第79話  マイクロマシン?

「で、その計画で許可が出る可能性はどのぐらいと思ってるのかしら?」

 王妃ノエミ。カナの祖母。めっちゃ怖い。


「えーと、安全が旦保されるので、それなりには聞いていただけるかと……」

 なので、一番甘やかされているしおりんが交渉役になっています。

 人質立てこもり事件説得交渉専科で学んだ技術をフルに発揮して……あーれー……


「全然ダメでした」

「むー、おばあさまのいけず……」


 第二回の弁論会

「と言うわけで、ここにキャンプを設けることでより安全性を確保し……」

 ……あーれー……


 第三回

「なのでこちらの新型結界装置を搬入し、騎士団全体の安全も確保……」

 ……あーれー……


 第四回

「……でございます……ハァハァ」

「はい、では、当日はアンガスが同伴すると言うことで、許可をしましょう」


 やっと許可が出た。ただし保護者同伴だ。

 七百歳を過ぎて益々愛らしさに磨きがかかった宮廷魔導士団長、エルフのアンガスである。


 アンガスは三人娘が来るまで、王国最強の魔女と呼ばれていた。

「箒なしでも飛べるしな」

 アンガスが無い胸を張る。

 いえ、普通は箒があっても飛べないです。

 

 

「アンガスさん、おはようございます」

 しおりんがアンガスが来たことに気付き、朝の挨拶をする。

「おはよう姫さま方、今日明日で面白いことするんだって?」

「はい、ダンジョン深部に潜ってキャンプですよ〜、楽しそうでしょ」

 カナさんや、それはそんなに楽しそうに思えないのですが……

「また、魔法の謎が解き明かせるかもしれないの」

 ああ、コトの場合はそこ重要ですね。

 って、アンガスさんのお目目もキラキラしてません? あ、この人も魔法バカだったわ。

「良し、すぐ行こう! なぁに、他の人は後からでも良いから!」

 ダメです。ちゃんとみんなで動きます。勝手な行動は事故の元です。


 今日は三人娘とサンドラ、プラスアンガスさん。

 そして坑道入り口とミスリル部屋を確保しておくための王女近衛と魔導士団の方々。

 申し訳ないけど男性は戦力外なので、今日は不参加である。

 バイオレッタ先生も呼ぼうとしたのだが、世話になってる貴族家のパーティに呼ばれていて参加できないと、血涙流しながらお断りされてしまった。

 魔導士団の備品納入などで世話になってる貴族らしく、先代がバイオレッタ先生の熱烈なファンなのだそうだ。

『バイオレッタ先生にも、ファンとかいるんですか?』

 とか失礼なことを聞いたのはカナである。

『いや、わたし結構人気あるのよ? 外じゃ結構キリッとしてるんだからっ』

『つまり、身内的にはやっぱり残念美人なんですね』

『残念言うな!』

『はっはっは、お出かけの時は、私がブラッシングしてやったりしてるがな』

 何それ見たい!


