振すると、ホログラムのマップが現れた。まるで迷路のように複雑なマップだ。この迷路をマップに頼らず歩けるのは、マップを知り尽くしている上級者くらいだろう。カガミは頭を抱えた。
「……よく観察しているな。確かに俺は大きな都市のマップはほとんど全部覚えてる。次から街を歩くときは、マップを見るフリをするよ」
「それがいいね」
「なぜ俺を尾行したのか聞いても?」
「上級者のお兄さんなら、いい店を知ってるかもしれないでしょ? 初心者をカモにしてる大通りの店にぼったくられたくはないからね」
カガミと女店主は呆れて顔を見合わせた。なんだこの初心者は……と。
「お姉さん、凄いっすね。まさかあの罠を自力で回避出来る初心者が居るなんて」
「大通り周辺には、相場の3倍程の値段でアイテムを初心者に売りつける悪徳商店しか並んでいない。店同士が結託して価格を上げてるから、大抵の初心者はアレが相場だと錯覚してしまう。本当によく気づけたな」
「確信はなかった、多分そうだろうなって警戒してただけ。……それよりお姉さん、ここはいいお店?」
そう言いながら、白い少女はカウンターに歩み寄った。
「別に、どこにでもある普通の何でも屋っスよ」
「それはいいね。……お兄さんの後でいいから、私も買い取って欲しいものがあるんだ」
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