第7話 公爵家令嬢 カテリーナ・マデルノ
コトが新型防御魔法を作り始めて、間も無く一年が経とうとしている。
あのちっちゃかった娘たちも、もう五年生。コトとカナの身長は、すでに150cmを超えて来た。
しおりんは140cm。こちらは同年代の平均ぐらいなイメージだ。
「でも、わたしだけちっちゃいの、なんかなんかです……」
「前世と同じくらいになると考えれば、そのぐらいじゃないのかなぁ?」
「うー」
しおりんが小さいんじゃない。コトとカナが大きすぎるのだ。
詩琳は生前の身長は、一番高かった時で158cmだった。日本人女性の平均にほぼほぼ近い数字だ。
琴と奏の身長は174cm。ちょっとびっくりな大きさである。あとちょっとでパリコレモデル級だ。
ちなみに、我らが神たる景の身長は171cm。男性平均ではあるが、琴奏より明らかに低かった。
更に高めのヒールでも履かれた日にはもう……
基地訪問の時はどこの基地でも歩き回るのが前提なので、歩きやすい靴を履いてくるのが救いだった。
「では、今日は新型防御魔法のお披露目をしたいと思います」
「わーわーぱちぱちぱちぱち」
いや、口で言わなくても……
コトは割と一人で魔法開発を進めてしまうことが多い。いわゆる『コト理論』がまとまる前に始めてしまうので、人に説明できないのだ。作りながら理論構築をして、まとめて発表することが多いのはそのためである。
「じゃ、まず展開しますねぇ。バリアっ」
パーンっと防御魔法が張られた。見た目は今までのリフレクトマジックと変わらない。
「って、バリアかいっ!」
カナが突っ込む。突っ込みたくなる気持ちはわかる。
「リフレクトマジックって長くない? 発動ワード使う人の場合、展開するのに舌噛まない? そこで、殺虫パンチ理論です。滝沢国電パンチが殺虫パンチに敵わなかったように、リフレクトマジックはバリアには敵いません」
しおりんもカナも『お、おぅ』みたいな顔をしている。
特にしおりんは殺虫パンチが得意技だから
「違います」
過去にそれでいじめっ子を退学に追いやっ
「違います。知りません。私じゃありません」
「まぁ、ネーミングはおいといて、何が変わったの? 見た目はリフレクトマジックそのものなんだけど……」
「みなさん、リフレクトマジックそっくりだけど挙動が違う魔法、知りません? 知ってるはずですよね?」
「そっくりだけど……違う?」
「そう、そっくりだけど違う現象」
「あったっけ? そんなの」
「ヒント。ドラゴン」
「ドラゴンってこないだの?」
「……………‼︎ ドラゴンっ、
しおりんが気付いた。
「ぴんぽーん、大正解でーす。これ、虹色膜はリフレクトマジックと同じなの。でも鏡面リフレクタに見える部分は、次元断層です。そのまま六次元に繋がってます」
四国沖鏡。彼女たちが転生する原因になった、ドラゴンの引き起こした事象。そして、みんなのトラウマになった現象……
「虹色膜はね、安全対策なの。それがあればほら、不用意に突っ込まないでしょ?」
「いや、割れたらアレになるわけでしょ? それはその……」
「ふふんっ、そんなことを許すと思う? 割れたらね、パンパカパーン、復活しますっ!」
「はぁっ⁉︎」
やって来ました射的場。もう子供達の遊び場と化してないか? ここ。
「行くよ。バリアっ」
コトがバリアを展開した。確かに出が早い。防御する時は一瞬が生死を分けることもある、出が早いに越したことはない。
「じゃ、しおりん、撃ってみてもらえる?」
「はい、行きますよ。ばんっ!」
しおりんのレールガンは、発動ワードが口鉄砲だ。
いつも通り、パリーんと割れる虹色膜。しかし、割れたはずの虹色膜がバリアの上に張られている。
「とまぁ、こんな感じです。じゃ、連射してみて」
「ダダダダダダダダダダっ」
三発に一回ぐらいパリーンと割れるが、後ろに弾が飛んでいく気配はない。
「割れると張り直しにだいたいコンマ三秒ぐらいかかるの。なので数発に一発は虹色膜で受ける感じかな。受けられなかった弾は、六次元へとさようならで」
つまり、今までみたいに割れば通り抜けられる……とはいかなくなったと。
「じゃ、次は魔法耐性ね。カナやってみて」
試したくてうずうずしていたカナが、喜び勇んでファイヤーボールを用意する
「えいっ」
フッ!
