第6話 幼馴染の宇華と会話(2,126文字)

「はい。この話はおしまい。ユウちゃん、服脱ごうね」


 幼馴染の宇華は俺の話を終わらせた。顔には出さないが、旦那の貞松将悟を悪く言われるのが嫌なのだろう。俺の着ているシャツのボタンを外そうとしている宇華の手を握り止めた。


「どうしたのユウちゃん? 自分で脱ぐの?」


「いや、そういうのはいい。さっきは悪かった。今日は宇華と話がしたくて来た」


「今日は私と話をするだけでいいの?」


「ああ、話だけでいい。俺は宇華の事は家族同然と思っている。俺自身のせいとは言え、宇華と仲直り出来た。地元を離れてからおまえのことはずっと気にしていた。だからいろいろと宇華の事を教えてくれないか?」


「ユウちゃんが話だけで良いなら、私はそれで良いけど、もう変なことは言わないでね」


「分かった」


 宇華の言う変な事とは貞松将悟に対する誹謗中傷だろう。


 そして俺は宇華達夫婦の事を質問した。高いお金を払って何もしないのを悪く思っているのか、幼馴染だからなのか、それとも一度だけしっぽりとヤッたからなのか、宇華は質問に答えてくれた。


 幼馴染の宇華は言った。貞松将悟には夢があると。宇華はその夢を応援している、夢を叶える為に夫婦で頑張っているとも。


 貞松将悟の夢、それは海外のポーカートーナメントに出場して優勝すること。その夢にはかなりの資金がいる。その資金を宇華が稼いでいる。普通の仕事では貯まらないので、高収入な今の仕事をしている。


 そして宇華の夫である貞松将悟は自称プロギャンブラー。ギャンブラーとしての質を高める為、日々ボートレースやパチンコ、パチスロを遊戯をしている。


 貞松将悟のポーカートーナメントの戦績を聞いた。俺は内心驚いた。貞松将悟は一度も大会に出場した事がないという。しかも貞松将悟は外国に一度も行ったことは無い。今はまだ準備期間中らしいが……。


 俺は今日、貞松将悟を競艇場で見た。その姿はプロのギャンブラーを目指している者の姿には見えず、何処にでもいそうな只のギャンカスだった。


「……宇華、なぜ貞松将悟が東京で経営コンサルタントの仕事をしていると嘘をついてる? 嘘など言う必要はないよな?」


「それはね、将悟さんがポーカートーナメントに出場して優勝する為に今は頑張ってる。って言っても、普通の人には理解は出来ないでしょ? だから東京で経営コンサルタントの仕事をしているという事にしてるの。それと、嘘を言ってる一番の理由は将悟さんのご両親が公務員でまじめで厳しい人達なの。だから将悟さんの夢は秘密なの」


 俺は宇華の話を聞いたが貞松将悟の行動は理解できない。嫁に働かせて自分は夢の為にギャンブルをやっている。どう考えても宇華を利用しているだけで、貞松将悟に夢や愛があるとは思えない。


 宇華には先程、変なことは言わないでと言われた。今の二人の関係は愛などなく、宇華が貞松将悟に利用されているだけと俺の考えを言えば、宇華は不機嫌になるだろう……今は言えないな。


 その後も俺は二人のことを聞いた。


 宇華と貞松将悟が仲良くなったのは中学二年生の頃、俺と絶交した後からだった。俺との幼馴染の関係が終わり、放課後の教室で一人で悲しんでいる宇華に貞松将悟が声をかけてきたらしい。そして相談しているうちに仲良くなったという。


それから中学の卒業式で貞松将悟が宇華に告白。宇華は告白を受け入れて付き合い始めた。


「なぁ、宇華。俺との絶縁で落ち込んでいたってことは、もしかして……俺のこと好きだったのか?」


「ん〜。それはないかなぁ。ユウちゃんは家族のような存在だったから異性としては見てなかったよ。ユウちゃんは私のことは好きだったの?」


「俺も宇華と同じだな……あのさ、貞松将悟のことは仲良くなる前から好きだったのか?」


「うん。そうだよ。私は将悟さんと仲良くなる前から好きだった。中学の新入生代表の挨拶をしている将悟さんを見てカッコいいと思ったよ。一目惚れだね。私の初恋の人。だからね、私が落ち込んでいる時、将悟さんが相談相手になってくれた時はすごく嬉しかったな」


「そか、初恋の人と夫婦になれて良かったな」


「うん。今すごく幸せ」


「……そか、宇華は貞松将悟の事を中学の頃からずっと好きなんだな」



「うん。ずっと好き。将悟さんも私の事を愛してるの。毎日私のことを好きって言ってくれるよ。毎日幸せだよ」


 俺には貞松将悟の好きという言葉に重みなど感じられない。やはり嫌われても宇華が利用されている可能性を言うべきだろう。


「宇華、あのさ……」


「あ、ユウちゃん、もうすぐ時間だよ。どうするの? 本当に話だけで良いの?」


「え? ああ、今日は話だけでいい。今日はありがとな」


 お金で買った宇華とプレイ時間が終わった。俺は一緒に来た日高一誠と車で帰った。その道中は宇華のことばかり考えていた。


 ……どう考えても今の宇華は不幸だ。本人は幸せと思っているようだが、貞松将悟は糞な最低な旦那だ。


 貞松将悟に真面目に生きろと言いたいが、俺は部外者。宇華夫婦に何かを言える立場ではない。


 俺は宇華に惚れている……今更宇華に惚れて何になる。宇華は人妻、そして盲目的に旦那を愛している。何故だ? ギャンカスの何処が良いんだ? まったく分からない。


 宇華……おまえは今の人生は本当に幸せなのか?

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