第6話 終わらぬ殺し合い

 戦闘が終わり、戦闘場所から離れるべく森の中を進んでいるが、戦闘後という事もあるのだろう、重い雰囲気が立ち込めている。そのせいか、ここまで大体十分程度歩いているが誰も口を開かない。だが、今後について話す必要があるため、歩きながら私が皆に話しかける。


「戦闘があって疲れていると思うが、今後について話そう。」

「そうしましょう。まずは飲める水の確保ね。フェート、あなたの作る水は飲めますの?」

「ええ、飲めますよ。私の『水の世界シュレイド』は水の性質を変化させられるので、おいしくもできるのです。」

「それなら安心だわ。後は食糧ね。動物を捌く魔法を使える人はいるかしら?」


 スターがそう聞くが誰も答えない。


「そう。誰もいないのなら仕方ないですわね。魔法で火はおこせても、動物を捌けないならお肉を手に入れるのは難しそうですわね。後思いつくのは、果物ぐらいですわね。」


 確かに、私たちには動物を食すための知識が足りていない。下手に処理をして、体調を壊してしまっては元も子もないからな。

 さて、どうしたらいいものかと考えていると、それまで私たちの話を聞くだけだったラームが口を開いた。


「私に少々考えがあります。『飛行魔法』で、このあたり一帯を観察してきてもよろしいでしょうか。」

「ああ。ただし、この森に魔族がいないとも限らない。そのため、『魔力探知』の発動を探知したらすぐに引き返せ。飛行時間もなるべく短くだ。」

「承知いたしました。では、行ってまいります。」


 ラームはそう言うと、『飛行魔法』を発動し上空まで浮かび上がり、周りを偵察し始めた。『飛行魔法』は基礎魔法の一つであるが、『防殻魔法グラン』と違い子供である我々が多用する魔法ではなかった。そのため、ラームは空中ではあまり自由に動けていなかった。

 そんなことを考えていると、ラームが地上に降りてきた。


「ライン様。近くに村と思わしき場所を発見しました。」

「おお! 素晴らしい。では、そこで食料の調達をしよう。」

「ライン、私たちには金銭がありませんのよ? どうやって食料を確保するつもりなのかしら。」

「スター、ここは私たちの国ではない。つまり、その村にいる人間も我らの民ではないのだよ。なら話は簡単だ。略奪だよ。ただ、町まで逃げられて兵士を呼ばれても困る。だから、今回は完全包囲で結界を張るのが一番いい。皆、それでいいかい?」


 私の話を聞き、フェートとラームはうなずいていた。スターも少し迷っているようだったが、最後には頷いてくれた。


「そうね。ここは私たちが守ってきた土地じゃない。それに、私たちが守ってきた民たちはもうほとんど死んでしまったものね。」


 そう。ここはすでに他国であり、領主の一族である私とスター、領主を補佐する一族のフェートとラーム、それぞれが守ってきた民はもういない。彼らは魔法解放軍と魔族によって死んでしまったのだから。


 「そうと決まればラーム、村まで案内してくれ。それと、三人は『結界魔法』の準備をしてくれ。今回は私が村人を殲滅しよう。私の魔法なら、物の破壊は最小限に収まるからな。」

「ライン君、一人で大丈夫? 私の魔法でも村人程度なら簡単に殺せるよ?」

「水を生み出せるフェートの魔力は貴重だからな。今は温存しておきたい。」

「そーゆーことね。わかったよ。」


 私がフェートの質問に答えると、フェートはうなずいた。その後、私たちはラームについていき村を目指した。おおよそ二、三十分歩くと村が見えてきた。『魔力探知』によって村の規模は小さく、村人の数は三十四人であることが分かる。魔法使いはいないようだが、ここに来るまでの間に馬車が通るような道があったことから、周囲との交流はあるようだ。

 村を囲む柵は木でできているが、村を守る門番のような者が持つ槍の矛先はおそらく鉄だな。鉄を手に入れているという事は、ある程度の物資はそろっているとみるべきだろう。


「私が村の中で魔法を使ったら、村を囲むように対物結界を張ってくれ。後は私がやろう。終わったら『侵食する粘性体ベルゼ』を向かわせる。見つけたら対物結界を解除して村の中央に集まってくれ。」

「わかりましたわ。」


 そういうと三人は村を囲うように散会した。

 さて、作戦を考えるとするか。まず、『侵食する粘性体』で門番を操り人形にすることで村に侵入し、村の中央で魔力を開放する。私の魔法は、自身の魔力を『侵食する粘性体』に変換する魔法であるため、自身の魔力があるところであれば自由に『侵食する粘性体』を生み出せる。

 それによって村中に『侵食する粘性体』を生み出すことで村を制圧する。この作戦で行こう。門番は万が一に備えて、私の近くで護衛として配置しよう。


 私はそう作戦を立て、その通りに実行すべく門番の前まで歩いていく。


「ん? こんな所まで来てどうした。どっかの商人の子供か? この辺りに魔物はあまり出ないが、、一人で出歩くもんじゃないぞ。こっちに来い。ここで一緒に親が来るまでまとう。」


 それは、好都合だ。そうさせてもらおう。そう思い私は門番のすぐ近くまで近づいた。


「お前どっか「『侵食する粘性体』」ら。」


 私は魔法を発動させ、門番を『侵食する粘性体』によって浸食させた。門番は魔法使いではないので、すぐに『侵食する粘性体』に侵食され、私の命令に従う人形となった。それと同時に、スターたちによって対物結界が発動されるのを感知した。


「さて、あとは村人だけだな。ついてきて私を護衛しろ。」


 私は門番だったものに命令し、私を護衛するように命じる。その命令に応じるように、私の後ろに門番は付き従った。

 それを確認すると、私は村の中央まで歩き、魔力を開放した。このように解放した魔力の範囲を魔力圏と呼び、私のような魔法使いは、この魔力圏において自由に魔法を使うことができる。

 私は、先天的な魔力が多く、魔法によって魔力量の底上げをしているため、一般的な魔法使いよりも魔力量が多い。そのため、この村を覆う程度である、半径五十メートル程度であれば容易に魔力圏とすることができる。


「魔力圏にいるすべての人間を侵食せよ。『侵食する粘性体』。」


 私は魔力圏にいる三十三人の目の前に『侵食する粘性体』を生み出し、体に接触させることで体内に侵入させ、その身を侵食させた。

 あとは、侵食が終わるのを待てばいい。私はそう思い、『侵食する粘性体』にすべての侵食が完了したら、仲間たちのもとに向かうよう命令した。そして魔力圏を普段の範囲にまで縮小させた。

 少し疲れたな。私は少し何かに寄りかかりたくなり、民家の一つに入り椅子に座った。


「ここまで長かったな。いや、大した時間は経ってないか。この後のことも考えなくてはな。だが、少しばかり疲れた。」


 私はそうひとりで呟くと、椅子に寄りかかりながら天井を見上げた。眠りから覚めて数時間しかたっていないが、御者との戦いもあってかなりの疲労が溜まったのだろう。そんなことを考えながら、私は目を閉じた。



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