第4話 目覚めと戦闘

「お前たち、起きろ。」


 突然大きな声が聞こえ驚いたが、魔法によって眠らされたことを思い出した。先ほどの声は、この辻馬車の御者のようだ。周囲の様子を把握しようと辻馬車から周りを見ると、見える景色は木ばかりの森であった。そのため、ここがハイトの森だと推測した。周りにいた仲間たちも今の状況を把握し、外を観察しだしていた。


 その他の状況を確認しようとして、最初に気が付いたことは手の縄が外されているという事だ。周りに縄がないことから、馬車に乗る際に外されていたのだろう。そして、周囲にいる人間は、御者が一人と私たち九人であった。おそらく、馬車は部屋ごとに国外追放を選んだものを運んだのだろう。しかし、追放先は同じではないだろう。人数が多いほど生き残る可能性が高くなるのは、奴らでもわかることだからな。そんなことを考えていると馬車が止まり、御者が話しかけてきた。


「馬車から降りろ。ここからは歩いていけ。」


 ぶっきらぼうにそういうと、早く馬車から降りろと言わんばかりに手を振ってきた。そんなことを言われても、まだ食料と金を受け取っていない。そう思った私は御者に言い返した。


「まて、私たちはまだ食料と銀貨を受け取っていない。それをもらわぬ限り、ここからは離れられん。」

「降りたら渡す。」


 御者はそう言って、食料と銀貨が入っていると思われる袋をもって御者席から降りた。その行動に対して、仲間の数名が御者の言葉に従い馬車を降りだした。私もこの場は反発せずに、御者の言葉に従う方がよいと考え残りの仲間に目配せをして馬車を降りた。

 早々に馬車を降りた数名が御者の方に近づくと、その御者の体を魔力が覆った。魔法が使われる。私はそう思うと同時に、声が出ていた。


「防御魔法を展開しろ!」


 その言葉を聞いて、私の周りの仲間たちは基本魔法である『防殻魔法グラン』もしくは得意魔法に防御術式を組み込んだオリジナルの魔法を展開した。魔法は基本的に専用の基礎魔法を使用するか、専用魔法の術式を別魔法に組み込んだオリジナル魔法の二種類で分類することができる。基礎魔法である『防殻魔法』は初めに習う魔法の一つであり、術者の周囲を覆うようにバリアを展開させる魔法だ。

 私もオリジナル魔法である『侵食する粘性体ベルゼ』を発動し、体を覆う魔力を黒色の粘性体に変化させる。しかし、前にいた仲間は魔法を発動させるのが遅れた。それによってクルトとミアが体をバラバラにされ、ベン、フランツ、パウルが無数の傷を負っていた。この三人はかろうじて『防殻魔法』を発動していたが、魔法をとっさに発動したため術式構築が甘く魔法が破られていた。


「奴の魔法は旧式の『不可視の刃クルーゲ』だ!私たちの術式は、あの魔法を克服している!皆、防御魔法を展開して密集しろ。」


 私はその様に皆に指示を出す。前方のベン、フランツ、パウルと後方のスター、ラームが『防殻魔法』を使用し、中央に私ともう一人の水系統のオリジナル魔法を使うフェートで陣形を構成した。

 魔法とは戦いの歴史そのものだ。新たな攻撃魔法が現れればそれに対処し、対処されれば新たに魔法を作り出す。それが長年繰り返されてきたのだ。御者の使っている魔法は旧式、つまり今の防御術式で完璧に防ぐことができるレベルでしかない。つまり冷静に対処さえできれば、恐れるような相手じゃない。

 そう考え、全員で密集し相手との距離を詰めていく。私とフェートはオリジナル魔法によって自身のみを防御していることから、五人による『防殻魔法』によって私たちは防御を固めている。つまり、この魔法が破られることはまずありえない。


「お前に勝ち目はない。『魔封じの鎖アウフィゲール』を受け入れろ。」


 私はそう言って降伏を投げかける。『魔封じの鎖』は相手が受け入れた場合にのみ、効果を発揮する基礎魔法だ。効果は、鎖で縛られ魔力のコントロールを失うと言うものだ。


「ふふふ。元貴族のガキどもが、それで勝ったつもりか。いつまでも自分たちが優位だと信じてるその滑稽な頭脳には感服するよ。そんな頭持ってるから、俺たちに負けたんだろうが! 『霧の刃ネールクルーゲ』!!」


 奴の周囲に、霧状の刃が十数個展開され、こちらに射出された。速度は速くないが、この状況で使ってくるという事は何かしらの策があるのだろう。そう思い、皆に防御魔法に使用する魔力密度を上げるように指示する。私も『侵食する粘性体』の魔力密度を上げる。

 そうして、『霧の刃』への対策を講じ、その魔法と『防殻魔法』が接触する瞬間、『霧の刃』は霧となり『防殻魔法』の中に侵入した。それは、これまでの常識ではありえないことだった。『防殻魔法』は全ての攻撃魔法を受け、魔法が術者に向かうのを物理的に防御するはずだった。


 その後、霧は再度刃となり私の前にいた三人を切り裂き、数本の刃が陣の中央にいる私ともう一人を襲った。前の三人は即死だった。だが幸いなことに、私とフェートが使用する魔法は自身を覆う魔力を別のものに置き換える魔法であったため、霧そのものを飲み込むことで、奴の魔法を無効化しそれ以上の被害はなかった。それにより後続に魔法があたることはなかった。


「ちっ。全員俺の背後に!奴の術式は『再変換』だ!」


 私の魔法である『侵食する粘性体』は、取り込んだ魔法の術式を覗き見ることができる。それによって、奴の魔法が魔法を一度分解し再度魔法に変換するものだと見破った。それに対処するには、私かフェートが霧そのものを飲み込み無効化するしかない。


「フェート、全員を防御しろ。魔法が来てもすべて飲み込んで大丈夫だ。毒の類は組み込まれていない。私が奴を片付ける。ベン、フランツ、パウル恨まないでくれよ。」

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