今までのリフレクトマジックに当たった時は、ズドンとすごい音がして、一撃で崩壊させていたカナのファイヤーボールが、音もなく消え去った。
「えいっえいっえいっ」
三連発したものの、全て命中の瞬間にかき消されるように消えていく。
「おおう、これ全部あっちに飛び込んでるだけ?」
「そそ。全部六次元行き。はじく、防ぐ、受け流すじゃなくて、吸収する? しかも『吸収限界超えればぁ!』みたいなバトル漫画的展開も皆無。だって、この宇宙のエネルギー全部ぶっ込んでも余裕の耐久だからねぇ。なんなら平行宇宙の分まで入れても平気よ?だって、アイテムボックスの原型だもん、これ」
ちなみにアイテムボックスは、四次元、五次元までしか利用していない。
「つまり、間違えてこの宇宙を入れちゃったら?」
「全部入ってみんなまとめて純粋なエネルギーになろうね」
「なに世界の破滅フラグ立てとんじゃー!」
「だから、安全装置として虹色膜つけたっぺー」
「訛ってんじゃないわよ、この茨城の田舎もんがー」
「いやそれ、カナも同じだからっ!」
「で、これが消える条件ってなんですか?」
理性を保ったしおりんが聞く。さすが三人娘の良心。
「消えろって思えばすぐに消えるわ。あと、術者の意識が無くなったら消える様に作ってある」
じゃないと、中で術者が死亡でもした日には、一緒に入ってる人たちが死亡確定になる。
「どうする?これ、広めて良い魔法かなぁ?」
「うーん……一般の人は必要無いよね……リフレクトマジックで機能上は十分だし」
普通はリフレクトマジックが抜かれる心配なんてしない。ドラゴンと正対して戦うとか、城門で攻城兵器の前に立ち塞がるとかしない限りは。
「じゃ、ステータス魔法持ち以上とかにしとく? あの娘たちなら問題ないでしょ」
こうして、新魔法として登録されたバリアだった。
今日は練兵場で魔法のお稽古である。
講師は三人娘。生徒はアンガスさんとバイオレッタ先生。なんかもう訳がわからない。
「……というわけで、攻撃魔法の威力を上げるためには、この胎内の通り道を整理整頓する必要があります。ハードウェアとしては、成人女性であるお二人の方がわたしたちよりも太く大きく有利なのです。ただ、それを十全に使いこなすためにはそこを通る魔法を交通整理して、全ての魔力がスムーズに流れる様意識してください。例えばファイヤーボールでしたら……カナ、的の前に張って」
「あ、うん、バリア」
スパーン。バリアが張られた。
「んん? リフレクトマジックではなくバリアとな?」
コトとしおりんが『あっちゃー』という顔をしている。
やってしまったカナは固まったままだ。
「えーと、忘れていただくことは?」
「できると思う? このエルフが?」
バイオレッタ先生が隣のエルフを指差して言った。
お耳ぴこぴこしながらワクワク顔のエルフが、コトの顔をじーーっと見つめている。
「ハァ……カナのおばか……仕方ないですね。今のは新しい防御魔法です。以上」
「ちょっと待てやぁ!」
下品なエルフである。
「じ、じゃあ、発動ワードが短いリフレクトマジックです」
「じゃ、発動ワードの短縮の仕方を教えてくれるということか!」
「少々お待ちください……」
隅の方に行って三人で協議する。念話を見られるとまためんどくさそうなので、ヒソヒソ話だ。
「カナのおばか」
「ぴぃ、許してくらはい……」
「で、どうしますか? 魔法の編集教えるのと、バリア教えるのと、どっちが安全だと思いますか?」
「バリアの方がマシかなぁ。危険性だけ十分に伝えて」
「そうしよっか…」
「お待たせいたしました。では、正直にお話しします」
カナがバリアの隣にリフレクトマジックを張る。
「あれは新しい防御魔法、バリアです。カナ、リフレクトマジック破って」
「ファイヤーボール!」
ズドバーン、一撃で崩壊するリフレクトマジック。
「じゃ、バリアの方」
「ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
かき消されるファイヤーボールに驚きのアンガス、バイオレッタ。
「このように、カナのファイヤーボールでもびくともしない防御魔法です」
「おお……カナ姫のファイヤーボールに耐えるとは……」
「ただ、この魔法には大きな欠点があります」
「欠点?」
「失敗すると宇宙が……この世界がなくなります」
「は?」
「この国も、この星も、この宇宙すら無くなる可能性があります。使います?」
「いや、今はもう少し考えようか……」
無事、ごまかせた様である。
♦︎
「カナ、さっきボケてバリア張った時、何考えてたん? カナっぽくないミスだったけど」
「ああ、ごめんね。あの時さ、エルフって何かな? って考えてたのよ」
「?」
「アンガスさん見ててさ、昔、マイクロマシンが人類を先祖返りさせた時、エルフやドワーフ、獣人達はなんでそのまま残されたのかな? って」
