第78話 ダンジョン開発大作戦
ミスリルラッシュダンジョン最深部から、マイクロマシンを回収する機械を開発する事に決めてはや半年。三人娘は幼年学校の最上級生となっていた。
アリスタちゃんとコリンちゃんは、学校の女王と覇王であり、シャルロットちゃんは三年生の不動の頂点である。
では三人娘の立場は?
アンタッチャブルとしか言いようがない。皆が褒めるし、実際に好かれてもいる。しかし、絡んでこない。上記の三人以外は誰も寄ってこない。
なんなら、先生すらもアリスタちゃん経由で伝達事項を伝えてきたりする。
『ここまで来ると、いじめじゃね?』
とかも思ったりしたが、言うとまた逃げられるであろう。
今日はいつもの子供部屋会議にアリコリシャルの三人が参加している。
ダンジョン最深部の処理の話なので、やっぱり一緒がいいかな? と、呼んでみた。
「では、最深部まで通路を通す魔法なのですが、やはりここはカナお姉さまの作った粒子ビームだと思うのです。チャージ砲ですと貫通した壁面の処理が甘くなりそうですので、落盤や漏れに繋がりそうな気が致しますの」
最年少が一番役に立ってる気がする。
最深部に魔法を通すのは良いのだが、地上から貫通させると、途中にある部屋へと漏れ出してしまう可能性が高い。
かといって潜ってからとなると、回収装置を持ち込むのが大変である。
と言うわけで、まず潜って最深部の一つ上の階にバリアを張り、地上からバリア目掛けて穴を開ける。続いて穴にパイプを通し、最後に最深部まで貫通させてパイプを差し込む。
こんな手順を想定している。
もっとも、パイプ長は全長300mにも及ぶため、一日二日では通すことは出来ない。なのでしばらく技術者と一緒に通い詰めになるはずである。
コリンちゃん、アリスタちゃんも粒子ビームもチャージ砲も、簡単にマスターしてくれた。魔法陣を使わずに、理論説明だけでやってくれるあたり、この二人も本当に得難い人材だということがよくわかる。もう一生離さない。たとえ婿を取ったとしても身柄は王家で預かるっ!
カナはそんな事を考えていたが、アリスタちゃんもコリンちゃんもこの三人から離れる気なんて毛頭ないのである意味両想い? あまり甘酸っぱかったりしないけど。
シャルロットはルイージ王子のところに嫁ぐので、まぁずっと身内だろう。そのうち三人娘よりも上位になるお方である。
♦︎
ミスリルラッシュダンジョンの資源化のための工事が始まった。
まずは最深部手前まで安全に通れる通路の確保である。
今日は三人娘とアリコリシャルの六人娘体制、いや、アリコリシャルサンの七人娘体制なので緊張感があまりない。ん? サンドラは娘枠?
『娘です』
でもちょっと年齢が
『娘です』
ま、まぁ、もう全員ソロ攻略楽勝モードなのだ。
リンダやポーリーでもそこそこいいとこまでは行けると思われる。
ここにきて力を伸ばしてきたアンガスさんやバイオレッタ先生も余裕を見せて行けると思う。
特に、アンガスさんはコトに物理を習い始めて、物凄く強くなった。
自分のあまりの実力変化に泣き出したエルフが可愛すぎて、コトが持ち帰ろうとしたので慌てて止めた。
いや、感涙に咽ぶエルフはマジで可愛かったけどさ。
話が脱線しすぎた。
と言うわけで、ダンジョンに潜りながら開発を進めていく。
狭隘部を削り広げ、段差を削り、脆弱部を補強し、魔物を退治する。
崩れた岩石を運び出し、溢れる水を排水し、舗装しながら魔物を退治する。
とにかく退治する。
たくさん出てきたけど退治する。
こうして、休みのたびにみんなで出かけ、開発の手伝いをしていった。
「めっちゃ魔臓貯まったよ! これは嬉しいねぇ。お船たくさん作れるわ」
現在、魔臓は貿易船と軍船の間で取り合いになっている。
魔臓欲しさに、軍部も積極的にAランクの魔物を狩に出かけるようになった。
新兵器であるライフル銃と散弾銃の効果もあり、そこそこの効率で狩ることができるようになったそうだ。
二ヶ月かけて、ミスリル部屋までの開発が済んだ。娘たちの経験値もゴリゴリ貯まるが、スクロール魔法さんとステータス魔法にはレベル表示がなかったりするのだ。
ステータスオープン魔法には有るのに何故だろう……と思っていたのだが、レベルが上がったからってステータスアップするわけでも何でもなく、ただステータスからレベルを表示しているだけだと判明した。
