第21話 婚約発表
さぁ、いよいよ国王陛下としおりんの婚約が発表される。合わせてケイ、カナ、コト、しおりんの王宮預かりも公表され、身分保証がされることになる。
かなり前代未聞な決定であるため、国内外から大きな反響があると思われる上に、しおりんにご執心な第二王子の猛反発も考えられる。
「鬼が出るか蛇が出るか。しかしあの四人が揃えば鬼だろうが蛇だろうが怖くは無い気がするのぅ」
「御意」
いや、御意じゃねーし!
とか思いつつも意に沿わない婚約でも動揺しない強い女、しおりんである。
すでに謁見の間には主だった貴族が集められ、重大政策発表とやらを待ち構えていた。
このあと、陛下が玉座に上がり婚約発表を行いしおりんが登壇。その後王室預かりとなる四名の紹介がある。
当然これにも反対するものは出るだろうが、今回は王権発動による手続きなので有無は言わせない。
「国王陛下のおなりでございます」
扉が開き国王が出ていく。しばらくすると、おお! というどよめきが響き、再び扉が開いた。
「しおりんさま、お出番でございます」
合図と共に扉を抜けると、玉座の左へと歩みを進める。眼下に立ち並ぶ貴族たちが見えている。
(あー、学習発表会みたいだわ)
変なことを考えながら王に並ぶ。
「今回、余の第二妃として婚儀を約するシャイリーン・リットリーである。此度の婚儀は国の重要案件として取り扱う。またこれに際し、四人の子を王室預かりとし、王妃に次ぐ順位を持って国内外へと通達するものである。四人をここへ」
しおりんの背後の扉が再び開き、カナ、コト、ケイが出てくる。カナは国王の右へ、コトがしおりんの左へ、ケイがカナの右へ。
「彼ら四人の間には順位はない。また、此度の件は王権の発動に伴うものである。全ての貴族家に周知の上徹底するよう理解を求める」
謁見場が騒然とした雰囲気になるが、再びの王権である! の言葉で、今度は静まり返った。
(王宮内やケイさんとこはともかく、学校はうるさくなるかなぁ?)
しおりん、これで割と学校が好きだったりする。
「まず、キャナリィ・カッシーニ。カッシーニ王家の所属を外れ、王室預かりとする。続いてカテリーナ・マデルノ。マデルノ公爵家を外れ、王室預かりとする。三人目はシャイリーン・リットリー。リットリー子爵家を外れ王室預かりとする。最後にケイオニクス・ロマーノ。ロマーノ男爵家を外れ、王室預かりとする。」
国王は一呼吸おき、臣下たちを見回した。
「以上四名は、未だ幼年学校で学ぶ幼少児である。皆で温かく見守ってほしい」
国王が立ち上がる。
「ではそなたたちはこれから事務手続きじゃ、ついて参れ」国王の退出に付き従い、入ってきた扉から謁見場を出た。
「下からは見たことあったけど、上から見るとあんななんだぁ」
ケイがちょっと感動してるようだ。
「さて、明日からの学校、どうなるかな」
しおりんが気になるのはやはりそこらしい。
王家用の謁見控え室に、来客があったのはその時であった。
「第二王子のステファノ様が、陛下に謁見を求めております」
「やはり来たか、では半刻後に執務室へ来るよう伝えてくれ」
「かしこまりました」
連絡係が折り返した。
「さぁ、しおりんや、もうひと仕事頼めるかな」
「かしこまりました」
とは言っても、国王の隣に黙って立っているだけの簡単なお仕事である。表情は固定で、威嚇とかしちゃダメよ? と、言われている。
(そんなことしないし!たぶん……他の三人に何かしない限りは……だけど)
ここから執務室まではそう遠くない。時間になってから出向けば十分である。
国王はもちろん、しおりんも第二王子より立場が上になったのである。威張り散らしたりは、しないけどね。
ただ、あまり
(そういうの、コトとかケイさんとか苦手そうだな……)
そこからお茶を淹れてもらって一息ついて、さぁ、出陣である。
♦︎
第二王子ステファノは苛立っていた。
(アレは俺が見つけた俺の獲物だ。あの化け物を手なづけておけば、この先間違いなくこの国の中枢を握れる。なんだったら他国にも幅を利かせられる。アレはそのぐらいとんでもないゲームスイッチャーだぞ。それを横から掻っ攫う? 国王だからって舐めてんじゃねーぞ)
そんなことを思いながら執務室に向かう。第二王子は普段、王国会議棟の財務省に常駐しているため、同じ城内とはいえそこそこの距離がある。
まもなく指定された時間である。ドア前の騎士が一人だけなのを見て間に合ったことが確認できた。王が在室しているときは三人体制の守りになるのだ。
「ステファノだ」
たとえどんなに親しい間柄でも名乗らなければならない決まりになっている。それがたとえ王妃であってもである。