 おばあさま的にはアンガスさんが付いていれば問題ないらしいので、バイオレッタ先生はまた今度……

『絶対ですよ、絶対また誘ってくださいよ』

 うるうるした目でこんな美人に言われたら、ハイと言うしかない。二百歳だけど。


 さぁ、作戦従事者が全員揃った。出撃の号令はアンガスに任せる。

「総員、搭乗せよ!」

 王女近衛が四小隊と団長で、二十九名。

 宮廷魔導士団が八名プラスアンガスで九名。

 コト、カナ、しおりん、サンドラで四人。

 総勢四十二名の大調査隊である。


 輸送機六機をチャーターし、ミスリルラッシュダンジョン最寄のアベリノ飛行場へと飛んだ。

 空港からはトラック四台と乗用車二台に分乗した。

 流石に王室預かりをトラックに積み込むのは遠慮したらしい。


 ミスリルラッシュまでの道筋は開発され、綺麗に整地された連絡道路になっている。

 ただ、化石燃料が一切ない……アスファルトも存在しないので舗装が難関である。

 コンクリはアスファルトに比べると敷設が大変なのだ。

 今、この国は開発ラッシュ、新製品ラッシュ、貿易ラッシュで人手不足も甚だしい状況に陥っている。

 空前の好景気なのに、人手不足のせいで行き詰まる事業が出始めているのだ。

 手間ばかりかかるコンクリート舗装とか、まだまだ当分先の話になるだろう。

 道路以前の問題で、飛行場すらまだ未舗装である。


 坑道前の広場に車を止め、騎士団はここにベースキャンプを張ることになる。

 トラックとトラックの間にタープを張り、司令部とする。

 周辺にテントを用意し、土魔法で作る風呂桶も設置した。食事はアイテムボックスで大量に持ち込んでいるので、何日だろうとキャンプしてられる。


 学校がお休みの間だけだから、明日には帰るが。


 三人娘とサンドラ、アンガスはこのまま潜る予定だ。魔導士団は後追いでミスリル部屋まで行くが、三人娘が通った後にはぺんぺん草も生えないので問題なく辿り着けるであろう。

『いやまて、流石に雑草ぐらい残すよ?』


「そういえば、アンガスさんと潜るのは初めてですね」

 しおりんがアンガスの方を向いて話しかける。

 一行はすでにミスリル部屋も過ぎ、適当に敵を倒しながら目的地を目指すだけだ。


「そういえばそうだね。まぁ、私はまだ三回目だしなぁ」

 ついこの間まで、ここに潜るなんて事は一切出来なかった。ステータスオープン魔法が無ければ今でも無理だったであろう。

 しかし、出の早いステータスオープン連動の攻撃魔法があれば、本当に安全に潜れるのだ。この娘達には感謝しかない。


(お礼には、私のこのピチピチの体で……)

 

「アンガスさんがこの表情してる時って、だいたいよからぬ事考えてる時ですよね」

 しおりんに突っ込まれた。

 七百年も生きてるのに表情を隠せない女。

「隠し事下手なあたりが可愛いんですけどね」

 アンガスさん大好きなコトがかばいに行く。いや、エルフ耳が好きなだけかもしれない。

 リッカさんの耳をモフってた時のカナと、同じ顔してやがる。


 今日も下に向かうのが優先である。行き先行き先で出てくる敵は、接敵前にデストロイされていく。

 アンガスも必死で索敵しているが、アンガスが未確認の魔物の死体が転がってることも少なく無かった。

「お主らの索敵はどうなってるんだ……」

「ここまで降りてくると、目的地までの全部の敵が見えてますねぇ。ミスリル部屋あたりからだと、魔力濃過ぎて難しいんですけどね」

「……絶句。」

「いや、『絶句』とかわざわざ喋る人怖いんですけど! その読点もわざわざつけてますよねっ⁉︎」

「コト姫〜、先ほどからしおりん姫が辛く当たるのじゃ〜」


 目的地までは、あと少し。平和な会話で和みながら進んでいく。



         ♦︎


 ドサッ。最後のローパーが地に落ちた。貴重な魔臓持ちなので、すぐにアイテムボックスに収納する。

 部屋の中がクリアになったところで、内部の魔力の流れを調べていく。

「ほほぅ、確かに流れの筋ごとに何かが違うのぅ」

「ね、不思議ですよね。じゃ、サンプル取るよ。カナとしおりんでそっち側お願い。わたしはアンガスさんとこの辺やっつけるわ」

 手分けして魔力のサンプルを採取していく。

 と言っても、空っぽになった魔石を、流れの通り道に置くだけである。

「これだけ濃い魔力だと、空間にそのまま置いとくだけでも魔力チャージできちゃうのね」

そう、置いておくだけで魔石に魔力が溜まっていくのが判るレベルで変化している。しばらくこのまま放置しておけば、帰りにはそれなりにサンプルが取れるだろう。


          ♦︎

  

