二章 拙者、あの刀が欲しいで御座る!! 一ノ回

門番殿に教えて頂いた宿屋『木漏れ日の黒猫』という所を紹介して頂きました。

聞く処によると中心部より冒険者ギルドという処へ近い外周側の方がお安く泊まれるとの事で今回はこちらへ宿泊する事になり申した。何よりも飯が美味いそうで…いい加減何か食いたいで御座る。


現在地/アルアの街/外周区・西/宿屋『木漏れ日の黒猫』

もうすぐ日が暮れるのか既に中ではワイワイガヤガヤしていて楽しそうな雰囲気。

木の扉を開けると受付と書かれたカウンターには誰も居らず、入ってすぐ左側の食堂ではスタッフが引っ切り無し動いていた。ある女の子が彼に気付き、受付に戻ってきた。

「いらっしゃいませ!木漏れ日の黒猫にようこそ!」

ハキハキとした元気の良い声で女の子は出迎えてくれた。

「一泊したいんですが…」

すると女の子は慣れた手付きで鍵を用意してくれた。

「えーと一泊だったら素泊まりなら銅貨八枚で夕食と朝食付きなら銀貨一枚と銅貨五枚ね」

「じゃあ、夕食と朝食付きでお願いしますで御座る」

彼は門番に教えてもらった銀貨一枚と銅貨五枚を出した。

「お兄さん、この辺では見かけない方ですね。東国の方かしら?お夕飯ならすぐ出せるけど直ぐに食べる?」

「夕飯すぐ食べたいで御座る!!」

「もしかして、道中何も食べてなかったのかしら?わかったわ…空いてる席に付いて今持ってくるから。あと、此れは鍵ね、二階行って一番手前の部屋だから…多分番号振っているからわかると思うわ」

流石に食い気味で食事したいというのは…如何せん一日半何も食事していない。こちらの世界に来てからご飯はまだ何も口にしてない訳だ、心も弾むというものである。

空いてるテーブル席に着くと先程の女の子が水を入れた容器を持ってきてくれて彼の机に置いてくれた。

「食事の時は水は宿代に入ってるから、但し他の飲み物を注文する時は先払いね。食事はもうちょっとだけ待ってて、今温めてるから」

そういうと笑顔が素敵な女の子がパタパタと厨房側に戻っていった。

「ほう…陶器では無く…木と鉄で作った入れ物…で御座るか」

周りは段々と険悪な雰囲気になりつつあるのであった。酒場=酔っ払いが増えてきて一部では喧喧囂囂けんけんごうごうとなってきた。という事は大体どの時代でもあるような事が起き始めた。

「てんめぇ!いい加減にしろよ!!黙って聞ぃてりゃ、まるで俺らが悪い言い方しやがって!!」

「おめぇが、あそこで攻撃外したからそれを言っただけじゃねぇか!!」

はい、そうです、喧嘩です。大体酔っ払いが多ければこんな事の一つや二つ出てきます。彼は『はぁ』という溜息を一つつくとその横を通ろうとした女の子が二人の喧嘩に巻き込まれ一人が殴ろうとした肘が当たってしまった。女の子は堪らずによろけてしまい料理を床にぶちまけてしまったのだ。ヒートアップしている二人はお構い無しに殴り合いの喧嘩が勃発したのだ。

ふと、昔の事を思い出してしまい物凄い速度で二人の間合いに入り込み、二人の殴ろうした腕をそれぞれ掴み一言ポツリと零した。

お前おんしらは此処ここに何をしに来たがじゃ?」

普段の声のトーン2つ下げた程に低い土佐弁で仲裁に入った。そして更に続けて彼は言った。

「此処は食事する処であり、お前おんしらの喧嘩の場やないがやき殴り合いの喧嘩したいなら外でやってくれ…」

すると二人とも逆上して彼に罵声を浴びせ始めたのだ。

「ガキは引っ込んでろ!それとも先にその可愛い顔をベコベコにしてやんぞゴラァ!」

「生意気なガキが!外野がガチャガチャ文句いってんじゃねぇ!!先ずはおめぇから八つ裂きにすんぞ!」

その瞬間彼の顔はハッキリと見え、目付きは鋭く野生の狼のような形相をしていた。彼はそれぞれの左右の顔を見てから更に目を細めこう言い放った。

「八つ裂きにしちゃる?ベコベコにしちゃる?そりゃお前おんしら殺される覚悟があって言いゆーがじゃよね?人に手を上げるという事はそがな事でえいがよよね?(※それはお前ら殺される覚悟があって言ってるんだよね?人に手を上げるという事はそういう事でいいんだよね?)」

