第30話 せかいのふしぎ
ある日の夕方、いつも通り三人組が子供部屋に集まっていた。
「さぁ、今日の議題はっ! じゃじゃーん。世界の謎に迫ってみたいと思います〜」
ぱちぱちぱちぱちぱち。おざなりな拍手が少し寂しい。
「でまぁ、この世界のことが段々わかってきた気もするけど、謎だらけなのよね」
「あの月とか……」
今は見えていないが、間も無く出てくるであろう月。大きな月が三つ、細かい月は数知れず。そして空を横切る大リング。
「月は……何か大きな天体がぶつかって崩壊したんだろうね」
「わたしもその説に一票。わたしはまだ見たことないけど、大月は月食の時には月面に赤い点がいくつも見えるらしいし、その時のエネルギーで中身、まだ溶けてるんじゃないかなぁ」
大月と言うのは最大の大きさの月のことである。三つの月は『大月』『中月』『小月』と呼ばれている。そのまんまである。
「ただ、あれだけ派手に壊れてたら、この惑星にも相当な影響出てると思うのよね。どのぐらい前の出来事だったのかなぁ。ちょっとまだデータが足りないかなぁ。おそらく数万年以上は前だろうけど……」
「わたしが不思議なのは文化の停滞ですね」
しおりんが意見を出す。
「この王国が出来てからもうすぐ二千百年。アンガスさんに聞くとエルフの長老級は三千歳ぐらいの人もいるらしいんですが、当時でも馬車で移動して、鉄の剣と鉄の槍で戦争していたとか言ってました」
「うん」
「そして、それより前の時代の書物が普通に残ってるんですよね。保存魔法をかけられた紙の本が……」
「うん」
「三千年、ううん、言い伝えが本当なら五千年以上、この中世ヨーロッパ風の文化が続いてることになります。産業革命とは言いませんが、何かもう少し進歩していてもおかしくないかな? と」
「あー、それに関してはひとつ仮説立てたんだけどね」
カナが話し始めた。
「この世界、ものすごいエネルギー不足なのよ」
「?」
「こっち来てからさ、化石燃料の話って、聞いたことある?」
「あ……」
「そう言えば聞きませんね……」
「いろいろ聞き込みもしてみたけど、おそらく化石燃料がないか、もしくは枯渇してるか……だと思うの。基本的に燃料イコール薪または木炭なのよね。そうすると、蒸気機関の普及は難しいかなと」
「機械化が進まないから人手が必要になって、でも機械化されてないから生産カロリーが足りなくて人口増えなくて……」
「で、せっかく魔法のある世界なのに魔法はほぼ女性専用でしょ。で、それを女性がコントロールしてるならともかく……」
「男性上位社会ですねぇ。基本的に」
「そそ。まぁ王家は女性陣の力が強すぎるけど、一般的には完全な男性社会なのよ。これ、魔法の活用もっと出来てたら、多分猛烈に進歩したと思うわよ」
例えば、兄の飛行機に使う予定の風魔法を入れ込んだ魔石。あれ一個あればタービン回して発電ぐらいすぐにできる。あれ一個でも3kw/hぐらいなら行けるはず。家一軒分ぐらい賄えてしまえるのだ。
「まあ、魔石自体、希少で高価だけどね。でも魔法を直接的なエネルギー源とすれば、まだまだもっといろんなことができるはずでしょ。その辺の改革も、進めたいね」
「一部男性のヘイトを集めそうなので、慎重にお願いしますね。男の嫉妬は、すぐ暴力になりますから」
その暴力を暴力で叩き潰す系の女が何かを言っている。
「はい、気をつけますね。でもその前にわたし達にできることも、増やさないとね」
まだまだやりたい事はいくらでもあるのだ。頑張らねば。
「しかし、化石燃料がないとすると兄の目標の内燃機関の普及が難しくなるわね」
「個人レベルならエタノールなりメチルなり生産すれば何とかなるけど、普及は無理かなぁ。お兄ちゃんは『誰でも希望すれば飛べる世界』が希望なだけだとは思うけど。魔法が使えない人も気軽に飛べる世界かな?」
「ケイさんは、空を飛ぶことが人類の最高の幸せだと思ってらっしゃる
そう、ケイの希望は誰もが空を駆けられる世界。俺だけじゃない、世界中のすべての人に幸せを。
「だって神ですもの。世界中の人々の幸せを実現するために努力を続ける神、尊い……」
「はいはい。で、代替案って訳じゃないんだけどさ、ステータスオープンの更にライト版って作れないかな。今、魔法の発動の最低条件を満たせてない人でもインストールできればベストな感じで」