「ああ、魔物扱いだったんじゃないんですか?」
と、しおりん
「でも、魔臓無いのよ。亜人の人達って」
「あ!」
そう、魔臓は取り除かれているのだ。
「スクロール魔法さんに聞いてみる?」
「どうしようかな? って思ってるの。聞けば教えてくれそうだけど、聞いて知るばかりじゃいつまでも成長しないかなって」
そう、カナはコトに少しでも近づきたいのだ。わたしみたいなマヤカシの天才ではなく、真の天才に少しでも近づくために。
(やっぱりわたしは、コトになりたいんだな……)
しかし、そのために越えなければならない山は高そうだ。相手は世界の沢井琴博士だから。ただの企業の事務員とは桁が違う。
ただの事務員は上がって来た設計図のエラーチェックしたり、基幹システムの更新作業手伝ったりしません。ってか、何者? マジで。
せめてコトの百分の一でいいから、ひらめきが欲しい……コトの爪の垢煎じて飲みたいわ。あ、それは単純に欲しいかも……
いや、ダメだろ。第一の団長みたいな扱いされたくなかったらやめとけ。
あの人、これだけしょっちゅう出てくるのに、未だに名前も出て来てないんだぜ。
(エルフの謎。これで論文書けないかな? ポーリーさんにも協力してもらえれば更に深掘りできるかな? だいたい、なんでドワーフの女の子は二種類いるのかな。忘れてる人もいるかもしれないけど、ドワーフ女性の八割はコロコロボインちゃんなの。ポーリーさんが残りの二割の通称ドワっ娘。
この間研究資料を漁っていたら、ドワーフ女性の二割は性成熟出来ず、子を成せないとあった。おそらくそれがドワっ娘であり、ドワーフ男性からモテない原因なのだろう。
じゃ、なぜ性成熟出来ないのかな……そのあたりを支配してるのは、正直マイクロマシンに決まっているし。
でも、今のところドワっ娘が特に魔法が苦手とか、逆に得意だとかは聞いたことがないな。あーん、一人で考えてると煮詰まる。コト成分が足りないわ)
コト成分、毎日補給しまくってるだろうに。それこそ、前世の頃よりベッタリですよ、あなた達。
「コトだったらどこから考えるかな……」
ポツリと、独り言を言ってみる。
『一番訳わかんないとこ』
脳内のコトが返事をした。
(そうだよねぇ、コトだもんねぇ)
一番訳わからないのはなんじゃろかい、と思いつつ、次の主力エンジンの設計作業を進めていく。
(ポーリーさんは恐らく子を産めない……ん? なんかそんなの聞いたことあるぞ……って、あたしらやんっ!)
ガタッと立ち上がり、いきなり部屋を飛び出した。目指すは王宮魔道士団の置かれている西の尖塔、通称魔導塔だ。廊下の途中の窓から飛び出し、西の塔を目指して飛んだ。
「アンガスさんはこちらに?」
「おふぅっ!」
いきなり窓から飛び込んできたプラチナに、執務中のアンガスが驚いて椅子から転げ落ちた。
「いきなり飛び込むのはやめてください! はしたないっ!」
怒るのそっち⁉︎
「というわけで、エルフの方々の懐妊率ってどんな感じなのかしら?」
「また唐突ですね。まぁ、あまり妊娠しないですね。結婚してから子ができるまで、二百年とかザラですよ」
「なるほど。でも出来なくはないと。ふんふん。で、アンガスさんは?」
「パートナーがいないの知ってんだろーが! ケイくんもらって帰るぞ!」
「兄を取り上げたら命はないと思いますよ? 共に愛するなら応援されると思いますけど」
アンガスは、自分の首元でアサシン魔法がプチっと弾けるのを想像してしまい、震えが止まらなくなった。
「わ、わかったから、ぷちっはやめてね、お願いだから」
「え? ぷち?」
「い、いや、なんでもない、なんでもないんだ。ケイく……ケイさまはみんなの神なんだよな? な?」
「はい、それが判ってればコト姫の寵愛を受けることが出来ますわよ」
フフフっとコトっぽい笑みを残して、窓から帰っていく。
「なんじゃったんじゃ……あの暴れ姫は……」
(ピースが揃った……エルフもドワーフも、やっぱり元々魔物扱いだったんだわ。その後、何かが原因で人として扱われる様になり、魔臓だけが取り除かれた。しかし、魔法に頼り始めていたエルフやドワーフのために、より魔法に適した生殖器が与えられた……)
ドワーフの八割がコロコロボインちゃんなのはなぜなのか、まだ謎は残っている。しかし大きな流れとしてはこんな感じなのかな? と思うと、満足感が湧き上がってくる。
(ああ、コトがいつも言ってたのは、この感じなのかぁ)
どうせなら、あとでスクロール魔法さんと答え合わせをしようか、いや、このままクスクスと一人で楽しもうか。
この日一日、カナはかつてない程の上機嫌で過ごしていた。
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