第64話 王妃主催御茶会
王妃殿下名義で、何名かの知人に御茶会のお誘いを出してもらった。
カナチーム
カッシーニ国王妃 ノエミ・カッシーニ
第一王太子妃 パトリシア・カッシーニ
第二王太子妃 レベッカ・カッシーニ
第三王太子妃 エレクトラ・カッシーニ
コトチーム
母 キアラ・マデルノ
祖母 エレオノーラ・マデルノ
メイド長 マーサ
側付き リサ
ケイチーム
母 セレナ・ロマーノ
メイド長 リーノ・ニノリッチ
しおりんチーム
…………
ギルド関係
工業ギルド長 サンディ・ベルクマン
ハンターギルド副ギルド長 アンジェリーナ・トルーマン
家族と主要な使用人、そしてギルド関係。
ついに非戦闘職にもステータスオープンを公開することになった。
管理は宮廷魔導士団に丸投げしたが、まずは身内から……と相談をしてこの場を設けた。
可哀想なのはアンジェリーナである。
他の皆は貴族か、もしくはその使用人である。王城に来ることも少なく無い。
アンジェリーナは生まれも育ちも平民である。貴族との付き合いなど、ほぼ無い。
今、目の前に座ってる女性……王妃殿下である。その周りには公爵夫人! 王太子妃! それぞれ国のトップの女性達。
あ、知ってる顔! 宮廷魔導士長のアンガス女史! って、やっぱり超お偉いさんじゃんっ!
それはもう、心の中はガクガクブルブルである。
「さぁ、今日はよく集まっていただきましたわ。みなさん、子供達が開発した魔法のことはご存知ですわね?」
王妃殿下が開会した。
お茶の準備も早々に、アンガスが切り出す。
「安全性の確認もできましたので、皆さまの中で、ご利用になりたいという方がいらっしゃいましたらご準備させていただきます」
「まぁ、当然お願いするわよね」
「ですわねぇ」
アンジェリーナ、ガクガクしながらも参加者の中で唯一お話ししたことのある工業ギルド長、サンディに話しかけた。
「ベルクマンギルド長、お久しぶりでございます」
「トルーマン副ギルド長もお変わりないようですわね」
「つかぬことをお伺いいたしますが、子供達の魔法って、なんでしょうか? 収納魔法とは違うのですか?」
「収納魔法? いえ、うちの秘書は『ステータスオープン魔法』と言ってましたね。とにかく魔法を使いやすくするための魔法のようですわ」
魔法を使いやすくする? 全く想像がつかない。アンジェリーナは元々女性ハンターである。女性ハンターは、ほぼイコールで攻撃魔法使いである。魔法が使いやすくなれば当然嬉しいが、さて、それはどんなものなのだろう。
まぁ、全員手を上げているのだ。ここは流れに乗らなくては……
「それでは皆さま、ということでよろしいでしょうか」
皆がそっと頷いた。
「では、今から魔導具の石板を一人に一枚ずつお渡しします」
アシスタントについているバイオレッタとポーリーが、一枚ずつ石板と取扱説明書を配る。
「まず一度、取扱説明書に一通り目を通してくださいませ。ご不明な点がございましたらわたくしか、アシスタントのバイオレッタ、ポーリーにお声がけください」
全員が取扱説明書を読み始める。しばらくすると王妃殿下から声がかかった。
「これを見るだけでよろしいの?皆、頑張って覚えるつもりで来たのですが……」
「この説明書通りに読んでいただければ大丈夫です。では、やってみましょうか」
皆の手が空中に上がり、目の前をつっつくような動きをした。
「おお!」
「うわっ!」
驚きの声が上がる。
そりゃ、予備知識なしで仮想スクリーンのテキスト洪水とか、誰だって驚く。
それでも全員、インストールの完了まですぐに辿り着いた。
石板はアップデートされまくり、現在はインストール成功と同時に自動的に消去されるようになっている。三人は研究を怠らないのだ。
「はい、これでみなさまもステータスオープン魔法を使えるようになりました。発動キーワードは『ステータスオープン』です。クローズするまで動作しっぱなしになりますが、視界内で小さくしたり色を変えたりもできます」
「ステータスオープン」
王妃殿下が唱えたのに合わせて、皆が次々に起動していく。
「おお!」
「うわっ!」
もう少し驚き方にバリエーションが欲しいところです。
「では、表示されてるお名前、生年月日に間違いはないですね?」
コクコクコク
「続いて、魔法ボタンを押してください。使える魔法で表示されていないものは無いですか?」
コクコクコク
「このリストの魔法を選択して、発動ワードを唱えるだけで魔法が発動します。また、ショートカットに登録することで五種類の魔法を……」
以前、三人娘からしてもらった説明を繰り返す。
「なんというかまぁ……」
