第6話 兵士団長と神父さん

 ナデシコ「ハイっ!」


 「やっぱり!日本人の顔してるし、久しぶりに見たなあ異世界の同郷者!」


 ナデシコ「あんたは?」


 「すまない。言いそびれたね。俺の名前は服部薫はっとりかおる見ての通りの日本人さ!」


 日本人.....!?マジか!私以外にもいたんだ!

 それから私がこの世界に来て、やるべきことを話した、久しぶりに日本人と話せたのだテンションが上がっていたのだろう。


 ナデシコ「あんたも神隠しに会って召喚された感じ?」


 ハットリ「違うんだなぁこれが。僕は、元々車で山道走ってたら、霧が立ち込めてね、そしたら車消えて、この世界の山ん中に突っ立ってたんだ。」


 霧に包まれて、車が消えたか。


 ナデシコ「これもやっぱり神様とかが関係してるのか?イタズラとかか?」


 ハットリ「イタズラっていうのは稀だと思うな、君がこの世界に来る前、失踪事件とか多くなかった?」


 ナデシコ「ああ、確かに。海に行って海流に流され行方不明、山に入って帰って来なくて行方不明になるみたいなのが多かった。まさか、これも厄災復活の影響…?」


 ハットリ「厄災復活と元の世界で起きる数多くの失踪事件、確かに関連はあるだろうね。」


 ナデシコ「ハットリさんはこの世界に来て、何か保有能力とか貰ったりしましたか?」


 ハットリ「ああ、もらったよ。保有能力:衣服作成デザイナーっていう、衣服とかを作る時限定で魔力を使って様々な素材を生み出して、服を作れるんだ。そこに置いてある洋服も普通の洋服より耐久力はあるし、温度も魔力で自動操作できる優れものさ。そういえば、ナデシコさん育成所に行くんじゃなかった?時間大丈夫?」


 ナデシコ「やべぇ!!今日はありがとう、それじゃ!」


 あっぶねぇ、マジやべぇまだ間に合うかな?

 焦りながらもギルド区の通りをそそくさと歩いて行く。


 ギルド区もギルド区で結構賑わっていて、魔獣の素材などを買取る場所では数多くの希少素材が出回っている。商業区では売っていないような、様々な武器。アホみたいにテンションが上がってくる。

 そんな事を思っていると白装束を身に纏う怪しい人が通り過ぎていった。

 なんかヤバそうだな、後を付けてみるか。

 時間を気にしつつ、その人の後ろをつけていく。

 デカい、180cmはとうに超えてそうな身長に鍛え抜かれたであろう白装束越しからでも分かる筋肉。

 そして怪しい人は、教会らしい建物の裏へと入った。


 もしかして、教会の人を殺しに?


 そして教会裏を確認すると……なんと筋トレ器具が置かれた個人ジムの庭であった!


 えぇ………庭?あの男は?


 家へと続く庭の扉が開くとそこには、いかにも筋トレを始めようとする、白装束を脱いだ男の姿が!そしてその男と目が合う。


 「どうしたのかね?」


 とラスボスしてそうな低い声で声を掛けられる。


 ナデシコ「す、すいませんでしたー!!」


 私は咄嗟に逃げ出し、兵士育成場に向かった。

 育成場は兵士以外にも使うことができるようで、弓矢の的や複数の動くダミー人形などが置かれていて非常に充実している。

 そして奥から迫力のある声が聞こえてくる。


 兵士たち「「1!2!1!2!」」


 「全体止め!これにて本日の訓練を終える、シャワーでも浴びて明日の訓練に向け体を癒やせ!」


 あれかな?訓練って。

 とりあえず、隊長ぽい人に話しかけてみよう。


 ナデシコ「すいませーん!訓練を受けにきたんですがここであってますか?」


 「あぁ、ここで会っているとも。王から話は聞いている、兵士団長のフィン・マグリールだ。」


 ナデシコ「フィンさんよろしくお願いします!」


 フィン「まずは、君の実践的な戦闘スタイルを知りたい、それを基に君の今後の訓練を練っていくからね。」


 ナデシコ「戦闘スタイルってどうやって分かるんですか?」


 フィン「もちろん模擬戦だ!」


 マジかよー!まだこの世界に来てから半日だぞ!

