第61話 三人娘、ダンジョンに行く
さぁ、今日が実行の日だ。
「ピクニックに行ってきます」銀
「ピクニックに行ってきます」黒
「ぴくにっくニイッテキマス」金
一人、隠し事の下手なのがいますが、まぁ大丈夫でしょう。
お弁当も予備の刀もアイテムボックスに入っています。当然、しおりんの開発した救急用品も、瓶に詰めた高濃度マイクロマシン入りスポドリも詰め込んであります。
三人とも動きやすい服装に着替え、準備万端整った!
「じゃ、行こうか」
カナの合図で三人が浮かぶ。見送るのは全てを知っているサンドラだけである。
「サンドラ、あとよろしくね。行ってきます」
ことりんが行儀良く頭を下げ、コトとカナは腰のあたりでお手振りをして、一気に高度を上げていく。
今日のために飛行魔法のスピードリミッターは変更してある。今までは初代パーマンぐらいの速度だったが、今日は二代目パーマンぐらいの速度になった。三割アップである。
ダンジョンの詳細な場所は、ケイに協力してもらってマッピングしてある。ケイの飛行機ならほんの三十分の距離なのだ。これを馬車で行くとなると、五日かかる。やはり、航空機は偉大である。
三人は最高速を保ったままぐんぐんとダンジョンに向かい、一時間四十分ほどで至近までやってきた。
実は『ダンジョン』と呼ばれてはいるものの、ダンジョン内部に入ることはほとんど無いらしい。
ダンジョン外へと溢れてきている魔物を討伐するだけであって、ダンジョン内部は危険だから入らないと言うのだ。
元はミスリル鉱山だった場所である。おそらく鉱山跡地として坑道が残っているのだとは思うが、確認は取れなかった。
「じゃ、この辺で降りますか。の前に索敵は意識の隅に置いといてね」
三人とも超センスで全方向の索敵を常時おこなっている。ただ、危険がなければ意識の表面に出てこないというだけだ。
今は意識的に全域のスキャンを繰り返し、安全確保に努めるようにする。
「おぉ、魔物の反応だよね。これ」
コトが感心したように言った。
「そのようですねぇ。なかなかな数じゃありません? この群れの中心あたりが坑道の入り口かしら」
「じゃ、そっちに向いて行ってみようか。敵対魔物への対応はどうする?」
「危ないかな? と思ったら対処でいいんじゃ無い? アサシンでもレールガンでもウインドショットでもいいけど、Non-Massは相談なしではやめようね」
と言うわけで、ちょっとした森の中を三人で進み始めた。
数十メートル進んだところで、第一陣の魔物が見えた。
「んー……ゴブリン?」
「ゴブリンだね」
「うわぁ、ゴブリンっ、かわいいっ、切りたい!」
しおりんっ! 一千年の恋も醒めるぞ、その言動っ!
グェ、グェっと駆け寄ってくる。ああ、この匂いか。良くラノベで出てきた匂いは。
どう見ても人の遺伝子入ってる気がするけど、話は通じなさそうである。近づいてきて武器を振り上げたのでウインドショットで吹き飛ばす。
「うーん……とどめ刺した方がいいのかなぁ?」
「まぁ、当分目覚めないとは思うけどね」
まぁ、レールガンであたり一面血だらけ! とかにするよりはと思っただけで、不殺のためにウインドショットを使ったわけでは無い。
「まぁ、行きましょ。危なかったらアサシン入れるから」
よいしょっとゴブリンを飛び越えて、先に進む。
再びゴブリン、しかも四匹だ。
…………四匹ともその場に倒れ込んだ。カナのアサシン魔法が炸裂したので、おそらく死亡しているだろう。多分、殺されたことに気付いてもいない。
このアサシン魔法にも弱点があることが判明した。
次に出てきたスライムである。
「あ、なるほど……どこを潰せばいいのかわからないや」
「スライムは核を潰せ……が定番だとは思いますが、核ってどこかしら」
そう、狙う場所がわからないと炸裂してもあまり効果がなかった。
「仕方ない。ファイヤーボール」
ボンっと音がして、スライムが消滅した。
「良くある『スライム飼い慣らして汚水浄化』とか『防水剤への加工』とか出来ないのかしら」
しおりん、魔物に夢見すぎだ。
まぁ、試したわけではないが……やってみる? え? 次回はそのための捕獲道具持ってくる?