「さて、ここの隅にキャンプでいいかな?」

 片隅についたてを置き、裏側にトイレ代わりの穴を掘る。穴の底にはバリアを張って、終わったらそのまま異世界に流す作戦である。

 これを改良していけば、偵察機のトイレも改善できるかもしれない。

 居住スペース全体もバリアで覆い、さらに外側には光学迷彩魔法もセット。

 準備万端整いました。あとは魔物が登場してくるのを待つだけである。

 

 待ち始めて二時間弱、ついにローパーが転移してきた。それと同時に五匹のコボルトも現れる。

 そして、コボルトはそのまま外に出て行った。

 ローパーはその場にとどまり、二十分ほどで再び魔物を呼び寄せる。今度はスライムが風呂桶いっぱい分ぐらい出てきた。


「どう見ても、ローパーが呼び寄せてるよね?」

「ですねぇ。ローパーは異世界人か何かなのでしょうか?」

「でも、ローパーにも魔臓あるのよ。って事はこの星で作られた者なんじゃないかなぁ」

「スクロール魔法さんもワカンナイって言ってますけど……スクロール魔法さん、最近ちょっと信用できないんですよね」

 あら、しおりん大好きスクロール魔法さん、しおりんに冷たくなった?

「だいたい、この違和感ある魔力の流れのこと聞いてもワカンナイとか言いますし。それ、あなた達の本体ですよね? って聞きたくなりますよね」


 なんてお話をしていたら……

「いいなぁ……スクロール魔法さんとやら……」

「ダメです。これはさすがに危な過ぎて解放できません」

「うーん……せめてサンドラの持ってるアレとかは?」

 サンドラのアレ。ステータス魔法である。ステータスオープンの完全上位互換。魔法アレンジ機能付き。

「アンガスさんにあげたら、バイオレッタ先生にもあげないとならないじゃないですか。お二人とも魔法関連については危険人物なんですから、そうそうポンポンあげられません」

「いや、世界最高の危険人物達に言われても実感わかないんだが……」


 アンガスとバイオレッタに教えない理由。二人が宮廷魔導士団にいるからである。しかも団長と副団長だ。

 何かあった時、我々よりも国を優先しなければならない人。ここが教えるか教えないかの境目である。


「わかった、やめる」

「?」

「宮廷魔導士団、やめる。バイオレッタも引きずって城を出る」

「ちょっと待てぃっ!」

 カナが激しい剣幕で止めた。

「お二人いなくなったらめっちゃ困る人沢山出ません?」

「いるかもしれんが、知らんっ! そんな些細なことよりもステータス魔法の方が大事に決まっておるっ!」

「些細の定義っ!」

「バイオレッタも絶対同じこと言うはずじゃ」

「あーんもう……って、次来たっ。その話は帰ったらまた。コト、記録お願い。しおりん、魔法スタンバイ」


 ローパー二体目が登場した。一体目は部屋を出てしばらく周辺をうろうろしていたが、ミスリル部屋方面に進もうとしたので始末した。

 死体は回収していないのでその場所にまだ転がっているはずである。

 二体目もやはり魔物を連れてきた。火蜥蜴サラマンダー、大物である。

 サラマンダーは部屋をゆっくり見回した後、部屋から出ていった。

 続いてもう一匹サラマンダー。やはり複数回召喚している。

 なぜ魔物を連れてくる? どこから? わからないことだらけだ。


 ポクポクポクポクポクポクポクポクポク……


 コトキュレーターもなかなか答えが出てこないらしい。


 そして、三体目。


 ポクポクポク、チーン


「逆探知……逆探知できないかな? 飛んできてるなら経路に痕跡残ってないかしら。もしくは飛んできた個体に何かヒントはないかしら。ちょっとしおりん、スクロール魔法さんに目一杯媚びてもらっていいですか? あざといぐらいでいいですから」

 何その無茶ぶり。

 しおりん、割と絶望していた。

 ここしばらく、スクロール魔法さんと今ひとつうまく行ってないし……

 いや、魔法と上手くいくとかいかないとか、なんなのそれ。


「ま、まぁ、やってみます……上手くいかなくても怒らないでくださいね」

 しおりん、仮想スクリーンを立ち上げると両手を組んで目をうるうるさせて……って、だからなんなのその技術っ! それも内閣調査室の技なの?

