第69話 三人娘のダンジョン攻略 (ダンジョンの秘密編)
明けて翌朝、鳥が鳴き始める頃に全員起床。まだ薄暗い中で出撃準備を始める。
今日は近衛の皆も潜ることになる。基本的には後ろからついてきてもらうだけであるが。
魔物への対処は、基本的には魔法で。見慣れた反応ならアリコリサンドラに任せ、見慣れぬ敵は三人組が対処して行く方針である。
初めてきた時には帰り道の段差や坂で苦労したので、今回はアイテムボックスに大量のハシゴとロープを用意してある。
全員ステータスオープン以上のオペレーティングマジックが入っているので、ライトの魔法は標準装備だ。
ちなみに『オペレーティングマジック』とは、今作った造語である。
全員の準備が終わったところで、いざ出陣。静かにダンジョンに入って行く。
近衛の皆は初めてなので、随分とキョロキョロしている様だ。
「頭ぶつけたりしない様、気をつけてね」
子供達は背が低いので大丈夫だが、サンドラ含めた大人は結構スレスレなのだ。
昨日撤退した場所までは何にも出会わなかった。一日ではそれほど縄張りは変わらないのであろうか。
「この先は昨日は来てないからね。敵襲警戒」
とは言っても、三人にはどこで当たるかがもう見えている。今回はアリコリサンの訓練だ。
「前方の角の向こう、気配があります」
最初に気がついたのは、まさかのサンドラだった。
元々、すごく優秀だということで幼年学校卒業後、すぐに王宮へと出仕。洗濯女、配膳係を経て十八歳で接客担当まで行った才女である。その後、王室預かりのゴタゴタで三人専属の側付きになったが、このままだと嫁に行けないんじゃね? とか思い始めてもいる。
側付きになって五年。もう二十六歳も目前だ。
若い子に囲まれているせいなのか、姫君特製石鹸のおかげか、侍女仲間の中では圧倒的にお肌スベスベ髪ツヤツヤなのが救いではあるが……
では、ここからはサンドラ主体で戦ってもらおう。まずは敵の確認。相手近くの角に対して、できるだけ離れた場所からチラ見する。少しずつパイを切るように、何度にも分けて覗いていく。
見えた! 大きなアリだ、数はかなり多い。どれだけいるのか確認はできなかった。
一度戻り報告する。
「はい、数がわからない時は、纏めて焼いちゃいましょう。ただ、ここで焼くと酸欠で死んじゃうので、今日はわたしがやりますね」
やはりファイヤーボール以外の決戦魔法もこの子達に教えておいた方がいいかな? なんて思いながらしおりんが前に出る。無造作に出る。スタスタと歩いて角を出て
『ヴヴァーーーーーー!』
一拍置いて、たくさんの何かが崩れ落ちる音がした。
「うっわ、四十匹以上いましたよ、これって……くっさっ!」
そこらじゅうに蟻酸が揮発してくる臭いが漂ってきた。
「ててて、撤退……いえ、転進しましょうっ!」
風魔法で風を奥に送り込みながら涙目のしおりんが走って戻ってきた。
「蟻酸はヤバイわ。一度出ましょう。頭痛や身体のだるさなどを感じたらすぐに報告を。目の見え方にも注意して!」
コトの指示で全員来た道を戻る。風魔法は絶やさず後ろに風を送り続けた。
「これは、アリ対策の魔法作ってから、また来る様かしら……」
少なくともレールガンはダメだった。閉鎖空間だとファイヤーボールもダメだろう。みんなの見てる目の前でアサシン魔法も問題がある。テントまで帰ったら色々検討しなければ。
「みんなごめんね、わたしのせいで……」
しおりんが涙目で謝っている。
「いや、あれは読めなかったって。しおりんのせいじゃ無いから気にしないで、ね」
「うん、あれは無理。しおりんは悪く無いよ。悪いのはアリンコだから」
カナコトに慰められるしおりん。どさくさに紛れてしおりんの頭なでなでしてるアリスタちゃん。満足そうである。
「さて、それで対策なんだけどね、ちょっとこれ見て」
コトが仮想スクリーンを出した。表示されてるのは三人のいうところの『そーす』と言うやつだ。アリスタちゃんコリンちゃんにはさっぱりわからないが、門前の小僧を五年もしてきたサンドラさんは、実はそこそこ読めたりする。
「とまぁ、ファイヤーボールをこんな風に分解すると粒子ビームにできるんじゃ無いかな? と思うわけですが」
「あー、どっちもただのプラズマだけど、相を変化させればどうとでもなるのか……」
一口にプラズマと言っても、さまざまな状態がある。それを利用して、ただのファイヤーボールを、ひたすら引き伸ばした極細ビームにすることも可能だと判断された。
「ちょっとシミュレートしようか。アリスタちゃん、コリンちゃん、サンドラ。この魔法陣インスコしてもらえるかな?シミュレート空間に入るための拡張パック」
こうして、三人娘以外の人間が初めてシミュレート空間に入った。
「凄い……何ここ……」
コリンちゃんが驚いた様な声を出す。
「仮想空間よ。危ない実験はいつもここでやってるの。失敗しても大丈夫だから」
カナが説明した。
「物は試しでやってみよう。アントのデータは取れてるから、アントで試すよ」
空間内にアントを配置していく。配置していく。配置していく。配置して……どんだけ置く気だ!