「便利というか、なんでしょう……色々ありえない気がします……」
「こんなの、作れるものなの? 人間に……」
なんでも受け入れてくれる子供達と違って、大人は頭が硬いなぁ……とか、隣室でモニターしている三人は考えていた。
騎士団の脳筋連中は強くなれればなんでも良いらしいので大人から外す。
「とまぁ、ご覧の通り従来の魔法というものの概念が、揺らぐような代物ですね。日常生活で手を洗ったり、火をつけたり、髪を乾かしたり……めちゃくちゃ便利になります。また、時間や日付の確認、スケジュールの管理、メモ帳、計算機や方位磁針、地図を記録していくものなんかも完備です。正直、もうこれなしの生活には戻れませんわ」
「ここで、さっぷらいーず!」
と、突然隣室の扉が開き三人娘が飛び出してきた。
「本日お集まりの皆さまには、特別にこちらの魔法をお付けしますね」
コトが人数分の石板を取り出した。
「はい、今わたしがどこからこの石板を取り出したか、わかる方はいらっしゃいますか?」
アンジェリーナが手を挙げた。
「はい、アンジェリーナさま」
「あの、空間収納ですか? 伝説の……」
「ピンポンピンポン大正解〜。わたし達はアイテムボックスと呼んでいますが、同じものですね。他次元に物を収納する魔法です」
ポーリーとバイオレッタが石板を配り始める。
「実はわたし達三人以外の方にこれを覚えてもらうのは、初めての試みとなります。アリスタちゃんやコリンちゃん、リンダさんすらまだ覚えてません」
そう、講師をしていたアンガスさんすらも教えてもらっていなかったのだ。
「わ、わたしも良いのか?」
アンガスさんが可愛いお耳をぴこぴこさせながら聞いてくる。
「はい、アンガスさんもバイオレッタ先生もポーリーさんも、みんなまとめて入れちゃいます。あ、リンダさんやアリコリちゃんにもあとでちゃんと教えますので」
そう言いながらサンプルの石板を手に取り皆に見せるように言う。
「これはもう、『はい』を押したら勝手に入ります。使い方のチュートリアルもまとめて入りますのでご心配なく。では、どうぞ」
皆が一斉にインストールを始めた。
好奇心の塊セレナさん。早速手元の使い終わった石板を、収納したり出したりしている。
今回は全員、初回特典として自分の身長の五倍を半径とした球の容積と設定してある。
直方体で計算し直すと、大体一辺十メートルに相当する。ちょっとした倉庫がわりには使えるだろう。
「将来的には、ギルドで講習を受けたものには最小限の容積で持ってもらおうかと思っています。当初はレア魔法にしようかと思っていたのですが、この魔法が冒険者の生存率に直結するとしおりんが力説しまして」
ハンターではなく、あえて冒険者と言わせたしおりん。腰のあたりで手を振って、アンジェリーナにアピールしている。
あ、アンジェリーナが感激のあまり涙を流し始めた。
「ではみなさま、このあともごゆっくりお茶を楽しんで下さいませね」
そして、三人娘が退出していく。
「はぁ……アイテムボックス貰えるとは思わなんだ」
アンガスが割と感動した顔をしながら腕を組み、うんうんと頷いている。
「しかも、さっぱり理論がわからん。いやもう、清々しいほどにわからん」
「本当に、全く、これっぽっちもわかりませんねぇ。いやぁ、魔道士団の
バイオレッタが同調した。魔道士団の重鎮二人がうんうん唸っている横で、セレナがプワン、ポコん、プワン、ポコんと、入れたり出したりしている。なかなかにカオスな雰囲気のお茶会になってきた。
アンジェリーナは泣き止まず、サンディにヨシヨシされていた。
「これ、
「流石にそこは下さるでしょう。最小限かもしれませんが……」
「国防に関わる部分だからね、もう少しサービスしますよ」
カナが出てきた。
「まあ、身長の√2倍を半径とした球ぐらい?」
最小限の2.8倍の容積である。四畳半ひとつ分ぐらいであろうか。荷馬車にしたら、おそらく三両分ぐらいは入るだろう。
航空偵察されたのちに、荷馬車三両分の荷物を担いでオートバイの機動力でやってくる部隊……他国から見たら悪夢だろう。
そんな戦力を行使しないようにするために、他国に脅威だと認識させ、かつ絶望しないように調整していくのは大変そうだ。
特にプライドの高い国が隣にあったりすると、難易度が跳ね上がり……って、難易度上がりまくって裏ドラ乗ってますよ……
帝国なんて名前ついてる国が、プライドの塊なのは自明の理じゃ無いですか。
部屋の隅の方でセレナさんが侍女と何かやっている。なんだろう……カナが覗きにいく。
「お茶っ葉入れて、お湯入れて……蒸し蒸しタイム〜」
どうやらセレナさまがご自分でお茶を淹れている様だが、何か様子が……?
