第96話 セーラー服と重機関銃
いやまあ、学院の制服はセーラー服じゃないですが。
制作予定の機関銃もグリースガンじゃないですし……
今まで、ボルトアクションライフルとレピーターアクションのショットガン、そしてシリンダーの振り出せないリボルバーしか作っていなかった銃。
飛行機に載せるとなるとやはり機銃が必要になるが、そうすると携行銃も連発にしないとダメかしら? と悩んだ結果、当面は今のままでもいいだろう……と結論を出した。
「作るとしたらまぁ、M2キャリバーのコピーだよねぇ」
「ですねぇ」
「何それ?」
ブローニングM2キャリバー。天才ジョンブローニングの作った傑作機関銃。
どのぐらいの傑作かというと、1933年以降の西側諸国では、重機関銃といえばこれを指す。
それどころか、旧日本軍の戦闘機にもこの機関銃のコピーが載っていた。
更に、現在の自衛隊でも装甲車やトラックの上に載ってるのはこの機関銃である。
2021年に日本国内でのライセンス生産は終わってしまったが、米国からはまだまだ調達できる。
.50口径と呼ばれる0.5インチ、12.7mmの巨大な弾を、毎分400発から航空用なら1,200発ぐらいまで撃てる。機構は単純で丈夫、これ以上の選択肢は存在しないだろう。
以前、レールガンを開発する時にロマーノで色々なサイズの弾を作った。
その中の12.7mmというサイズは、この機関銃の口径そのものである。
「あとは爆弾かぁ。お水を10リットルも積んで水蒸気爆発させると、途中で温度が下がってもファイヤーボールぐらいにはなるかな。これプラス破片で殺傷力は相当出ると思うけど、人殺す兵器の設計はなんかなんかだわ。やっぱり……」
流石のカナでもちょっと辛いらしい。
人の命の安いこの時代、人死にはそれなりに見てきたし、自分たちの作った機械の事故で亡くなる方もそれなりにいる。
しかし、能動的に人を殺すだけの道具はやはり違うのだろう。
「あー、せめて魔物相手なら、まだやる気もでるんだけどねぇ」
実際、機銃は空飛ぶ魔物相手にはそれなりに戦えるんじゃないか? とは思う。
爆弾は……魔物を相手にするには、微妙な気がする。それこそ
「グリフォンに爆弾なんて、当てられるわけないよねぇ」
である。
「よし、爆弾は後回し。要請あったら考えるで! 機銃は魔物相手にも役立ちそうだし、なんなら輸送機でガンシップでも作っておけばそれなりに格好にはなるでしょ」
かなりカナの私情が入った結論になった。
と言っても、外観や基本動作原理は判るが部品配置やらなんやらとなると……
「じゃ、しおりん、頼んだっ!」
「いやまぁ、そうなると思ってましたけどね……」
今でも目を瞑ったまま、分解組み立てする自信のあるしおりんだった。
信頼性の担保をするためには、高精度の給弾用の
試作部品はロマーノで作るが、将来的には今
従来の弾丸よりも数段精度を高める必要があるため、製造用の機械の開発も同時進行で進めていかないとならない。
今まで、
幸い蒸気プレス機の動力には事欠かないので、頑張って作った。自動化はまだ難しかったが、真鍮板をセットして順番にプレスしていき深絞り。筒状になったら回転させてヘラ絞り。セットは人間がしないとならないが、それでも毎分一発ぐらいのペースで作れるようになった。
あとは職人の熟練と機械の数でなんとかしよう。
水の量が多すぎて
「はーい、バリアの裏側入ってー。テスト行くよー」
いつもの湖畔にいつもの面子、そしていつもの爆音。
「はい、さん、にー、いちっ」
ダダダダダダダダダダ……
『機関銃』と言われた時に想像する通りの音がする。
この辺りは砂地なので、あまりケースやリンクが散らばる音は聞こえてこない。岸から離した筏の上の『あたるくん』がガシャガシャと跳ねながら穴だらけになっていく。
「さすがロマーノ、いい精度だわ」
信頼のロマーノ工房製である。
射手はしおりん。安定感が違う。やはり訓練に訓練を積んだものにしかない迫力が……
「婦警です。機関銃とか、仕方なしにしか撃ちませんから」
本体はほぼ仕上がった。あとは何にどうやってマウントしていくかである。