しおりん、やる時はやる女である。
しばらく進むと、また魔物が
「コボルトだね」
「コボルトだねぇ」
「可愛くは……なかったわね」
これもアサシン一発である。侘びもさびもありゃしない。
「と言うわけで、おそらくこれがダンジョン入り口……よね?」
「多分、そうじゃ無いかしら」
「多分っていうか、これだわ。ねぇカナ、中の魔力追いかけてごらん。面白いから」
コトがニヤニヤしながら言う。モテない時のコトの顔だ。でも、第一騎士団の団長あたりなら喜ぶのかもしれない。
「あー、何これ、何この魔力。え? マイクロマシンさん、これここで量産されてる?」
「ちょっと尋常じゃない濃度だよね。とりあえずそこらじゅうに居るから、魔力の動きで周りの状況全部わかるのは便利だわ」
その通り、マイクロマシンが知覚することを収集できるので、周囲の状況が丸わかりになる。それこそ、そこらにいる生物達の中まで見えるレベルである。
「地下……300mぐらい? 魔力だまりみたいなやつあるよね?」
「有るね。流石に目指せないかな。ちょっと遠い気がする。とりあえず、少し覗いてみようか。見てみないことにはなんとも言えないし」
廃坑なので、入り口付近の柱やらはほぼ崩壊しており、内部で落盤が無いとも言えない。しかし、その場合は事前察知できるんじゃないかと思っている。このぐらいマイクロマシン濃度が高ければ。
「うーん、ここでマッピングできちゃうぐらい濃いねぇ。とりあえず初版マップ作ってみたけど、回す?」
カナが手早い。
「ん、お願い。っと来た。おー、3Dマップだ」
「さすがカナ。じゃ、マップ見ながら進もうか」
見ながらと言っても文字通りの意味ではない。他次元に展開した脳裏に浮かんだ状態を認識しているだけで有る。便利すぎてどんどん人じゃなくなっていく。
「このまましばらくいくと、魔物が数匹たむろってるけどどうしよう」
「ん? デストロイ?」
コト……サーチアンドデストロイ!物騒な娘っ子である。
三人娘で一番過激なの、実はこいつなんじゃ無いだろうか。
王宮内ではカナの方が過激だと言われているが、実は一番の穏健派がカナで有る。どうしても王女としての立場を利用して事を進めるパターンが多く、誤解されやすいのだ。
学校やロマーノ工房、飛行機工場などでの一番人気は圧倒的にカナなので、その辺でバランスを取っているのかもしれない。
ってうわ、コトがほんとに死の魔法をばら撒き始めた。
視界内に入る前に魔物の位置は判明している。登場する前からターゲッティング。その段階でおかしな魔力の動きを感じたら躊躇なく撃破。問題なさそうなら視認するまで待ってから撃破。
大した違いないじゃ無いか!と思うが、観察する事で色々調べているそうだ。
「見たっ? 今の見たっ? この目玉、風出さずに飛んでたっ!何これ不思議っ!もう一匹出てこないかな」
こんな感じで有る。
ただ、確かに風魔法に頼らず飛行していたようだ。次は即倒すのではなく、しばらく観察するつもりだろう。
小一時間ほど進んできたであろうか。倒した魔物の数は三桁を数え、マップによると入り口から二キロ近く歩いてきているようだ。
「まぁ、そろそろ時間かな?」
カナが視界の隅のタイマーを見ながら言った。
「そうですね。この短時間じゃ下の魔力溜まりまでは行けないかな」
「残念、目玉出なかった……じゃ、ここまできたよーってマークでも付けて、帰りますか」
コト、何をするつもりだ……
「いや、壁に三人娘参上って」
昔のレディースかよっ!それはむしろしおりんの時代の話だろ!
「あの、わたしディスられてます?」
いえ、しおりんはしおりんでいてください。
さぁ、帰りは基本的に登りです。ところどころ崩れてます。風魔法使うと崩壊するかも?