「最低条件って、最低発動魔力以下しかない人でもインストールできる様に?」
「そそ。そこのとこだけ魔石とかで補ってやって、一度でも魔法発動まで持っていければ出来ないかなぁ? と思ってさ。次からも魔法の行使には魔石が必要になるだろうけど、逆に言えば魔石さえ持っていれば大抵の魔法は使えることにならない?」
「そか、簡単な魔法ならただの魔石でも呪文と発動ワードで起動しそう。そしたら大掛かりな魔法は、魔石に書き込んでおけば使えるだろうし」
「これなら男性でもいろんな魔法、使えないかな? ただ、魔石の供給問題を解決する必要があるけどね」
今現在、魔石はとても高価な素材である。採取そのものは稀に魔物から取れるのだが、大抵はとても小さい。
魔力を取り扱える人間なら空っぽの魔石に魔力を込めるのは難しくないが、その魔石自体が足りない。
ケイの飛行機に取り付けた魔石クラスだと、一つで家が一軒建つ。四つなら集合住宅のオーナーになれる。
ただ、あの飛行機は全身が先端素材の塊なので、実は飛行機製造の費用に対する割合はそんなに高くない。王家さまさまなのだ。
「魔石が取れる魔物って、そんなに少ないの?」
「話を聞く限りではね。兄のあの魔石がBランクだそうだけど、良くて百匹で二個って話だったよ。」
「おお! ランクとかあるのね」
「そう、あるのよ。魔物ランクってヤツが! ちなみにドラゴンはSランクだって。そこら飛んでるワイバーンがCだったかな。あんまり強くないけど、手が届きにくいとかで」
「魔物も謎ですね。ワイバーンも、結局翼竜じゃないんですよね? 結局ドラゴンもどうやって飛んでたのかわからないままだし」
「あれはアンガス魔導士長と同じ原理でしょ。羽根はビジュアル的に欲しかった?」
「でも、羽根破られて落ちましたし、羽根に魔法かかってたのかな?」
「まぁ、この世界の人の魔法じゃ、あのリフレクト・マジックは抜けないもんねぇ。そりゃ難易度Sクラスだわ」
「てか、そんなのどうやって倒すのかしら」
「基本的には倒せないみたい。災害扱い?」
「まぁ、今のわたし達なら、Non-Mass系魔法でおそらく確殺でしょうね……」
あの危険なエネルギー系魔法はNon-Mass魔法と呼称することになった様だ。
Sクラスの魔物をワンパンできる幼年学校生。おそらく世界中探してもここにしかいないであろう。
「王都にいると、ほんとに魔物と縁がないものね。クラスには領地に魔物が頻繁に出る地域の子とかいるはずなのに」
「ほら、わたしら、友達いないから……」
どんよりと流れる空気……
「あ、アリスタちゃんとコリンちゃんがいるもんっ!」
「アリスタちゃんとコリンちゃんしか、いないよね……」
「もう少し、お友達作る努力、しようか……」
実際、その気になれば友だち百人ぐらいはすぐできるはずなのだ。三人とも重要人物中の重要人物。繋ぎがあって損はない。しかも朗らかで高圧的ではなく、三人が三人とも超絶美少女ともなれば、本来ならチヤホヤされまくって大変なハズである。ハズなのだ。ハズなんだけど……
「あのバカ侯爵の子が余計なちょっかいかけてきたせいで……」
「やはり、わたしの殺虫パンチが不味かったんでしょうか……」
「いいのいいの。しおりんは何一つ悪くないの。むしろコトを守ってくれた守護天使さまよ。ありがとうね。本当に」
「わたしからも、ありがとうしおりん。嬉しかったよ」
てれてれしているしおりん、かわいい。
「じゃ、こんどはわたしの疑問。スクロール魔法の初期からさ、割と魔法そのものの機能? で問答出来てるよね。プログラム組んでる時にもお世話になってるけど……あれ、何?」
コトが大きいのを入れてきた。
「あー、考えない様にしてたのに……」
「何なんでしょうね。神とかでは無い気がしますが、いろいろ優秀すぎますよね」
そう、優秀過ぎるのだ。これと比べたら、二十一世紀も半ばが見えてきていたあの頃のAIなんて、まるで赤ん坊だ。
「まぁ、いつまでも目を背けてても仕方ないわよね。すっごく簡単な解決方法、思い付いてはいるんだけど試していいかな?」
「え? なにそれ」
「き、気になります……」
「あのね、スクロール魔法で、聞いてみるの。あなたはだぁれ? って」
…………!