まず、一番多くなるのは複座機か。機首には割とデッドスペースが有るのでそこに装備したいが、重心から離れているため全体のバランスを補正しないとならない。
主翼前縁を少々伸ばし、翼面積の増大と揚力中心の移動を主軸にモデルチェンジを図った。
少し重量増にはなったがエンジンはそのまま。ライバル機でも出てこない限りは変えなくて良いだろう。
搭載位置が胴体内部固定なので、給弾方法はベルトリンクではなく
整備時の取り付け取り外しが楽なのと、リンクがばら撒かれないので部品点数的に助かるのだ。
これで200m先の的の真ん中にレーザーを当て、機体側の照準器と合わせると、700m先で再び両者が一致する。あとは近いか遠いかで上を狙うか下を狙うか決めていく。
と言っても、コンソール魔法さんには弾道予測機能付きのディスプレイ表示させるのであんまり意味はなかったりする……コンソール魔法さん最強すぎる。
続いてガンシップ。
輸送機の左側面に銃眼を三つ設け、そこに銃座に乗った機関銃を三つ突き出す。
左旋回を続けながら、常に三つの銃座から翼の延長線上にいる敵を狙い続けられる様な配置である。
下面に回転銃座も付けようという案もあったが、回転機構や懸垂機構が面倒なので搭載を諦めた。
ガンシップ型に搭載の機関銃は、船舶向けと全く同じ物だ。給弾機構も同じ。違うのはカートリッジやリンクを集める箱がついている程度だ。
飛んでる飛行機内で、細かい部品が転がりまわるのはあまりよろしくない。
イーグルにも、改修の時に搭載することになった。
ケイの希望で右翼根本に装備する。なんか、昔の女を忘れられない男みたいになってるが、実際その通りだから誰も何も言わない。
こうして、さまざまな機種に機銃が装備され、新設された空軍の訓練が始まった。
王都付近ではワイバーンを見られなくなっているので、地上目標、水上目標を中心に訓練をしている様だ。
実弾訓練の代わりにコンソール魔法さんを使った対空模擬戦も出来たりする。
弾道予測機能を駆使して、撃墜判定も出してくれる優れものだ。
ドッグファイトとなるとイーグルはほぼチート機なので、ケイも複座型改に乗る。
それでも流石に誰にも負けない、ほぼ無敵で有る。
しおりんはケイから逃げ切ることはあるが、弾を当てるのは流石に無理だった。
「ってか、兄から逃げ切るの凄くない?」
「そんな訓練ばっかりさせられるんですよ。婦警って」
いや、それは流石に嘘だろ。誰も騙されないよ。
もっとも、敵に航空戦力ができるのはまだ当分先であろう。
おそらく、ブラスレン帝国では自国生産を想定して研究を始めてはいるはずだ。
しかし、エンジンの内製は相当に難関だと思われる。
まぁ、完成しそうになったらきっと兄は大喜びするんだろうが……
♦︎
航空戦力は揃い始めた。じゃ、地上はどうしましょう……
自動車でも、止まってたらただの箱である。剣と槍に囲まれればすぐに詰んでしまう。
自衛のため、そして馬や馬車に対抗するためにも自衛用の機関銃が必要だろうか。
積むとしたら、やはり防弾版の後ろに架台を固定して銃座にする、コンベンショナルな方式が使いやすいだろう。
装備するとなると、トラックに積むのが無難だと思われた。乗用車ではスペース的に問題があるし。
オートバイは、六連発拳銃と、
船舶だってある。
現在は 12.7cmの主砲と40mmの副砲しか装備していないが、小型の船舶に肉薄された時のために12.7mmも積んでおこうか。飛行機や車と違って、搭載場所に困らない。そのままストレートに前後左右にポンポン配置していく。
♦︎
開発と装備化はほぼ終わったが、生産に問題が出たと連絡が来た。
ロマーノで調子よく動いていた機械をそのまま下請けでも使い始めたのだが、どうもうまくいかないと。完成したケースの二割以上が不良になるとのこと。
すぐさま三人娘が飛んでいって調査をする。
生産工程は合ってる。しかし、確かに厚みの不均一や亀裂といった不良がゾロゾロ出てくる。
これはあれだ、プロを呼ぼう! とロマーノの職人を呼んでみると……
「あぁ、これですかい。これはアレだ、先に材料と機械を暖めとくんですわ」
暖めとく? 機械も?
