1か月の始まり

「これが、この世界ですか……」

 

 朝食をとったあと、デイモンは窓から見える風景を眺めながら呟いた。

 

「ああ、そうだ」

 

「綺麗……ですね」

 

 彼女はそう呟くと、窓から離れてソファに腰かけた。そしてカップを手に取り紅茶を飲む。その様子を見ながら俺もコーヒーの入ったマグカップに口を付ける。

 

「ここにはいつまでいるんだ?」

 

 俺が訊くとデイモンは少し考えた後で答える。

 

「そうですね……できることなら1か月はいたいです」

 

 数日だろうと思っていたため少し驚いたが、彼女の様子を見て放置しようとは思えなかった。仕方なく了承すると、彼女は微笑んでみせる。

 

「ありがとうございます」


 そう言って微笑む彼女の表情を見て、少し安心する自分がいた。


 それからほどなくして、彼女はソファで丸くなって寝る態勢に入ってしまう。やはりまだ体調が優れないのだろうか。

 

「おやすみ、デイモン」


 *

 

 書斎に入り仕事をしていると、いつの間にか日が暮れ始めていたことに気づいた俺は時計を確認して驚く。時間の経過を全く感じていなかったようだ。慌てて立ち上がるとキッチンへと向かうことにした。


「昼飯にしては遅いし、夕飯にしては早いな」


 俺は苦笑いしながら、彼女を起こす。

 

「食べたいの、あるか?」

 

 そう訊くと彼女はしばらく考え込んだ後で遠慮がちに答えた。

 

「ここに載ってるオムライスというものを食べたいです」


 そう言って彼女は、棚に居れていた料理本を持ってきた。

 

「了解、すぐ作るから座って待っていてくれ」


 俺は手早く調理を始めた。

 フライパンを熱してバターを引いたあと、玉ねぎや鶏肉を入れて炒め始めた。ご飯を投入して混ぜ合わせケチャップや調味料を適量入れる。ケチャップライスができたら、あとは簡単。別のフライパンで卵を焼いて、それを乗せるだけだ。


 完成したオムライスにケチャップをかけ、デイモンの前に置く。

 

「いただきます」


 デイモンは、そう言ってスプーンを手に取ると一口食べる。すると彼女の頬が緩んでいく。

 

「とっても美味しいです!」

 

「それは良かった、おかわりはいっぱいあるから腹いっぱい食べるんだぞ」


 *


 早めの夕食を食べた後、俺は風呂に入った。

 風呂終えると、ソファの上で丸くなってすやすやと眠ているデイモンを発見する。

 

「起きろ」


 返事はない。仕方なく揺り動かすと彼女は目を開けてこちらを見たあとぼんやりとした表情で周囲を見回した後にまた目を閉じてしまう。

 

「風呂はどうするんだ?まぁ、別に構わないんだが……」

 

 俺がそう言って離れようとすると、彼女は起き上がり俺の服の裾を掴んで言った。

 

「……はいります」

 

「わかった、一応聞くんだが入り方は分かるよな?」

 

「当たり前です」

 

 そう言って浴室へ案内するとデイモンは中に入って行く。


「これ、俺の服だが置いとくぞ」


 しばらくして風呂から出てきたデイモンが俺の隣に座ってきた。服は着ていたものから、俺のものに変えたようだがサイズが大きいからか、ぶかぶかな上に鎖骨まで見えてしまっている。そんな状態で、デイモンが俺の肩に頭を預けてきた。

 これじゃ、仕事の続きができないな。


 それでも、気持ち良さそうに寝ている彼女を見ていると少し安心するのは気のせいだろうか。


「おやすみ、デイモン」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る