「承っております。陛下はまもなくお見えになりますので、中でお待ちください」
近衛が扉を開けてステファノを招き入れる。壁際に控えた侍女が頭を下げた。
それから待つことしばし、国王としおりん――シャイリーンが入ってきた。
「本日も国王陛下におかれましては……」
たとえ親子であっても、公式にはこのやり取りが必要になる。ステファノが公式に抗議に来たという意思の表れであろう。
「さて、陛下。そちらのシャイリーンは、私が目をかけ育ててきた娘でございます。今更その女の価値に気がついたからと言って、横から攫うのはどうかと思いますが?」
「あー、まず言っておくが……シャイリーンはもうお前より階位が上だからな。今度『その女』とか口にした場合は不敬として処罰もあり得るからそのつもりでな」
「なっ……そんなバカな。どれほど能力があろうと所詮は子爵風情の子、王家直系のわたしより上位だなどとの戯れ事が許されるはずがございません」
「あぁ、ただ優秀なだけかと思っておるのか。ならばその反応も仕方なかろう。シャイリーンはな、取り扱いを間違えたら、この国が滅ぶぞ?」
国王がステファノの目を見据え、再び口を開く。
「シャイリーンだけではない。先ほど紹介した四人、全員が国を滅ぼすほどの人材じゃ。そして、正しく育て上げれば、この国を世界一豊かにしてくれる逸材である。諦めよ」
「ならば正しく扱おう。シャイリーンはわたしが使う」
「その物言いが、すでに間違っておるわい。まぁ、ただでとは言わん。グライン領の管理を委譲する。悪くない取引だと思うが?」
「グライン領? ……ミスリル鉱山かっ!」
ミスリル……ほとんど算出しない鉱物である。神の落とし物などと言われ、出るときはまとまって出ることもあるが大抵は単発で塊が出てくる、軽く硬く魔力の通りが非常に良いとされる金属である。聖銀などと呼ばれることもあるが、取り扱いにくさも尋常ではなく、並の鍛治師では溶かすことすらできないという伝説級の鉱物である。
当然、ミスリル製品の価格は天井知らずとなり、継続的に算出している鉱山ともなると、その価値は計り知れない。
「しかし、あの鉱山のミスリルは王国にとっても手放すことの出来ない重要案件だろう。後で反故にされたら敵わん」
「算出したミスリルを購入することで補うこととする。移譲のための公式書類、なんなら今から書こうではないか。誰か、公証人を三人呼んできてくれ」
重要案件ともなれば、公認公証人複数による確認は必須であるが、三人用意することは珍しい。それだけ本気だと言いたいのであろう。
(今から育てるこの女と、明日から手に入るミスリル鉱山……ここは引くべきか)
こうして、今日この日は第二王子が手を引き、しおりんは無事に国王の婚約者となった。
「婚約者と言ってもそのうち解消するから安心せい。まぁ、普通に嫁に行くことは叶わんと思うが」
安心していいのか安心できないのかは良くわからないが、今の生活は気に入っているしおりん。ほっとして国王に向かって微笑んだ。
「お、おおう……これは破壊力高いな……このまま嫁に……いやいや、いくらなんでもそれはダメだろ」
しおりんの笑顔もかなりの暴力であった。
♦︎
翌日、幼年学校に到着するといつもの二人がやってきた。
伯爵令嬢、アリスタ・ウチ。同じく伯爵令嬢、コリン・ボルドリー。入学当初に三人がトラブった時も、普通に接してくれた二人に三人は気を許し始めていた。
「カナ様、コト様、しおりん様、以前おっしゃっていたのはこれだったのです?」
「ええ。と言っても、わたしらは何にも変わらないんだけどね。これからもよろしくね。アリスタちゃん、コリンちゃん」
ちなみに…しおりんに叩きつけられた侯爵子息は、可哀想に退学していた。昨日の発表の件もあるので復学は難しいだろう。弟でもいれば廃嫡すら有り得る。
今日の授業は音楽であった。ハープの様な弦楽器を使って、まずは音階を弾いていく訓練である。貴族子女たるもの音楽の心得はなければ恥ずかしいのだ。
しかし、これは三人組には鬼門だった。天才少女カナはともかく、コトとしおりんは真面目に受けないとついていけなくなりそうだ。
休憩を挟みながら午前中いっぱいの授業。これが終わると帰宅になるが、帰ってからも精進しなさいとのありがたいお言葉をいただいてしまった。
「むぅ、帰ったらスクロール魔法の改良しようと思ってたのにぃ」
コトが泣き言を吐きながらもハープを弾く。学校にあるものより少し大きく、感じがずいぶん違う。しおりんと二人で練習しているが、正直しおりんの方が上手かな?