「よし、これで四十っと」
しおりんが倒した数を再現したらしい。
「じゃ、粒子ビームの試作品、行きます!」
パシュン、小さめな音と共に光の筋がアリのお腹に吸い込まれていく。
「ダメージ判定は?」
「アライブ。ほとんどダメージ出てないね、貫通しちゃって。エネルギーの大半は後ろに抜けちゃってるわ」
「あらら、ダメかぁ……」
一度通常空間に意識を戻す。
「えっと、えねるぎー? が抜けなければいいんですよね? じゃ、中で甲殻が破けない程度に弾けさせたりできませんか?」
成績優秀アリスタちゃん、いきなり的確な指摘してくれました。
「アリスタちゃん賢いっ! ちょっとやってみる」
カナがエアキーボードをダカダカダカダカと叩いていく。
「全部のエネルギー放出しちゃったらおんなじことが起きるから……」
色々計算しているらしい。
「で、これの分岐先が……ここと、おっけ。もっかい試そう」
再びシミュレート空間に入り、アリを配置し、狙いを定める。
「行きます。ってぃ」
パシュンっ。音と同時にアリの身体数箇所から更に光が飛び出し、他のアリにも当たっていく。
「行ったかな? 効果は?」
「今の一発で四匹死亡、三匹瀕死。傷口焼いてるから蟻酸の吹き出しもほぼ無し。沸騰した蟻酸が噴いてきたらちょっと阿鼻叫喚だからねぇ」
多分ちょっとでは済まない。と言うわけでテストを続ける。
パシュン、パシュンと連発するうち、たまに巡り巡って自分の方に戻ってくるビームがあることが判明した。
「こ、これは危ないよね……どうしよう。もっと早く拡散させたほうが良いかな?」
「そうだね。半分ぐらいの距離で減衰しちゃうようにしようか。命中してからの減衰だから、射程距離はそんな変わらないでしょう」
こうして徐々に完成度を上げていく。初めて新しい魔法の開発現場を見たアリスタちゃんとコリンちゃんは、ますます三人娘へと傾倒していくのであった。
翌日。今日が予定最終日である。夕方十六時までにはここを発つ準備をしなければならない。となると時間を無駄にはできない。
隊列は今まで通り。ただ、時間優先するために索敵は三人娘が行うことになった。
「はい、次はしばらく何もなしね。300m先に、これはゴブリンかな?コリンちゃんやってみる?」
「コクン」
コリンちゃんの体技が冴え渡る。六匹のゴブリンが瞬殺であった。
「これでまたしばらくは無し。ただし200m先に魔力だまりがあるから、そこを目指します。今日の第二目標だね」
この、魔力だまりを見たいというのが一つの目的であった。
ここまで、今日はまだAクラスの魔物には出会えていない。というか昨日から合わせてもローパー二匹しか見ていなかった。
魔力だまりより下に行けば何かいるのか? あと少し、そこには……空間があった。地面は明らかに人工的に何かされていたであろう平滑さを保っている。そして、魔力の塊は……
「ミスリル塊だわ。これ」
「あー、なるほど。ミスリルの塊かぁ。それが魔力の通り道になってこの部屋に魔力を溜め込んでいたのね」
ミスリル……チタニウムである。
「と言うことは、ここは古代遺跡なのね。六千八百万年もの時を超えた遺跡」
普通はそれだけ時間がたてば、地下構造なんて残るものではない。しかも、この辺りはプレート同士のぶつかり合いからほんの千キロメートルの場所なのだ。
「これだけのチタンが残ってるってことは、相当ガッツリ周囲を固めてあったんじゃないかなぁ? あの超技術でさ」
「まぁ、チタンの生産体制整ってきたから鉱山としては微妙だけど、何が魔物を集めたのかってのはわかった気がするわね。魔力に引かれてきてるのよ」
「わたしは魔力が魔物を生み出す説に一票をいれたいです」
しおりん、ラノベ展開をそんなにお望みか? あの幸田詩琳さんからは想像も付かないキャラになってる気がする。
「よし、じゃ、次の最終目標目指そう。まだ時間は大丈夫だし」