「そうです」

 そうなのかよっ! スパイおっそろしいなぁ。


「スクロール魔法さん、お話聞いていただけますか?」

 仮想スクリーンにテキスト起こしされていく。

「時々現れる魔物が、どこから飛んできてるかって逆方向から追跡できますか?」

『はい』


 スクロール魔法さんがしおりんにそっけないっ!

 これは何があった? もしかして、ここのところスクロール魔法さんがあまり登場してなかったのはこれが原因?

「実は、一年ちょっと前にスクロール魔法さんと喧嘩しまして……」

 いや待て、魔法と喧嘩って何だよ。

「最近ケイさんかっこいいよねって言ったら、なんかこう……ギクシャクしてしまって……」

 ……なんか覚えがあるぞ……まさかケイが五分の一ほど女性化しちゃった事件が……

「てへっ」

 お前かーーーーーーーっ!


 ケイはともかく、リンダとかポーリーとか、陰でめちゃめちゃ泣いてたのに……あとできっちり埋め合わせしておきなさい。

 はぁ、あれはマイクロマシンの忖度じゃなくて、スクロール魔法の嫉妬だったのか。

 と言うか、魔法に嫉妬されるとか何それ怖い。


「スクロール魔法さん、今度、一緒にお出かけしましょ。だからね?」

 魔法とお出かけって何だよ。読んでる人みんな置いてけぼりじゃないかよ。


   ・

   ・

   ・


『絶対ですよ。約束ですからねっ』

 って、スクロール魔法さん、それでいいのか?


『ローパーはこの下の魔力だまりからの転移です。魔力だまりに居る親ローパーが外界から転移させた魔物が、変異してローパーになります』


 仲直りしたら即座に答え教えてくれるとか、謎解きの映えとか少しは忖度してほしいです……


「つまり、親ローパーがこのダンジョンの魔物を維持してると言うこと?」

『そうなります』

「じゃ、その親ローパーが……ダンジョンマスター……」


「ちょっと待ったー!」

 カナが飛び出してくる。

「しおりんさん、付き合ってください……じゃなくて、ダンジョンマスターって、誰がそんなの置いたのっ!」

『マイクロマシンである』

「何のためにっっ」

『人類の活性化のために』

「どうしてそれが活性化になるのよっ」

『昔の書物に書いてあった』

「ラノベかよっ!」


 まさかのラノベスタートだった。

 もうね、謎解きとかアホらしくなります。このマイクロマシンさん達。


 置いて行かれているのはアンガスさんである。三人娘は何だかスッキリした顔をしているが、アンガスには何が何だかわからない。

 (ラノベって何じゃ? 昔の書物? 私の知らん昔の書物をこの娘たちは読んでおるのか? 私も読みたい!)

 この人の知識欲もかなり逝っちゃってる。


 しかし、これでここにキャンプする必要はなくなりそうだ。

 サンプル取ってる魔石を回収して帰ろう。


 しおりんがスクロール魔法さんと上手くやってくれれば、あのサンプルの解析もスムーズにいくに違いない。


 あとは親ローパー……マザーローパーをどうするか、魔物を産み続けるダンジョンにするのか、それとも魔力だけを供給してもらう発魔所になってもらうのか。考えることはまだまだ沢山あるのだ。

 わたし達の手の届く範囲はまだまだ狭すぎる。

 でも、がんばるっ!


 そんなことを思いながら魔石を回収……

「ちょっと! これ、魔石の色おかしくないっ⁉︎」

「うわ、綺麗な色……魔石って黒かグレーだと思ってたのに、ルビーっぽいわこれ」

「こっちの、エメラルドみたいなの!」

「サファイア!」


 一体、何が起きたっ⁉︎

 

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