まぁ、しおりん的にはそれでも良いらしい。夢の冒険者ギルド開設のため、しおりんは頑張る。
ミスリル部屋のミスリルはそのままにしておくことが決まっている。何かあった時に、この部屋がバッファになってくれることを期待しているのだ。
計画ではあとひと月で最深部の一つ上に辿り着くことになっている。あと一踏ん張り……が長かった。
ここまでは、敵を倒した後はそうそう魔物は出なくなっていた。
しかし、ミスリル部屋の下からは、倒した翌日には敵が復活してきていたりすることが判明した。
この下の敵は危険で有る。それこそ上記のメンバーあたりじゃないと危なくて任せられない。
仕方がないので学校を順番にお休みしてダンジョンに潜り始めた。
アリスタちゃんが当番のある日、出てきたローパーを倒した後、更に二匹のローパーが登場した。
一度に三匹も出てきたのは初めてである。アリスタちゃんは頂いたばかりの「ぎるどかーど」を使いカナに連絡を入れる。
「ローパーが一度に三匹? わかったわ。すぐ行くからその辺でキャンプして待ってて」
学校を早退してきてくれるらしい。
と、ものの一時間でこの地下深くまで来てくださった。
しおりん様、コト様、カナ様の三名は、空港まで飛び、空港からジェットで送ってもらってこの上で飛び降り、あとは走ってきたらしい。
本当にすごい方々です。一生着いていきます!
♦︎
「ローパーが三匹は多いよね。ちょっと下まで行ってみよう。アリスタちゃんはそのまま仕事にもどって、みんなの護衛しながら開発工事進めてもらえるかな?」
「はい、よろしくお願いいたします」
「じゃ、行ってくるよ」
この先はまだ未舗装である。歩きづらい中、超センスを広げながら進んでいくと、確かに敵の数が多い気がする。ローパーらしき反応もいくつか有る。
「ちょっと先に進もう。倒すのはもう、バンバン倒していいよ。今日は調査だから」
コトの判断でバンバン倒しながら進む。
歩けばバン、進めばバン、息を吸ったらバン。
魔物たちにはいい迷惑だ。
この辺の階層になってくると、魔力が濃すぎてだんだん超センスの精度が落ちてきた。
「おわ、五匹ぐらいかと思ったら、こりゃモンスターハウスだったわ」
そう、いきなり大量のモンスターが溜まっているお部屋にバン。
あの、苦戦して? 盛り上がり、ちょっとは考えて?
「苦労したねぇ。数多いから数えるの大変だったよ」
そっちかいっ!
「でも、前回こんなお部屋無かったですよね? わたしらが攻略したせいかしら?」
「いや、なんだろう、前回よりも魔力濃度上がってる気がするのよね。まだ解析までは終わってないけど」
しおりんとカナが話している。
コトはじーっとモンスターハウスの壁を見ていて……
「ねぇ、ここ、違和感ない?」
「ん? どこ?」
「ここ、この岩の上あたり。魔力の流れに段差がない?」
「あー……なんか有るね。なんだろこれ」
魔力を可視化して見ると、そこに潮目のように何かしらの差が感じられる。
「何だろう。温度差とかじゃないよねぇ。魔力の違い? でも感じる強さは変わらないんだけど……」
何かがある。けど何があるのかわからない。背景の岩は普通の岩にしか見えないし、魔力探知を全力でかけても『やたら魔力の濃い洞窟の壁』としか思えない。けど違和感……
「こう、密度は変わらないけど濃度が違うというか……屈折率が違う部分を見てるような感じの……」
コトが何かに辿り着きそうで、でももう一つヒントが欲しい様な、なくても行けそうな様な微妙な表情をしている。
カナはこのコトの顔が割と好きだ。いや、基本的にコトの表情はみんな好きなんだが、その中でもかなり上位に食い込むのがこの、何ともいえない表情なのだ。
ちなみに、真似するのは難しい表情でもある。できないとは言わないが。
「あ、ああっ! これ、マイクロマシンの種類が違うっ!」
コトがたどり着いた。
マイクロマシンには種類がある。どんな差なのかはわからないが、かなり色々な種類のものが存在するらしい。
実際、顕微鏡下では形状や大きさの違いで何種類かに分類されていた。
「種類によってできることが違う?」