最終目標。最下層にある更に大きな魔力溜まり。もっと大きなミスリル塊があるのか、他に理由が有るのか……
ここからはそれなりに強力な魔物が出始めた。
ローパーを筆頭にモグラ型の大型魔物、理性の無さそうなケンタウロス、トロルにストーンゴーレム。とりあえずみんなカナとコトが対応したが、そこそこの数が出てきたので結構びっくりした。
しおりんは後ろをついて回りながら、片っ端からアイテムボックスに放り込んでいく。
更に進むこと一時間半、あと二階層ぐらいで辿り着くと思ったのだが、どうも魔力の反応がおかしい。
近づくにつれ詳細な魔力マップが出来上がってきたのだが、どうにも広大なのだ。最終目標地点が。
今までの一フロアどころか、ニフロア分ぐらいぶち抜いて魔力が渦巻いてる感じがする。ちょっと警戒度を高める。
「どう思う? これ、この下魔力の塊だわ」
「開けたら爆発とかするかな? 危ないかな?」
「うーん、マイクロマシンで埋まってるぐらいの勢いかもしれない。酸欠とかは有るかも」
「これだけのマイクロマシンだと、この下には大きな製造設備があると思って良いんじゃないかな? で、製造されまくるけど、それが出てこられないいでいる? じゃないとこんなに濃度が上がるとか、ちょっと考えづらいんだけど」
「どちらにせよ、このまま行くのは危ないよね。どうしよう……ここまで来たのに……」
「わたしらだけならともかく、アリスタちゃんコリンちゃんサンドラ、それに守らないといけない近衛のみんなもいるし、戻ろう」
「そだね。また来られるもんね。みんな、戻ります。撤退準備っ!」
「撤退準備っ!」
安全は何者にも変え難い。ここまで無事故で来たのだ。帰りも無事故で帰ろう。
撤退時は事故防止のために、感知した魔物を全力で潰していく三人娘であった。
なので移動時間はほぼ歩行時間である。上りだと言うのに二時間少々で到着した。予定時間まではあと二時間。テントの撤収や後片付けを近衛のみんなにお願いして、最後の対策会議を開く。
「やっぱりあれ、あのままにしないでちょっかい出してみない?」
カナが言い出した。
「あれ、上から一本道を作ってやれば、マイクロマシン出てこられるんじゃないかな? で、ここに回収設備を整えれば、マイクロマシン補給用の施設が作れそうじゃない?」
「やるとしたら回収設備を作ってからだね。もしも今ここで穴あけてばら撒いたら、あたり一面強力な魔物だらけになる可能性もある訳だし」
コトが諌める。
「あ、そか。魔力は魔物を呼ぶのか」
「そそ。危ないことはしないって、今決めたところでしょ。魔法系の魔物の死体も沢山手に入ったことだし、地方空港での魔力補充や貿易船用の魔力補充装置の開発もできるから大丈夫だよ。十分お兄ちゃんの役に立ててる」
今日回収した魔物の死体から、どれだけの魔臓が手に入るだろうか。これがあればゴムの輸入も捗るはずだし、地方空港の魔石充填問題も解決できる。なんなら原子力空母並みに走り続けられる船だって作れてしまうのだ。
「あー、魔石に水供給の呪文入れておけば、空中空母も可能なのか……もしかして」
地上に降りることなく飛び続けられる飛行機。しかし……
「メンテできないから無理か。タービン一つずつ止めながら飛ぶとかでもすりゃ可能なのかな?」
色々考えたが、
「でも、兄は乗りたいとは言わなそうだな……」
と思ったとたん作る気は無くなった。
カナも、十分ケイに甘々の妹なのかもしれない。
こうして、三度目のダンジョンアタックも終了した。次回ここにくるときは魔力回収システムを稼働させる時になるだろう。
それまでには、まだまだ新たな技術、新たな知見が必要になるだろう。
だが、この娘たちは立ち止まることなく、次々と何かを成し遂げてくれるに違いない。
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