「機械に触れたとこから温度下がっちゃうんで機械も暖めます。二百度近くまで上げないとなんないから、油使えなくて大変なんすよ」
あっはっはと笑う職人。
いや、そんな裏技使わないとなんないとか、聞いてないし! ってか、最初の設計でうまくいかなかったら教えといて欲しいです……
というわけで、製造装置を大改修することになった。
今まで四段階にプレスしていた部分を、間に三つ増やして七段階に。
更に、プレスの瞬間に魔石から熱を加えて、誰が操作しても安定した生産を可能にした。
♦︎
生産、組み立ての問題は解消した。
これで配備を進めていけば、国内的には十分以上の軍事力になるのだが、今回はこの上に帝国の問題があるわけで……
『輸出飛行機への武器装備は、数量を限定しそれを超えてはならない』
という法律が出来上がった。
初年度たる今年は十機までと決められた。
機銃付きの複座改を七機、ガンシップを三機輸出することに決まった。
それ以外に、武装なしの輸送機も五機引き渡す。
これで帝国の航空機は全部で二十機。ただし、女性魔道士を最前線で使わないでね……って、お願い付きである。
しおりんが皇帝に直接言いにいったから、多分守ってくれるでしょう。
♦︎
「はぁ……軍用品はもうお腹いっぱいだわ。平和なものが作りたい……」
「平和なものって、何? どんなの?」
「うーん……テフロンコートのフライパンとか?」
「あ、それはいいかも……料理長とか喜んでくれるかな?」
いつも美味しい食事を作ってくれる料理長に、感謝をしたいところである。
「あとはねぇ、電気アイロンならぬ魔法アイロンとか? 今は木炭入れたアイロン使ってるんだよね?」
分厚い鍋の様な鉄の塊に、焼けた木炭を入れて温めるアイロンである。正直、とても重いし熱いしで、リネン室は重労働なのである。
「魔道掃除機とかも、みんな喜んでくれそうじゃないですか?」
「よし、どうせなら円盤型の自動掃除機も作っちゃえっ! マイクロマシンさんならなんとでもしてくれるでしょっ」
処理をマイクロマシンに任せたら、大抵の機械は自動化できそうな気もしないでもない。
最近は街でも自動車やオートバイをよく見かける様になってきた。
空を見上げれば、一日に何度も飛行機が飛んでいるのが見える。
この王都に限ってかもしれないが、ここ最近十年ほどでこの世界の文明が一気に進みすぎてしまった気がしないでもない。
飛行機が初飛行してからそろそろ九年。いくら前世の知識を四人がかりで振り回しているとはいえ、もう音速の壁を超えてしまっているとか進歩の速度が早すぎる。
でも、人は慣れていくのだ。あっという間にこの機械文明に順応して、車で出かけ、飛行機で里帰りする。
男性が魔法で火をつけ、女性が空間から荷物を取り出す。
今更元の生活には戻れないだろう。
王都からロンバルディ辺境伯領まで、以前は馬車でひと月以上、下手をすると二ヶ月かかっていたのだ。
今では飛行機を使えば四時間。飛行機を使わずに自動車で移動しても七日も有れば着いてしまう。
南大陸との間の貿易も、往復一ヶ月と見積もっていた船旅が、五日あれば大丈夫となってきている。
おかげで、人手不足のカッシーニに出稼ぎに来る南大陸人も良く見かける様になった。
リズムボーイことンムワイ君の親戚も、彼を頼って出てきたらしい。
そのンムワイ君だが、無事にパイロットになり、ただいま右シートで修行中である。
王家専用機のフライトオフィサーをしているのだが、しおりんがあまりこの機体には乗らないのでちょっと寂しいらしい。
代わりにパトリシア妃殿下がリズムボーイをガシガシしごいているとか……
頑張れ、リズムボーイ。負けるな、リズムボーイ。
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