「さっきの目玉、もう一匹見たかったなぁ。倒さなきゃよかった」
よっこいしょーっと段差を乗り越え、コトがぼやいた。
「ぼやかないぼやかない。またすぐ来るからさ」
そんな事を言っても坂道は平らにならない。エンヤコラと登っていくと、何かが索敵に引っかかった。今までは周囲のマイクロマシン濃度が高すぎて、近づくまで気が付かなかった様である
「なんか、外に大物がいない?これ」
「いるね、相当大きいけど、なんだろう」
超センス、相手の魔力の大きさなどは良くわかるが、初めて遭遇した相手がなんなのかまではわからないのだ。
一度でもエンカウントしたことのある相手ならわかるんだが。
さて、もう一階層登ると出口で有る。
「どうする?」
「うーん……相手、こっちに気付いてると思います?」
「これだけ魔力ダダ漏れさせてたら気がつくでしょう。わたしら、全く隠蔽してなかったしさ」
「ん? デストロイ?」
「はーい、コトはちょっと黙っててねぇ」
「うー」
もう一度相手をサーチし直す。全長五十メートル級。あー、なんかもう、あれだな、あれ。
「これ、ドラだよねぇ」
「ドラでしょうね」
「ドラゴンかぁ、飛ぶ時の魔力の流れ見たいなぁ」
「それかよっ!」
「
「ドラゴンに限らず、意思の疎通の出来る魔物っているのかな?」
「ゴブリンもあんなだったしねぇ」
「まぁ今の所変な動きもしてないし、行くだけ行ってみようか。わたしはアサシンとイグナイトをスタンバッておくから、対話できるならしてみよう。何かわかるかもしれないし」
カナが現実的な案を出し、その方針でやってみることにした。
坑道を抜けると、外はまだ明るかった。坑道内でもライトの魔法で不自由はしなかったが、やはり外の明るさは格別で有る。
目の前に鎮座ましますこの巨体が無ければ。
『それ』はじっとこちらを見ていた。翅を畳み、首は高く上げ、見下ろすようにじっと見ていた。
カナはおそらく脳幹があるであろう場所と、心臓はこの辺かなぁ? と言う場所に、アサシン魔法とイグナイトをセットした。あとワンアクションで発動させられる。
コトは全力で魔力の流れを追っていく。魔力量が膨大すぎて処理が間に合わない。スクロール魔法さんがものすごい勢いでページングを行なっている。
「あつっ!」
まずい、意識野の一部が熱を持ち始めてる。さすがに脳を直接冷却するのは怖い。しかし、魔力のアウトラインは見えてきた。もう少し……
しおりんは意識をドラゴンの意識付近へと持っていく。せめて、このドラゴンが何をしたがっているのかが判れば……
警察大学校の『人質立てこもり事件説得交渉専科』も受講しているしおりん、もう一踏ん張りで行けると読んだ。
言葉では無い。
イメージでも無い。
ではなんだ? なんだか良くわからない。
しかし言いたい事は解る。
小さき力あるものよ、死にたく無ければ立ち去れ。立ち去らねばべばべべべべべぼぶばぼべ
カナがコトの危機を感じてイグナイト全力をぶちかました。
「ドラゴンさん、もし危害加えようってのなら、次は手加減なしで行きます。あ、ついでに手加減ありの心臓攻撃、もう一回」
ドラゴンがビクンビクン動いている。
「これ、頭の中を直接掻き回すこともできますよ。いかがします?」
ドラゴン。この星の王者。現在、この星には六頭のドラゴンがいる。
十数年前までは七頭だったのだが、一頭のドラゴンが魔力暴走で世界から消えたため、六頭になった。
しかし、それ以外ではドラゴンは無敵である。
無敵であった。
無敵であったがための、恐怖。今まで、痛みなど感じた事はない。心の臓が止まることなどある訳がなかった。
だが、今の痛みはなんだ? 心の臓が訴えるこの恐怖はなんだ?
そうだ、我は最強の龍である。このような脆弱な人族になど舐めべばぶべぼばばばばぶべべべ!
だめだ。このようなモノに負けるわけにはいかぬ。我は無敵の龍種である。
ドラゴンが大きな口を開け、魔力の流れが喉の辺りに向かう。
…………そして、そのまま全身の力が抜け、崩れ落ちた。
「流石に、ブレス撃たれるわけにはいかないもんね。申し訳ないけど脳幹焼きました」
「まぁ、仕方ないか。遺体はありがたく利用させてもらおう」
「はぁ、必死に交渉しようと脳内で語りかけていたわたしの苦労は一体……」
しおりん寂しそうです。
そして、アサシン魔法は本当にドラゴンにも有効なことが証明された。
兄を叩き落としたドラゴンが、なすすべもなく倒される。しかも外傷はゼロだ。
「これは、報告した方がいいのかなぁ?」
「したら怒られるとは思うけど、しないとダメな案件だとは思うわ。ドラゴンの存在って、世界のパワーバランスを保つ一端になってたはず。もともと王国にはいないから、この子は……北の山脈の子?」
「って事は帝国がらみかぁ、これまた面倒な……」
「ふと思ったんだけどさ……これ、マジックボックスに入るよね……」
コトがとんでも無いことに気づいた。
「確かに、入るね」
「なら、持ち帰って練兵場あたりで解体しようか。このあちこちの魔力だまりが気になって仕方ないわ」
そう、これを持ち帰れるのだ。
カナが知っている限りで、人類がドラゴンに勝ったのは初めて……いや、史上二回目ぐらいの偉業である。
持ち帰ったら大騒ぎになる可能性もある。
だが、これを置いていくと言う選択肢は、もうなかった。
地球で鏡の調査をしているときには、一切見せてもらえなかったドラゴンの遺体を、こちらなら好きなだけ観察できるかもしれない。
しかも、地球で調べたときにはきっとわからなかったであろう魔力経路や、魔力溜まりまで確認できるのだ。
「じゃ、入れるよ?」
コトがそう宣言し、マジックドラゴンの死体を収納した。
「疲れた……帰ろうか」
「うん、帰ろ」
「帰りましょ、おうちに」
三人は、ふわっと浮き上がると、王都を目指す。
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