「その可能性は高いと思うよ。ただ、今なんでここで同じ種類同士が固まってるのかがわからないのよ」
「同じ種類同士が協力しないとできないような大きなこと?」
「でも、大抵の大きなことは混ざったままで簡単にやってくれちゃってますよね?」
データが足りない。もっと色々調べなければ。
とりあえずこのマイクロマシンの潮目は記録に残しておく。
「よし、進もうか。魔力の流れにも注意しながら」
魔力の流れに注目しながら進んでいくと、魔力の流れにはいくつかの分流があるんじゃないか? と思われる事象がいくつも観察できた。全て記録をとりながら更に進んでいく。
そして、最下層一つ上の階に到着。床から滲み出る様な魔力を丁寧に調べていく。
「今まで、魔力とかマイクロマシンとか一括りにして呼んでたけどさ、こうして見ると、少なくとも五つぐらいのグループに別れてない?」
「そんな感じするね。何かサンプル取れる装備持ってくるんだった」
「空の魔石とかで行けないかしら?」
「今度やってみよ。今は記録だけ詳細に取って帰ろう」
そんな会話をしていたところに、いきなりローパーが出現した。しおりんの粒子ビームが炸裂する寸前にゴーレムの姿が浮かび上がり、半実体化の状態で落下して光の粒となって消えていった。
「ちょっ! 今の見た?」
「うん」
「ええ。ここの魔物はどこから現れるのかと思っていたら、ああやって連れてこられていたのですね……」
「じゃあさ、じゃあさ、ローパーって何よ……何かの使役生物? それともローパー自体の意志?何のために他の生物連れてきてるの?」
謎の大バーゲンになった。
「ね、次来るときさ、ここにキャンプしない?わたし達なら絶対防御の結界張れるしさ、ここでローパーたちが何をしているのか、観察しない?」
光学迷彩の裏側にバリアを張ってボール状に並べれば、おそらく破られることはないだろう。
あとの問題はあれだ。
「おばあさまの許可が取れればだねぇ…」
「だね。じゃあ、一度アリスタちゃんの所に戻ろうか」
帰り道には魔物は一切出なかった。となると、やはりあの場所こそが
アリスタちゃんと合流して確認すると
「あれ以来一匹も湧きませんでしたわ。とても静かで、勉強が捗りましたの」
って、こんなとこで何やってるのっ!
ステータス魔法を使うと勉強も捗る。
しかも、アリスタちゃんとかコリンちゃんとかサンドラとか、カナたちが使っているのを見てQWERTYキーボードを使い始めてしまったのだ。
正直言って効率の良くない入力方法である。カナもコトもしおりんも、このメカニカルタイプライター時代から使われている『英文を打つときアームが絡みづらい様な位置関係』に配置しただけのキーボードに慣れてるだけだ。今更まっさらから覚える価値はない! のに……
『姫さまと同じが良いです』
泣いたね。もうね、愛されすぎて怖いね。
コトなんてあれよ? 日本語入力する時なんてかな打ちするのよ? 変則ホームポジションの自己流タッチタイプで、超高速で。
じゃなかった、今はキーボード談義じゃなくてダンジョン開発の話だった。
「じゃ、そろそろ予定時間だから今日は一度戻ろう。次回の休みにはちょっとここに泊まるかもしれないから、ちょっと気に留めといてね」
「かしこまりました、カナさま。では今日は上がりますわね」
アリスタちゃんはそう言うと後ろを振り向き
「本日は撤収する! 各自の道具を確認せよ。材料はいつも通り一箇所にまとめて現場保管! 五分で下がるぞ。急げ!」
伯爵令嬢ではなく、騎士団の士官に近くなってきている。
実際に、すでに騎士章は付けているのだ。そりゃ騎士団全員と戦っても三分で勝てる様な人材な訳だが……十二歳である。
『かっこいいから良いの』
はコトが言っていたセリフだ。
多分、アリスタちゃん本人が聞いたら狂喜乱舞した上で有り余るリビドーを訓練に叩きつけ、騎士団の人達が酷い目に遭うと思われる。
この日はこれで地上に上がり、自動車で飛行場まで帰った。
飛行機に乗ってしまえば、王都までは三十分である。
さて、次の休みの計画を、おばあさまに許してもらう戦いが待っている。
頑張るぞ、えいえいおー!
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