二人の不協アンサンブルを聴きながら、カナが新魔法のソースコードを書いていく。
「アリコリの二人がいつも通りで安心したわ」
コトは答える余裕がない様だ。手がぷるぷるしている。しおりんは頷くと顔をカナに向けて答えた。
「ですねー。あの二人見てると、なんか癒されるーって気がしてきました」
「まぁ、六歳のお嬢さん見てたらそりゃ癒されるでしょう」
自分のことは棚に上げる。
「あの二人には、ある程度魔法教えてもいいかなぁ…もう少し洗練された魔法体系作ってからになるけどさ」
「洗練、したいですねぇ。何かいい方法ないかしら」
「音声認識だと発動ワード唱えてるのと変わらないし、リストから選択とか緊急時には間に合わないし…」
「あ、困ったときは全部じゃないんですか?」
しおりんが無茶振りを始めた。
「全部?」
「はい、全部。発動ワード唱えてもいいし、メニューから選んでもいい。なんだったらその場でコード書ける様にメモ帳機能とかつけちゃったり……」
「……拡張現実での魔法支援……あ、行けるかも……コト、ちょっと手伝って。しおりん、メニュー周りのインターフェースとか、ちょっと描いてみて」
魔法で仮想の表示パネルを展開して、そこに文字やら図形やら表示できる魔法。コードの書き込みだって仮想キーボードを表示すれば手書きよりよっぽど速そうである。
「あー、このままだと移動した時に置いてきちゃう…位置ポインタを絶対値で拾っちゃダメだよー」
「むしろ置いといて仮想伝言板とか作れないかな。あ、任意の場所に飛ばせればいいのか」
「あんまり遠くまでは無理だよ。せいぜい数十メートルかなぁ」
その日は結局、まともにハープの練習ができなかった。
いつもは超絶優秀なコトとしおりんが、ちょっと残念な成績となったことを職員室が喜んだ。それはもう盛大に喜んだ。酒盛りでも始めるんじゃね?ってぐらいの勢いで喜んだ。
「ああ、二人とも、人間だったんだ……決して人外魔鏡で働いていたわけじゃないんだ!」
カナの存在には目を瞑る。あれは人外。間違いない。
「コト様は音楽は苦手なのですね」
アリスタがやってきた。
「ええ、あまり得意ではないですねぇ」
「家庭教師の方はいらっしゃらないのですか?」
そういえば音楽の教師はいなかったな…と気がつかされた。ダンスやマナーの先生は付いているが、音楽はやったことがなかった。そして、やったことがある人とない人は、あからさまにレベルが違うのが習い事というものである。
王宮に戻ったら、早速おねだりしましょう。教師を一人……
翌々日、ついに拡張現実ディスプレイのベータ版が起動した。
「あ……これ、アレじゃん……いわゆるひとつの……」
「「「ステータス、オープン‼︎」」」
「うっわ、これ、ラノベのアレよね?」
「だね……そうか、こうやってできてたんだ。あれって」
「ということは、ステータス表示もできちゃったりするのかしら?」
「いや、さすがにそれは実装難しいかな?ステータスの概念からもうどうしたらいいのかわかんないわ」
「でも、この魔法、極めてったらものすごく便利じゃないかしら?うまくいけばスマホ並みにならない?」
「実装次第だけど……できるかできないかで言ったら、できちゃうね、多分」
なんか恐ろしいものを作り上げた三人であった。
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