本棚と押し入れは口ほどにモノを言う

桃波灯紫

本棚と押し入れは口ほどにモノを言う

 世間はゴールデンウイーク。御多分に漏れず俺も5月に沸いて出た休みを満喫している身だ。


 久しく会っていなかった友人と遊びに行ったり、まとまった休みを活用して遠出をしてみたりと平日よりも忙しい日々を送っている。


 しかし、二日の平日を経ていざGW後半戦……といったところで俺は実家に呼び出されていた。


 場所は私室。部屋の四辺を覆う本棚、目の前の押し入れと相対する。


 母から「お前の部屋を片付けろ」とお達しメールがあったのだ。なお、綺麗になった部屋には父親の巨大な望遠鏡が置かれるらしい。


 面倒くさいとは思いつつ、どこから始めたものかと考えながら部屋を見回す。


 ――やはり、魔の押し入れからだろうか。何が入っているのか俺自身よく分かっていないのでどれくらい時間がかかるのか未知数である。

 

「よし、やろう」




「休憩!」

 スマホを取り出して時間を確認。掃除を開始してからおよそ二時間が経っているようだ。


 それなりに時間がかかったが、押し入れは空っぽになった。


 記憶にないオモチャや小学生の時の教科書など多彩なものが入っていたが、ほとんど捨ててしまっていいと思えるモノばかりである。


 しかし、例外もある。


 俺は足元に置いておいたダンボールに目をやった。


 ずいぶんとくたびれたダンボールだ。角は丸まっているし、ガムテープは捲れ気味で粘着しているのは半身くらい。


 押し入れの中にあったのでもちろん埃をかぶっている。


「開けてみるか」

 母から貰ったペットボトルのお茶に口を付けたのち、ガムテープに手を伸ばす。


 休憩もかねて中のモノを確認するのもいいだろう。これくらいなら座っても容易い。



「なっつ……」

 思わずそんな言葉が突いて出る。掃除の合間、何の気なし開けたダンボール。そこには懐かしい本が詰められていた。


 『黒魔女さんが通る』が十数冊、『デルトラクエスト』が全巻、『若おかみは小学生』が十数冊。


 つまり、このダンボールは俺が小学生か中学生ごろのモノということだ。


 ふと、一年位前に『黒魔女さんが通る』が完結したとネットニュースで見たのを思い出した。


 何となく懐かしい気持ちになると同時に、「もう俺22の歳なんだが……」とショックを受ける。


 ――そういえば、石崎洋司先生が新作を出したらしい。紫式部がJKに転生した的な話だったと思う。


 児童小説までもなろうの流れが来ているかと思うと時代は変わったのだなと痛感できる。


「あ」

 そんな思いを噛み締めているさなか、ふと四辺の本棚の存在を思い出した。


 この部屋は俺が大学に進学するまで使っていた。当時買った本はほとんど置いていっている。


 見回してみれば心躍る本たちが並んでいた。


 初めて買ったラノベである『ソードアート・オンライン』。おそらく二シリーズ目の『デュラララ!!』。当時金賞を受賞した『ひとつ海のパラスアテナ』。


 SAOの一巻を読んだのが確かアニメ二期の1クール目がやっていた時だったと思う。アニメを偶然見て、小説を買ったはず。


 『絶対なる孤独者』の新刊が出ていないのを思い出す。『アクセルワールド』は一、二か月前くらいに出たのだが。


 『デュラララ!!』はアニメも全部見た。というか『デュラララ!!SH』の続刊待ってるんだけど。


 『ひとつ海のパラスアテナ』は三巻で終わったのが残念だった。両親を探す的な話だったのが、明らか打ち切りエンドだったはず。


 初めての異世界転生モノだった『この素晴らしい世界に祝福を!』も並んでいた。


 大学生になってから短編集の三巻目が出たのでしっかり読了済み。一人暮らしの部屋に置いてある。


 高校生で初めて小説を書いた時、このすば的なギャグ感を演出しようとしてサムい話しか書けない時期があったような……

 

 大衆小説の一冊目となった『舟を編む』も思い出深い。歯医者の待ち時間、置いてあったのを適当に開いたらハマってしまった。


 そこから『みかづき』や『ツバキ文具店』やらと手を伸ばし、エンタメ小説にも行って『水鏡推理』や『喫茶タレーランの事件簿』、『櫻子さんの足元には死体が埋まっている』等にも触れた。


 そんな思い出が湯水のごとくあふれ出し、懐かしさと嬉しさと寂しさがごちゃ混ぜになったような感情に支配されてしまう。


 当時は月何千円かのお小遣い生活であり、すべてを買うことはできなかった。図書館で借りたり、司書の先生に希望を出して図書室に置いてもらったり、いろいろ苦心していた気がする。

 

「――買っちゃうか」

 突如の閃き、掃除への意欲はどこかへ消える。

 

 バイトの給料がたんまりある。大人買いなど容易いし、中古ならもっとだ。


 とりあえずヤフオクを開く。


「何がいいか……」

 

 スマホ片手に唸ること数分。閃いた俺はスマホをタップ。


 『IQ探偵ムー』にしよう。中古でも全部揃うかもしれない。


 既に読んだことのある本だ。何回も図書室で借りて読み返した本だ。しかし、いつも本屋に行く以上のワクワク感を感じずにはいられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本棚と押し入れは口ほどにモノを言う 桃波灯紫 @sakuraba1008

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