「な……なるほど……」
気になる……けどそれでいいの? ……でも、謎は解けるかも……真理へ近づくためには……後で検証頑張れば自分で解いたと言っても過言では無い……よし聞こう!
一瞬の逡巡ののち、コトがうなずく。すぐにしおりんも続いた。
「おっけ。じゃ、スクリーン出すよ」
カナが現実世界にスクリーンを展開する。後ろからはサンドラもワクワクしながら見ている様だ。
「スクロール魔法さん、あなたは……一体何者ですか?」
カナが音声入力をした。そのままテキストになってスクリーンに表示される。
『スクロール魔法の制御は、魔法実現システムのインターフェイスマイクロマシンの群体により演算される』
「……こ、答え、帰ってきた……」
実は、カナも半分ぐらいネタでやっていたのだ。まさか返事が返ってくるとは思っていなかった。
「魔法実現システムって何ですか?」
『魔法実現システムは、魔法の無い世界に魔法を生み出すための統合システムである。バイオマシンインターフェイス、エネルギー転送インターフェイス、次元管理インターフェイスに大別される』
「魔法って……科学なの?」
『肯定であり否定する。科学的手続きの繰り返しで動作するが、事象は魔法的である』
「あなたを作ったのは……誰?」
『人である』
「あなたが作られたのは、いつ?」
『原型が製造されたのは、この惑星の公転周期にして、六千八百万周期ほど前である』
……六千八百万年……これは本当に想像もしていなかった。数万年単位での昔、人類大絶滅を経験してるのでは? みたいな可能性は考えていた。しかし、六千八百万年はスケールが違いすぎて理解が追いつかない。
六千八百万年前と言うと、地球ならまだ恐竜が歩いていた頃だ。人類なんて、まだネズミと大差ない姿形をしていたはず。
「六千八百万年も人間がこの姿でいられる訳がない。必ず進化して別の生き物に変わってきているはずよ!」
『マイクロマシンにより、人類の変化は最小限の変化にとどめられてきた。初期設定時から一定の閾値を超えたものは、閾値内へと書き換えられる』
マイクロマシンによる遺伝子操作。ならばそのマイクロマシンはどこからきた?どこにある?今わたし達が話してる相手はどこにいるの?
「あなたは……どこにいるの……」
『マイクロマシンによる群体。どこにでもいて、どこかではない。ただ、存在に濃淡はある』
さぁ、なんかいろいろと混乱が始まった。サンドラは完全に理解の外に行った様で固まっている。
「さぁて、なんか数字が非現実的過ぎてアレ何だけど……マジか……」
カナが再起動を果たした。コトは考え込んでいる。しおりんも口を開いていないが、目が泳いでいる。
「まぁ、魔法は多分この、マイクロマシンが実現してるとしてだ」
「どうやって?マイクロマシンってことは小さい?大きな魔法の行使にはかなりのエネルギーが必要。あ、でもエネルギーは次元エネルギーを拾ってきていれば使いたい放題」
「まず、そのエネルギーをどうやって輸送してるのかとか、まだまだ謎は多いけどとりあえず今は何から解明していくか考えない? これ、全部追っかけてたら人生終わっちゃうわ。多分」
「大きなところから手をつけるのがセオリーだとは思いますが……」
「全部大きいから困ってんの。コトはどう?どれが根源だと思う?」
「んー、まずは、何でこんなことになってるの? この中世ヨーロッパ風の文化風俗とマイクロマシンの世界観が合わなすぎて」
「まぁ、聞いてみようか」
カナがスクリーンに書き込むイメージで発声する。
「ねぇ、マイクロマシンさん。何でここはこんな科学技術と文化なの?」
それから、マイクロマシンによる長い長い昔話が始まった。
というかマイクロマシンさんって、こんなに饒舌だったんだ……微妙なコトの反応である。
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