流石にその形相と目付きで睨まれその上、『』とまで言われたら喧嘩してた二人が真っ赤な顔から真っ青な顔に変化していく。幕末の攘夷志士じょういししだった彼は殺す事も殺される事も日常茶飯事だった故に出てきた言葉だった。常に明日の日の出は見れないと思い生活していた彼はそんな殺伐とした中で新たなまつりごとの為、また恩師・武市半平太たけち はんぺいた土佐勤王党とさきんのうとうの仲間達の為に、そして土佐の為に必死に生きてきたからこそ、こんな出来事しょうもない喧嘩でいざこざが起きる事が耐えられなかった。

更にはこのでも女の子が男達の意地のせいで思いする事が、何よりも許せない事だったからだ。

完全にビビってしまった二人は蚊が鳴くようなか細い声で言った。

「「す、すみませんでした…」」

彼は二人を睨んで低いトーンの土佐弁でこう話した。

「二人とも、謝るがはワシでのうて貴方おまさんが先程殴りかかった時に肘が当たった女の子とこの店とこの店に来ちゅーお客さんに謝るべきじゃないろうか?あと、声がこんまいぜよ(あと、声が小さいですよ)」

「「どうも!皆さんご迷惑をお掛けしてすみませんでしたーー!!」」

「…あと、ミレアのお嬢ちゃんゴメンな…当たってたの気付いてなくて…」

そう言って申し訳なさそうにミレアと呼ばれる女の子に手を差し出す、ミレアも苦笑いしながら男からの手を握り立ち上がった。

「お酒も喧嘩も程々にして下さいね」

「あんた達!喧嘩して終わったんだったらさっさと片付けてちょーだい!」

恰幅の良い女主人だろうか?がほうき塵取ちりとりを二人に出しだしながら激怒していた。そりゃそうだ、小競り合いと言えどお料理も水を入れてた容器もぶちまけて散乱とした状態になったままだった。

「「は、はいぃぃぃぃいいいい!!!!!」」

「ミレアは大丈夫かい?料理はもう一回作り直しさね」

苦笑いしてたミレアもしょげてしまう。しかし、今回は小競り合い起こした二人が悪いので二人から追加料金取るから気にすんなとだけ言ってぶちまけてしまったお皿等を持って厨房に戻っていった。

ただ、本来もう食事を始めていたはずの彼には本当に申し訳ないという感じで誤った。

「お兄さん、申し訳ありません。本当ならもうお食事全部出してたはずなのに…」

と、ミレアが悪い訳じゃないのに凄く申し訳なさそうに謝罪してくるので彼はミレアにこう言ったのだ。

「気にしないで御座る。そもそもそこの二人が悪いのでお姉さんが気にする事はないで御座るよ」

「それと…喧嘩を止めて頂きありがとうございます」

ミレアはそう感謝を述べると首を横に振り彼は『気にしないでほしい』と伝えた。続けてこうも言った。

女子おなごが殴られて見過ごす程、拙者は大人ではないで御座る。それに…」

「それに何ですか?」

「いえ、今のは気にしないで御座る」

彼は言いかけて止めたのには訳があった。それは幕末の京で見てしまった酔っ払いの旗本が給仕に勤しんでいた女子を無礼打ちした事。


―――――――――――――――

幕末/京/どこかの大衆酒場


彼は一人飲んでいた。数多くの仲間達も失い恩師・武市半平太も切腹させられてしまった。

飲まずにいられない状態であったのだ。

そんな中で旗本が二人で呑んで酔っぱらってた。たまたま給仕の女子が旗本に粗相してしまったようだ。

「お侍様、本当に本当に申し訳御座いません」

ひたすらに謝罪をしていたが一人の旗本が女子に手を出してしまった。頬を平手打ちしたのだ。

それでも、気が収まらない旗本は外に連れ出した。酒場の主人は『御無礼はお詫びするさかいどうか娘だけは勘弁しとぉくれやす』と申していたがもう一人の旗本がそれを制止せいしさせていた。

「おい、じじい邪魔すな。おめぇも邪魔するならおめぇも殺しまっせ!ギャハハハハ」

下品な笑いが凄くしゃくに触る。お前らとは気分が違うんだよ。

娘と旗本が外に出た瞬間に事が起きたのだ。

「これが本当ほんまの無礼討ちでっせ」

チャキン…バシュ!

