一章 二ノ回
しばらく歩いても林がある程度で日も暮れようしていたので致し方無く、林の一つの樹の辺りで野宿にする事にした。鞄の中には一通りの物が入っていたので、慣れた手付きで火付け石で火を付け焚火を起こした。
因みに食う物は無かった…。
「
ふと、昔の事を思い出していた。
―――――――――――――――――
土佐藩内・どこかの街道沿い脇
一際目付きの悪い男と浪人風の男と茂みの中で街道を伺っていた。
「
浪人風の男は目付きの悪い男に尋ねた。すると機嫌が悪いのか目付きが悪いのに更に目を細め口を開いた。
「
「分かった、これで土佐の
見つめていた先の方から二人の武士が歩いてきた。一人は提灯を持っている瘦せ型の男で、もう一人は提灯を持ってる後に続いて歩いているのは少し小太りの男だった。二人は何やら談笑しているようだ。
「
「山名さんにはいつも勉強させて頂いちょります。これからも宜しゅうお願いします」
「頑張って実績を積んだら、わしのように直ぐにでも
どうやら小太りの方は上士でも中の下に当たる
「
「…変…言われても何が変かわからん…そこにおるがは誰やか!?」
山名に言われ止まり言い返すも、小林と呼ばれてる瘦さ男も気付いたようで茂みに提灯を向ける。
気付かれたと悟り頭巾を被った二人は街道にゆっくりと歩む。
そして頭巾の二人は上士の二人の前に立ち、抜刀し上士に刃を向ける。
「
「
「天誅や…」
「
ブンッ!…バッシュ…!!バシャッ!!…ボトッ…ブッシャアアアアアアアア!
小林が斬られた所から勢い良く血が吹き出す。
目付きの悪い以蔵の
そして、斬って直ぐに以蔵は返り血浴び着物も頭巾も真っ赤に染め上げていた。
「うううううあああああああああああああああ…!」
「
山名も抜刀しようと刀を抜いたが以蔵は山名が思っているよりも速く踏み込んできた。以蔵の動きは誰もが見ても素早く目にも止まらぬ速さで斬り込んで行った。
しかし、山名は経験値の差か抜刀が間に合わないと悟り鞘も抜き何とか一文字斬りを凌いだと思った。が、それも計算していたのか以蔵の攻撃は山名の鞘より下、下半身斬っていた。そして、斬った後に背後へ周り背中袈裟斬りでバッサリと斬っていた。その間が速すぎて山名はあっさりと亡き者にされてしまった。
ただ、小林はまだ息があり悶えながらも言葉を紡いだ。
「おんし……達は…何……で…こが…なんをするが…よ?」
以蔵は山名の
※当時は
「
「や…めて…やめ…とーせ…」
もう一人の浪人風の男は躊躇無く刀を…背中に突き刺した。小林はウッっと言った後に動かなくなり絶命した。突き刺された所から血が出て小林の着物を赤く染めていった。そして、死んだ小林の袴で血を拭う。突き刺した両手は震えていた…浪人風の男はこの日初めて人を斬ったのだ。
―――――――――――――――
パチっパチっと音を鳴らし木の枝を燃やしていた火は消えかかっていた。
彼はフッと目が覚め、焚火を眺めるうちに寝ていたようだった。火を絶やすと獣が寄ってくるので集めておいた木の枝を多めに放り込んだ。する少しずつだが火の勢いが戻ってきた。
「以蔵…お前はあの目が怖くなかったので御座ろうか?小生は未だ怖いで御座る…恐怖と痛さに脅える目…お主は何故あのように変わってしまったので御座ろうか」
今となっては分からない事。彼の言う以蔵に何があったのか?友と呼んだ以蔵が壊れ殺人鬼になった後は斬首された。
想いに更けいると空が明るくなり、その後は一睡も出来なかった。
若い身体故にこの程度は大丈夫なんだろう…若さは偉大也。そう思っていた。
夜明けと共に焚火の始末を済ませ前の晩に集めていた土を被せ、林に火が移らないようにした。
よし、っと彼の声が出ると手荷物と武器を携えて歩き始めたのだ。
―――――――――――――――――
太陽が真上に来る頃…遠くではあるが人工物が見えてきた。
左右に大きく広がる人工物。話しに聞いた事がある西洋式の城門だと思われる。高さも凄く有りそうな城壁。彼には少し笑みが零れたのだ。それはようやく人に会えると思うと何となく笑みが出ていたのだと。彼はどういう町にどういう人がいるのかワクワクしていた、人の為に働ける…世の為に何かを成せるかも知れないという期待、それは人として心が躍るという表現がピッタリなのではないだろうか?
