第11話 メスガキ先輩はビジネスチャンスを逃さない/吹尾奈(好感度1)
現在、幻影寮には俺以外に3人の生徒が住んでいる。
〈探偵王女〉詩亜・E・ヘーゼルダイン。
その助手にしてメイド、カイラ・ジャッジ。
そして最後の一人が――
この競争の激しい真理峰探偵学園で、1年も生き残った2年生。
俺たちからすれば、紛れもない先輩である。
正確に言うと、俺を含めたこの4人以外にも、入居者が2人ほどいるらしいんだが、長い出張捜査に行っているらしく、俺は入学以降、一度も会ったことがない。
そういうわけで、万条吹尾奈先輩こそが、現状の幻影寮における最年長になるわけだが――
「メイドちゃーん! アイスー!」
「今日はすでにひとつ食べられたはずでは」
「1日にアイス2個食べたっていいじゃん! ケチー!」
小学生みたいにちっこい先輩が、小学生みたいに畳の上でじたばた駄々をこねている。
これが最年長の姿か?
ただでさえ一番幼い見た目をしているのに、これではまるっきり子供だった。
……パンツも見えてるし。
俺はそれとなく視線をそらし、端末をいじっているふりをする。
この寮には絶世の美少女である探偵王女もいれば、無表情で大胆なことをしてくる褐色肌のメイドもいるが、一番刺激が強いのはこの小さい先輩だった。
フィオ先輩(こう呼ばされている)の格好は、キャミソールにぶかぶかのパーカーを重ね、下は太ももが見えるくらいのプリーツスカート。
そんな服装でじたばた手足を動かしているもんだから、俺の角度からはプリーツスカートの奥に隠されていたピンク色の布地が丸見えなのだった。
とにかく無防備っつーか、なんというか……。
わざと見せてるんじゃないかって疑っちまうくらいだ。
ぱっと見は小学生みたいなもんなんだから、気にしなけりゃいいって考え方もあるんだが、下着は全然子供のそれじゃないんだよな、この人……。
「アイスくれないと、メイドちゃんの恥ずかしい秘密ばらしちゃうよ~?」
「恥ずかしい秘密とは?」
「洗濯をしてる時に――」
「仕方ないですね」
折れるの早っ!
カイラ……何の心当たりがあったんだ……。
カイラが冷蔵庫からバニラ味の棒アイスを取ってくる。
フィオ先輩は上半身を起き上がらせてそれを受け取ると、袋をピリッと破って、白色のアイスを取り出した。
――と。
一瞬、俺の方を見た。
なんだ?
目だけで笑ったように見えたが……。
俺が疑問に思ったのも束の間、フィオ先輩は白い棒状のそれに、赤い舌を這わせる。
「……んっ……」
根元の方からつうっとなぞるように、小さな舌がアイスの表面を這い上る。
あんな……食い方だったっけ?
さっきは普通にバリボリ噛み砕いてたような……。
「れろれろ……」
フィオ先輩はアイスの先端をほじくるように舌を動かした。
どうしたって淫猥でしかないその動きで、俺はフィオ先輩の意図に気付く。
「ふふっ♥」
フィオ先輩も気づいた。
俺が気づいたということに。
意味ありげな流し目を俺に送ってきたと思うと、フィオ先輩は頬にかかる髪を耳にかきあげた。
そして、バニラの棒アイスを、そうっと口に含む。
「んっ……んっ……」
すぼめた唇に突っ込まれた棒アイスが、ゆっくりと出たり入ったりを繰り返した。
鼻から漏れる息さえも、悩ましいものに聞こえる。
俺は心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、後ろ暗い気持ちでそれを盗み見ていた。
「んーっ……――あんっ、冷たっ」
フィオ先輩の小さな唇から、溶けたバニラの雫がこぼれた。
それはキャミソールから覗く胸の膨らみの上に滴り、つうっと曲線に沿って形を変えて、黒々とした谷間の中に流れていく。
フィオ先輩は自分の胸元を見下ろして、
「汚れちゃったぁ……。――ねえ、後輩クン?」
急に俺の顔を見つめて、毒々しい花のように微笑んだ。
俺は身を固くする。
それを逃がすまいとするかのように、フィオ先輩は畳の上をにじり寄ってきて、
「フィオね? 手が塞がっちゃってるからぁ……」
いや、アイスを持ってない方の手は空いているのでは。
というツッコミをするよりも早く、フィオ先輩は自分のキャミソールの胸元の、ちょうど谷間のところに指を引っ掛けて、
「後輩クンが、拭いてくれる?」
少しだけ、下に引っ張った。
そういう習慣なのか、当たり前のようにノーブラで、ずれたキャミソールの襟から乳首が見えてしまいそうだった。
白い膨らみにさらなる純白の斑点を作っているアイスの雫は、こうなってはいかがわしいものにしか見えず――
俺の頭は一気に熱暴走を始め、思考がぐるぐるとまとまらなくなった。
拭くって、ティッシュで? タオルで? いや指じゃないと谷間に入らなそう。いやいやおっぱいは柔らかいんだから手だって他のものだって柔らかに受け入れてくれるはず――
「――何を、しているんですか……?」
俺をクールダウンさせてくれたのは、いつのまにかフィオ先輩の背後に立っていたカイラだった。
その無表情の顔からほとばしっている、阿修羅像のようなオーラだった。
「あ、やべ」
フィオ先輩は短いツインテールを揺らして背後を振り返り、にへらと愛想笑いを浮かべる。
そして、
「逃っげろ~♪」
バニラアイスを片手に持ったまま、素早く楽しそうに居間から逃げていった。
カイラはフィオ先輩が消えた障子を睨みつけ、俺は緊張から解放されてため息をつく。
あの人はまた、妙なからかい方をしやがって。
おかげで、あの淫靡な舌の動きが、アイスを咥えた唇が、白い雫が落ちた胸元が、頭の中に焼き付いて――
「――あ、そうだ」
逃げたはずのフィオ先輩が、障子からひょっこりと顔を出した。
「後輩クン。使用料は1000円ね♥」
にやっといやらしく笑った顔が、またすぐに障子の向こうに引っ込む。
使用料って……な、何の話だか……。
わけのわからない風を装った俺を、カイラがじいっと見つめた。
「わたしならタダですよ」
「……自分を安く売るな」
この寮で気を遣ってんのって、もしかして俺だけなのか?
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