 戦闘なんか、高校の頃やんちゃして喧嘩三昧だったのと親父にやらされてた柔道くらいしか経験ないけども!


 フィン「大丈夫。私も手加減はするさ、君と同じように異世界から来た人を見てきたが、君は他と違って身体の基礎はできている。」


 ナデシコ「見てきたというと?」


 フィン「商業区で服屋をやっている、ハットリがいるだろ、彼とも一度模擬戦をしたことがあってね、その頃の私はまだ異世界の人がどれほど戦闘に不慣れであったのか知らなくてね、ちょっと事故っちゃったんだ。」


 服部さん、そうだったんだ…


 フィン「こんな事してては日が暮れてしまう、あそこのフィールドで始めようか!」


 私たちは場所を変え、育成場での試合を行う場所に来た。

 各々武器を取りフィールドに入る。私は肉体装甲を発動し構える。私が取った武器は腕に付けるような小型の盾二つ。フィンは竹刀だ。


 フィン「よし、始めッ……!」


 フィンが凄まじい速度で接近を始める。

 そしてそれを私は咄嗟に避ける。


 フィン「おっ!いい反応速度だ!異世界で喧嘩でもやっていたのかな?」


 あっぶね!なんだあの突撃、まるで闘牛でも相手してるみたいだぜ!

 フィンの攻撃は続く、訓練用に用意されている竹刀を振りかざす。

 受け流そうとしたが更に一撃をもらった。

 体に衝撃が走りよろけるが……


 ナデシコ「ぐはっ……まだまだっ!」


 私は反撃に出る。両腕に装備している訓練用の小型の盾と共に連続でパンチを入れる。だがそれもフィンに軽くいなされる。


 フィン「いいガッツとパンチだ!だが、まだまだ甘い!」


 フィンはそう言い、決定打となりうる竹刀で一撃をもらって長い時間気を失ってしまった。


 フィン「大丈夫か?」


 ナデシコ「なんとか。」


 フィン「ならよかった、私からアドバイスだ、君の職は守護者であるパラディンだ、攻撃を受ける時に防御姿勢を取れば防御にバフが入るはずだ、だから受け流す体勢より、ガッチリと正面から受け止めればパラディンのメリットを思う存分発揮できるはずだ。」


 ナデシコ「………」


 フィン「さらにで言えば、君、肉体装甲を戦闘開始から発動していただろう。」


 ナデシコ「はい…」


 フィン「それだと効率が悪い、受ける直前なら余分な体力を削らずにもっと長期戦が出来るだろう。」


 ナデシコ「精進します。」


 フィン「それでいい、しっかりと今日の事を反省し次に活かすように。」


 ナデシコ「次?」


 フィン「模擬戦は月に3回行う、もし私を打ちかませるほど強くなれたらデトリア王に褒美をやってくれないかと頼んである。」


 ナデシコ「褒美というと?」


 フィン「それはお楽しみだ。今日の訓練は終わりだ、ゆっくり体を休めてくるように。」


 ナデシコ「はい!」


 その後、私はフィンに回復魔法をかけてもらい育成場を後にした。

 あたりは既に日が暮れかかっていて時間的にはどうだろうか17時くらいギルド区を抜けて帰ろうとした矢先、ギルドカードにメールが来る。


 【メール】ミダイヤ

 ミダイヤ(初めての戦闘どうだった?)


 ナデシコ(体が軽く感じた。異世界に渡ってから何かと調子が良くなってる気がする。)


 ミダイヤ(あなたの元いた世界では人間の力は抑えられているの、例えるなら常時重りをつけている状態、この世界ではそういった縛りはないから実際に体が軽くなるの。)


 ナデシコ(そうだったんだ、じゃあオリンピック選手とかがこの世界に来たらもっと強くなるの?)