夕刻…思ったよりも城門が遠くこの時刻になってしまったのだ。
中に入る為には身分証明書という物が必要らしい、しかし鞄の中にはそのような物は無く途方に暮れていた。順番が回ってきて彼の番になったので、彼は正直に身分証明書という物が無いとハッキリと門番に伝えた。門番は次の事を話してくれた。
「分かった、あの者に付いて行って手続きをしてきなさい」
後ろに居る門番を親指で差し、付いて行けと言ってくれたので彼は素直に付いて行った。
詰所と言った所だろうか、机と椅子が有りその机の上には水晶玉が置いてある。訝し気に観ていると椅子に座るように催促されたので言われた通りに椅子に座った。
「身分証明書が無いという事だったので、その水晶に両手で触って下さい。青色ならお金を支払って頂いて入門許可証をお渡し致しますね」
一つ疑問に思ったので尋ねる事にしてみた。
「もし、万が一別の色の場合はどうなるので御座ろうか?」
すると門番真顔に戻り、淡々説明をしてくれた。
「赤色の場合は犯罪有りとしてここで拘束したのち別の場所で尋問する事になりますので、もし何か犯罪を犯しているなら先に自白した方が身の為ですので…」
門番の顔は真顔だったのが、目が人を殺すような目になっていた。が、それも直ぐに無くなり笑顔になっていた。
「ま、君のような若い子が犯罪するとは思えないけどね」
何かよく分からないが良かった…。そう安堵するが転生前は
両手で水晶玉に触ると淡い青色に変わる。特に問題はないようだった。
「大丈夫だね、ありがとう。じゃあこの入門許可証をお渡し致しますので銀貨一枚手数料で頂きますね」
彼はポカーンしていた。お金は前の知識しか持ち合わせてないのでお金なんて持ってただろうか?となっていたのだ。
「銀貨…一枚?」
「えっと、お金無いのかな?」
これには門番も困る。どうしようとなっていた所、彼は皮の袋出して来た。
「お金って…この袋に入ってる物で御座ろうか?」
「えーと確認させて頂きますね……有りますね!銀貨一枚頂きます」
袋から銀貨一枚を取り出して書類に何やら書いている。
書類の文言はこちらの世界の言葉のようであるが、彼は何となく読めた。
入門許可発行手続き書?と書かれており…番号を振られた金属製の板にも同じ番号が振られていた。
恐らく貸出の手続きという事なんだろうと思った彼は聞いてみた。
「お役人様は貸出の書類の手続きがあるんで御座ろうか?」
「君、書類の文字読めるのかい?そうだね、この入門許可証は領地を預かっている領主様が問題ないよという証を渡す代わりに手数料も貰うという事なんだ。あと、入門許可証は無くすと即罰金刑に処されるので絶対に無くさないようにね。あと、
と、注意事項も含め色々教えてくれる門番は笑顔でサラッと答えてくれた。
「そうで御座るか、門番殿…
「改まって言われると何だかこそばゆいね」
談笑しながら手続きも終わり、お金の事も少し教えてくれた。
「
「なるほど、大体理解出来たで御座る。
「それじゃ、改めて『アルアの街』にようこそ!」
ここはアルアという街で比較的穏やかな街の一つである。アルアの街は『ヒュレッツマン男爵』領内の端っこの街となる。ヒュレッツマン男爵は領民の事をちゃんと考えて下さる方という事を門番は言っていた。元々門番という職業は領地お抱えの騎士がなる歴とした役人のお仕事なんですが、騎士が門番をやってしまうと汚職が横行しやすい貴族階級のまともに仕事が出来ない奴でも成れてしまう為に元傭兵や元冒険者に読み書きを教え、再教育した後に再就職先として半官職のお仕事として成り立ったという事。
※現代でいう準公務員に当たる職業になる。
(思ってたよりも此処の領地様は頭が回るで御座る…土佐藩にも見習ってほしい制度で御座る)
ようやく、アルアの街へ来た彼は紹介された宿屋へ向かうのでした。
次章へ続く…。
――――――――
~歴史ポイント~
今回の歴史ポイントは『刀に付いた血を拭う』です!
刀はどんな刀でも血と油で切れなくなります。なのである程度お金を持っている人は紙で刀の血を拭いますがお金を持ってない浪人や下級武士は斬った相手の衣類で血を拭ってたとされています。
紙は当時、結構貴重だったので毎回それで吹いてたらお金が全然足りなくなります。
また、刀は人を四回ぐらい斬ったらもう斬れなくなります。それ以上斬ろうとするならある程度の斬る技術が無いと難しいとも言われています。あとは血振りをして刀を振って落とすなんて方法もありますが現実は無理だとも言われています。脂を巻いた状態の血はかなりベッタリをしているそうなので結局手拭いか相手の衣服で拭っていたというのが定説ぽいです。斬った後はメンテナンスをしないと体液は塩分が含まれる為に直ぐに錆びますので目打ちや藁で焼くとかの方法でメンテナンスを行うようです。調べても出てこなかったので分かり次第またこのポイントにて解説していきます。
今回のエピソードで出てきた人骨すらも斬る以蔵の刀は一度鍛え直ししないといけません。
と言うのも骨すらも斬ったとなると余程腕前が良くないと刀身自体にダメージを受ける可能性がありますので、直ぐに鍛冶師に持ちこまないとなりません。
実際刀と言うのはメンテナンスが大変ですが、キチンと手入れをしてあげれば骨董としての美術品や居合で使う刀も長く使えるという事です。アニメ等で目打ちしているの見ると何だか嬉しくなります!
という事で今回は歴史ポイントはここまで。次回もお楽しみに!
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