悪魔との日常

 翌朝、目を覚ますとデイモンはまだ眠っていた。

 時計を見ると7時過ぎ、俺は彼女の為に朝食を用意することにした。メニューはフレンチトーストだ。


 香ばしい匂いに誘われたのか、彼女は目を擦りながら俺の姿を認識すると安心したように微笑んで意気揚々と席に着く。


「おはよう」


「おはようございます、今日のはトーストですか?」


 そう言って、彼女はフレンチトーストを指さした。


「ああ。だが、ただのトーストではない。フレンチトースト、デザートみたいなもんだ」


「なるほど、トーストをデザートにするなんて思い付きませんでした」


「ほら、冷める前に召し上がれ」


 彼女は目を輝かせながら、フォークを手に取りフレンチトーストを食べ始めた。


「とっても美味しいです!」


「そうか。それは良かった」


 彼女は夢中でフレンチトーストを頬張っていた。

 その表情からは幸せが滲み出ているようで、見ているだけでこっちまで幸せな気分になった。


 しばらくして片付けが終わったあと、デイモンがこちらを向いて言う。

 

「服を買いたいのですが……一緒に選んでもらえませんか?」

 

「お前が欲しいっていうなら構わないが、俺で良いのか?」


「えっと、私この世界のことあまり知らなくて……」


「そうだった……。その姿で行くと大騒ぎになりかねないんだが、翼は隠したりはできるのか?」


「そのことでしたらご心配なく、このように翼を小さくできます」


 そう言うと彼女は翼を小さく変形させる。


「無用な心配だったか……それじゃ少し待っていてくれ」


 そして身支度を急いで済ませる。


 *


「待たせたな、さあ行くぞ」


「はい!」


 俺たちは最寄りの駅へ向かうと電車に乗り込んだ。俺たちは座席に座りながら窓の外を眺めていたが、やがてデイモンが俺の肩に寄りかかってくる。どうやら眠くなってしまったらしい。

 

「着いたぞ」


「ここがショッピングモールなんですね!」

 

 嬉しそうにはしゃぐ彼女を見ながらショッピングモールの中へと入る。最初に向かったのは洋服売り場だ。

 

「これなんて、どうですか?」


 そう言って試着室のカーテンから飛び出してきたミニスカートを履いたデイモンを見て俺は驚愕した。すらりとした足が露わになっていて目のやり場に困るほどだった。


「似合ってませんか?」


 俺が視線を逸らすと彼女が頬を膨らませ怒気を孕んだ言葉を発したため、慌てて褒め言葉を絞り出す。

 

「そんなことないよ、すごく似合ってる」

 

「それは良かったです、気になる服がまだまだありますから楽しみにしていてください」

 

 そう言って彼女は別の服を探し始めたので、俺は諦めて付き合うことにした。

 次に彼女が手に取ったのは、今の季節の夏に合うようなワンピースだった。可愛いデザインも多く似合っていたので彼女の要望で他にもいくつか服を購入することにした。

 とくに彼女が初めに選んだワンピースはサイズもピッタリだったので、そのまま着てもらい会計を済ませることにした。

 

 買い物を済ませた俺たちは、昼休憩も兼ねて近くのカフェに入り、席に着く。


「こっちだと、私の知らないものばかりで大変です、でも楽しいです」


「楽しんでくれてるならよかった。食べたいのはあるか?」


「その言葉を待ってました、これ食べてみたいです」

 

 そう言いながら指差したの――季節限定のパフェ。

 しばらくして運ばれてきたパフェを見たデイモンは、すぐにスプーンを手に取り一口食べる。一口ごとに表情がコロコロと変わる彼女の様子が面白くてつい笑ってしまう。

 

「な、何ですか?顔を見て笑うなんて失礼ですよ!」


「わるい、食べてるお前が面白くて」


「だからって笑うのはダメです!」

 

 そう言いつつも彼女は楽しそうにパフェを口に運ぶ。そんな彼女の姿が見られただけで、連れてきた甲斐があった、そんな気がした。

 

 *

 

「今日は楽しかったです」


 家に帰るとデイモンが満足そうな顔で呟く。そして今度は少し悲しそうな表情になり続けて言った。

 

「次あるなら、もう少し静かな場所に行きたいですね……」


「行きたいなら、どこでも連れて行くぞ?」


「私は人ではなくて悪魔です、そんなにやっていただかなくても――」


「そんなこと分かってる」


「いつかは居なくなるんですよ?」


「そのときは帰れたってことだろ?もし1か月経っても帰れないなら、どれだけでも居ればいい。帰れるようになるまで面倒は見るさ、今日そう決心したよ」


 俺がそう言ってデイモンを見ると、彼女は目に涙を溜めていた。


「デイモン?」


 笑うように言うと、デイモンは零れた涙を拭きながら言った。


「ごめんなさい、こんな気持ち初めてで混乱してて、それで……」


「謝らなくていい、大丈夫だ」


 俺はそう言って、彼女を抱きしめる。彼女はびっくりしたのか体を強ばらせていたが、すぐに力を抜いて身を委ねた。


 その日以来、俺たちは外出するたびに新しい場所を訪れるようになった。映画館や水族館など様々なスポットを巡りながらこの1ヶ月間を楽しんだ。そして、あっという間に時間は過ぎ去っていく。

 季節は夏から秋へと移り変わっていくのだった……。

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