「はい、ここで茶葉を収納!」
なんと! ティーカップに茶葉とお茶を直接投入して、時間になったら茶葉だけ収納!
流石にその考えはなかった。さすがセレナさま。あまり憧れないし痺れないけどすごいです!
「宴もたけなわではございますが……」
カナがまたなんか切り出す。
「射的場に的をご用意してございますので、攻撃魔法使える方は是非お試しくださいませ」
パトリシア、エレクトラ、アンジェリーナが立ち上がった。
王宮本体から射的場までは、少々距離がある。
女性がゾロゾロ護衛がゾロゾロ、それはそれは目立つ。王宮から、議事場前の廊下を歩いてから騎士団の建物に入るのだが、通りかかった副大臣や元老院の秘書達がギョッとした顔で見つめてくる。
「では、あちらに普通の的、リフレクトマジック、あたるくん、と、三種類の的を用意しました。存分にぶちかましてみてくださいませ」
アンジェリーナは正統派、ファイヤーボールとストーンバレットを使うらしい。
「ファイヤーボール!」
ズドン
「ファイヤーボール」
ズドン
「ファイヤーボール」
ズドン
正統派だ。
そこにしおりん登場。何かアドバイスを……って、しおりん、ファイヤーボールを空中待機十連発とかいきなり教えちゃうんですか?
あ、アンジェリーナさん、また泣いてる。泣き虫さん?
パトリシアはウインドショットとストーンバレット。こちらも定番だし、人間相手にはこちらの方が使い勝手が良いでしょう。酸欠やら延焼やら有毒ガス発生やら、色々考えることが多いですから。ファイヤーボールは。
ここには娘のカナが張り付きます。
すでに、機関銃の様にストーンバレットの弾が飛んでます。元学園の女王、流石です。
そしてエレクトラ……
「ソルトウォーター!」
ザバァ!
何それ知らない。え? 海水作る魔法? 初めて見た!
「イグナイト!」
いやっ! 塩水ぶっかけてそれは凶悪だろ!
「ピットフォール!」
また知らない魔法きた! え? 落とし穴魔法? いや、そんな魔法使ってる人初めて見たし!
「ピットフォール、ピットフォール、ピットフォール!」
しかも、ぱっと見じゃどこに落とし穴があるのか、全くわからない。ちょ、これ後片付けしないと危なくない?
コトが青い顔して超センスを広げる。
地下空洞を知覚したらそこにウインドショットを撃ち込んで、とりあえず穴の場所だけわかる様にした。
「さっすがコトだわ。ピットフォールを全部見破られたのなんて初めてよ」
「いえ、エレクトラ母さま、これこのままだと危ないですから! 騎士団のみんななら、絶対引っかかりますから!」
「だから、今日は落ちるだけの落とし穴にしたのに」
「危ないからっ! 落ちたら怪我しますってば」
「落とすだけならまず死なないから」
「ダメだこの人、わたしら三人より問題児だったわ」
エレクトラと同年代に学園にいた人々に、同情したくなってきた。
「それにしても、秒で穴掘りできるの凄いわね」
「凄いですねぇ。土、どこに消えてるのかな……あとで調べよう。海水も、一体どこから持ってきてるのやら……エレクトラ母さまの魔法は研究しがいがあります!」
「いや、三人娘はそのセリフ言っちゃダメでしょ」
側から見たら、どっちもどっちに見えてくる。
こうして、ついに一般の魔法使いにもステータスオープン魔法を広める時代がやってきた。
次は男性諸君、そして魔道士団からハンターギルド経由で市井に下ろす予定だ。
しおりんはそのまま冒険者ギルド化したい様だが、うまく行くだろうか。
軍人でも希望者には伝授するが、いきなり攻め込むとか言わないことを祈るしかない。
もっとも、男性にはアイテムボックスは難しいだろう。ケイですらいまだに成功しないのだ。
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