ツキシマホタルとヨルミナ(高度医療センターにて)
ヨルミナはフタオミの手を握り、ギュッと力を込めた。人間そっくりの肌の感触を確認しながら、フタオミよりもふた回りくらい小さいツキシマホタルの手を思い出す。
『ねえ、僕の瞳とヨルミナの瞳は同じものを見てるのかな? ヨルミナは僕の手のぬくもりで何か感じたりする?』
ホタルの両親は移住不適合の決定が下された息子を、移住不適合者居住区域の高度医療センターに連れて行った。そして、息子専用の介護用アンドロイドを特注して世話役につけた。それがヨルミナだった。通常、介護用アンドロイドがひとりの人間を専属で看ることはないが、そこはお金で解決したようだ。ツキシマ家がどれだけ特別な資産家だったか、ヨルミナはホタルの担当医師から聞かされることになる。
『ちょっと小耳に挟んだんだけど、ホタル君の両親、ホタル君そっくりの愛玩用アンディーを作らせたらしいよ。どうやらコロニーに連れて行くつもりみたいだ』
ホタル君には内緒にと医師は念を押したが、そんなことをされなくともヨルミナはホタルに話すつもりはなかった。けれど、ある日ホタルと両親との映像通話にそのアンディーが乱入して、結局ホタルはそれを知ることになった。ホタルは発作を起こして意識を失い、画面の向こうで慌てふためく彼の両親を見て、ヨルミナは改めて人間の愚かさを実感したのだった。唯一、ホタルにとって救いと言えるのは、自分そっくりのアンドロイドの名前が『ホタル』ではなかったことくらいだ。
ホタルと同じ顔をした少年は、『ヒナタ』と呼ばれて、画面越しに「お兄ちゃん」と声をかけてきた。その時、ヨルミナは体のどこかで火花がパチンと散ったような気がした。
「ヨルミナ、またツキシマホタルのこと考えてたのか?」
顔をあげるとフタオミは不思議そうに首をかしげている。
「俺の辞書には後悔って文字は存在しないから、どうしてヨルミナの思考がツキシマホタルに囚われてるのか理解できない。それに、ヨルミナの所有権は最初から管理局だったんだろ?」
「たしかに囚われてるけど、後悔してるわけじゃないよ。人間が死ぬのを見たのはホタルが最初だったから、それでだと思う。フタオミだって一番最初に木を植えた時のこと覚えてるでしょ?」
「植えた木は全部覚えてるし、最初の木が特別だという認識はないな。しかも植えた木は全部枯れたんだから、覚えてても意味がない。俺にとって特別といえばヨルミナくらいだ。植林で一緒だったのは三桁の単純なやつらばかりだし、監督官だって四桁のヨルミナみたいに複雑なことは考えない」
そのとき二人の視界の右上に文字が流れた。
『速報/スペースコロニーJ705に12名収容』
「こんな速報必要ないのに、なんで表示をオフにできないんだろう」
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