本当に一瞬だった。若い娘は背中をザックリ斬られていた。周りには見ている人も多いのに誰も何も言えなかった…誰も何も出来なかった。

「ギャハハハハ、可哀そうにほんまに無礼討ちしてもうたで!せめて、一回いっぺんぐらいこましてといたら良かったかいな?ギャハハハハ」

それは無礼討ちでは無い、武士の横暴である。侍の品も欠片もない外道な行為でした。本当なら彼はあの町娘を助けたかった…ただ、この京で目立った行動は新選組にも目を付けられる可能性がある為、この場では何も出来なかった。

怒りで酒を持つ手が震える…憤りなのかも知れない。武士の風上にも置けない腐れ外道だ。だから、わしは…わしは…あやつらを放置出来ん!!!!!!

完全に殺意の衝動に駆られたわし金子きんすを少し多めに机に置いた。刀を携えて只々、今は泣く事しか出来ないご主人にわしはただ『面目ない…』と声を掛けるのがやっとやった。


鞘から抜かれる刀の刀身が鈍く光る。その瞬間二人の侍をあっさりと斬り殺す。

バシュッ!ザシュッ!!

「何や!うわぁああああ!!!!」

「タス…ごぇえええああ…」

その目…形相はまるで狼の如く荒々しくも狙った獲物を逃さない、そんなおぞましい人斬りの目だった。絶対にこいつらは殺すという殺意に満ちた恐ろしい気…。

裏路地にて人が二体倒れていた…その二人は酒場で無礼討ちと称し町娘を切り殺した連中。誰かがそれぞれに一撃のみで切り殺されていました。

お前おんしらのような奴がこの国を駄目にしちゅー事に気付かんき、わしらは天誅を下すがぜよ…」


斬り殺された二人はただの貧乏旗本のようなので斬り捨てた処で問題は無いと判断して彼は夜の京に闇夜に紛れて行ったのだった。


幕末の京でも結局は侍のせいで犠牲になるのは女と子供だった。新選組は多数の浪人が京都を警備をする側の人間ですが決して万能ではなかったのです。また、京都見廻組という組織もありますが旗本や御家人と言ったの侍で構成されているのも事実。

果たして本当に庶民の味方…いや、正義があるのはどちらだったんだろうか。


――――――――――――――――――


~歴史ポイント~

今回は無礼討ちです。無礼討ちは所謂『切り捨て御免』の制度になります。但し、江戸初期には辻斬りが禁止になり、それによって切り捨て御免による無礼討ちも辻斬り扱いになったようです(wiki調べ)

今回のような無礼討ちは無礼討ちでは無く、横暴であり普通に辻斬りとなります。

無礼討ちは本来、武士への無礼を何度も注意した上で致し方無く斬っても良いという制度でしたがあまりにも戦国時代にはそういうのが多かったんでしょうね。江戸時代に入り切り捨て御免という制度が無くなり無礼討ちは極稀にあったようですが殆どの場合は無礼討ちとしては認める事は無かったそうです。

因みに無礼討ちをして認められなかった場合は『改易処分』(クビ)になったり、『退嫡』(家督相続権の取り消し)とかもあったようです(Yahoo!!知恵袋より)

この様に時と場合によっては手討ちをしても斬った側が悪くなることもあるようです。また、武士の横暴では大名行列にて庶民が粗相したからという事で斬られる事もあったようなので現代の世に生まれたを感謝したいです。

幕末に置いても恐らく色々と暗躍していた時代という背景があり、人斬りが多く居たのは事実ですが庶民を巻き込んでまでやる斬り合いは滅多に無かったと思いたいですね(希望的観測)

というのも幕末を調べても四大人斬りは出てきますが、どう調べても幕末に無礼討ちをしたようなケースは無いようです。が、藩士は分かりません…土佐ですと階級によっては下士に対しても横柄で横暴な事も無くは無いようなのでもしかしたら庶民もそういう犠牲にあった可能性は捨てきれません。

※①人斬りと呼ばれている中で無暗に人を斬っていた者も居たという記事を見つけもしかすると攘夷志士だったり他の勢力に加担している中には庶民を切り殺してたケースも無くないかも知れません。

それ故に今回のエピソードは少々誇張し過ぎたかも知れません。あくまでもフィクションだったと個人的には思いたいです。


※①について…人斬りの場合は人を斬る事に快感を覚え無暗な人斬りをしていた事もあり得ます。

また、一例に出した土佐藩も庶民からの反感を買う程には横柄で横暴な事をしていた可能性あると申しただけでやってたかどうかは調べても分かりませんでした。また、幕末において人斬りの恐怖を感じて任務に支障が出る為に薬で誤魔化し続けた結果、アヘン等でおかしくなり最終的には無暗な殺人を犯す者も居たのは事実ぽいです。あくまでも憶測の域は脱せませんので少々難しい所です。

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