 ミダイヤ(たぶん最強!って感じだと思う。まだそういった人は見たことがないから予想だけどね。)


 ナデシコ(そういえば今日凄くガタイの良い白装束をきた人見たんだけどあれって神父さん?)


 ミダイヤ(彼ね!彼すごく真面目な神父さんよ。ミダイヤ教の中でもダントツでいい男。)


 ナデシコ(恋してる?)


 ミダイヤ(しないわよ、彼既婚者だし。)


 ナデシコ(あの人結婚してるんですか⁈で彼の名前は?)


 ミダイヤ(私から教えるのもつまらないし、またあの教会に行ってみたら?彼今そこにいるわよ。)


 とりあえずはミダイヤの言っていた通りに教会に足を踏み入れた、掃除でもした後なのだろうかホコリ1つ落ちていないしステンドグラスに差し込む夕焼けもより美しく見える。


 「おや、貴方は昼頃に来た人ですね。あの時はお恥ずかしい姿をお見せしてしまいました。申し訳ない。」


 ナデシコ「いいえ、こちらこそ。私はこの世界に来てから日が浅くて、なんらなら今日来たばっかだったので。」


 「そうでしたか、貴方が噂に聞くナデシコさんでありましたか。申し遅れました、このデトリア王国でミダイヤ教の神父をしておりますラス=マハードと申します。以後お見知り置きを。」


 マジで神父さんだったんだ。


 ラス「せっかく来てくださったんです、何か聞きたいことでもありますかな?」


 しまった、神父に会う事以外に理由なかった。この状況どう乗り切るか。


 ナデシコ「さっきも言ったけど、私はこの世界に来たばっかで、ミダイヤ教について教えてほしいです!ミダイヤ教にも入るつもりなので。」


 ラス「そうでしたか、また1人信徒が増えていく、ミダイヤ様もお喜びになるでしょう。私でよければ知っている事をお話ししましょう。」


 そういうとラスは長椅子に腰をかけ話し始めた。

 内容は以下の通りである。

 聖神教会 

 女神ミダイヤを信仰する宗教団体。

 ギルドに援助などをする慈善団体でもある。その構造は、最高神官>神官>神父になっていて、最高神官は神ミダイヤと直接の接触が可能となってると噂されているが、最高神官自体の存在もあやふやで、最高神官は、元の最高神官の死亡確認がされた時にその座が開け渡されると言われているが、現在までにその座が渡されておらず、その座はいにしえの大英雄レオ=モードリスが持っている。

 彼は創立当時から最高神官になっており、神と接触した時に教えを伝えられそれが今の教えになっている。

 教えは、元いた世界の宗教のいいとこどりの教えになっている。ただ一点違うとすれば教えを守る事により、教会魔法を習得できる。教会魔法は主に光魔法の代用といった感じで、信仰心の強さによって威力や効果が変化する。ただし、信仰を損なっているのであれば使えない。

 ミダイヤ教の始まりは厄災の危機から救うために女神ミダイヤが厄災によるリセットに対抗するため作り出した教会魔法聖なる加護セイントバリアを教えた事を始まりとし、その対抗策を広めた人物がレオ=モードリスであり、彼が最高神官となり、今のミダイヤ教を作り上げ、厄災を封印した。


 長ったらしくなったが今の通りである。


 古の大英雄かあ、何とも浪漫に満ち溢れている。言うならば厄災退治の大先輩、最高神官はまだ彼のままってことは彼は生きてるって事だし、会ってみたいなあ。


 ラス「もうこんな時間でしたか、家族が待っているのでこれにて失礼、貴方に女神の祝福あらんことを。」


 ナデシコ「ああ、おやすみなさい。」


 そして私は商業区で夕食を取り部屋に戻った。

 にしても今日は疲れたなあ、異世界初日にしてはハードスケジュールすぎ!回復魔法かけてもらったけど気力や体力は回復してねーし。ちゃちゃと寝よう!

 この頃の私はまだ見えなかった。近い未来自分が厄災退治の1人になることは。

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