第7話 神様にお願い(1,744文字)

 宇華と最後に会ってから一ヵ月が過ぎた。今日は仕事は休み。そして同じ職場で働く日高一誠とボートレースへ行く日。現在の時刻は午前十時。今は日高一誠のルーティーンであるギャンブラー御用達の神社に来ている。


「斉藤さんがボートレースにハマったのは嬉しいです」


「いやハマってないし」


「いやいや、仕事が休みの日は必ず行ってるでしょ? これをハマったと言わずに何と言うんですか?」


「……日高、何故知っている」


「俺の情報網を侮ってはいけませんよ」


「おまえは探偵か! きっしょ」


 俺は日高一誠と並んで歩いて神社の賽銭箱に向かっている。


「斉藤さん、この神社って何故ギャンブラー御用達か知ってます?」


「知らん知らん」


「ですよねー。この神社は運気爆上昇のご利益がありますが、人生やり直しの神様でもあるんですよ」


「人生やり直しの神様? ギャンブルで破滅した人を助けてくれるのか?」


「はい、そうです。崖っぷちのギャンカスがこの神社の神様にお願いして、人生最後の賭けで大穴を狙うと必ず当たるという伝説があります」


「それはたまたまの偶然だろう」


「信じるか信じないかは斉藤祐一さん次第です」


 そう言って日高一誠はニッと歯を見せ笑顔で俺を見た。


 雑談をしながら歩いていると賽銭箱の前に到着。日高一誠は財布から千円を取り出し賽銭箱へと入れた。


「相変わらず豪快だな」


「ご利益のためですよ」


 俺も財布を取り出す。そしてお金を賽銭箱へ。


「ちょっ! 斉藤さん?! いくら入れてるんですか!!」


「ん? 九万三千円だけど」


「えっぐっ。そんなに大金いれる人は初めて見ましたよ。そこまでして勝ちたいんですか」


「まぁ……そんなところだ」


「さっきはハマってないって言ってたのに、やっぱりハマってるじゃないですか」


「だからハマってないって」


 俺は手を合わせて目を閉じた。


 ……こんな事をして何の意味はない。だけど……もし俺の願いが届くのなら……お願いします。宇華はギャンブラーではないけれど、宇華の人生を救済してください。あいつの人生はもっと楽しいはずなんです。あんなギャンカスの餌食になってはダメなんです。宇華にやり直すきっかけを与えてください。できる事なら俺が助けたい。でも俺にはそんな力はないです。だから神様、お願いします……。


「……さん。斉藤さん」


「ん? ああ、日高、悪い、どうした?」


「どうしたって、長い願いでしたね。そんなに負けてるんですか?」


「いや、全然負けてないし」


「もしかして、毎回万舟券狙いしてます? そんな毎回は当たりませんよ。だから万舟券なんですよ」


「分かってるって。じゃあ行こうか」


 俺の行動に疑問った日高一誠は不思議そうな顔をしたが、すぐに俺の行動を気にするのをやめた。


 それから神社から競艇場へと移動し勝舟投票券を買い観客席へ。


「斉藤さんの万舟券、今日も当たると良いですね。って聞いてます? もしもし、おーい」


「……日高、悪い。今日は別行動でいいか?」


「それは構いませんけど……どうしたんですか?」


「悪い、ちょっとな」


 隣にいる日高一誠と別れて、俺は少し離れた客席へと向かった。


「……久しぶりだな。貞松将悟」


「あ? ああ、なんだおまえか。何か用か?」


 俺は仕事が休みの日は必ず競艇場に行っていた。その目的はボートレースではなく、宇華の結婚相手である貞松将悟に会う為だ。そして今日、貞松将悟を見つけた。


「貞松、おまえと話がある。少しいいか?」


「俺にはおまえと話はない。俺は忙しいんだ。おまえのような糞ゴミイカれ野郎に使う時間はないんだよ」


 貞松将悟、おまえが糞ゴミイカれ野郎だ。と言い返したいが我慢した。貞松将悟はかなり不機嫌のようだ。負けているのか?


「分かった。おまえの時間を金で買う。それならどうだ」


「……三十万出すなら話くらいは聞いてもいい」


 三十万円……大金だ。


「三十万でいいんだな。分かった。今からフードコートに行こうか」


「ちょっ待て、今から始まるレースが終わってからな」


 すぐにボートレースが始まった。俺も今始まったレースの勝舟投票券を買っている。もちろん万舟券。


「……くそったれが」


 隣の貞松将悟は悔しがっている。どうやら勝舟投票券はハズれたらしい。


「貞松、行こうか。昼飯は奢ってやるよ」


 時刻は午前十一時。俺と貞松将悟は観客席からフードコートへと移動した。

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