第2話 神代は熊とも読める

コロッセオ駅周辺には、Partyという飲食店がある。

仮面を持参し、仮面をつけながら食べるという異色の店だが、俺達の様な逸れ者には居心地が良い。

「Rosso!」

雛岸の声だ。外が良く見える席に座っている。

「悪いなMary。遅れた」

俺達は、ジャポーネだとバレない為に、RossoやMaryの様に名を変えて生活している。

「遅いわ。30分の遅刻」

「電車が止まってたんだ。あぁマスター、アラビアータを一つ」

マスターが、会釈をして準備をする。このマスターは俺達の正体に気づいているが、他の客には言わない。

ジャポーネに優しく…とは言い難いが、一般人と同じ様に接する人間も多少いる。

先程までいた店長等もそうだ。前々から俺から離れる様にしていた様子が伺えた。

「で?何の話だ」

俺はカプレーゼを食べる雛岸に呼んだ理由を聞く。

雛岸は嫌いなチーズを残し、それならカプレーゼを頼まなきゃ良いだろうと言えるくらいにチーズの残った皿を机の隅に置き、話を進める。

「潰瘍財団の連中がアンタを捕まえる為に改人を作ったらしいの」

「へぇ…」

潰瘍財団。あの施設の親玉であり、他国に勝つ為、日本人を幼い頃から自分達のコマにしようとしている財団。そして俺達の様な人間じゃ無い者。改人を生み出す研究をしている奴らだ。

「へぇって…まぁ良いわ。それでイタリアに新たな改人を積んだ船を出したんだって」

改人は、大体の場合、薬で押さえつけられ、財団の良い様に扱われる。その改虫をそうなのだろう。

「能力は?それにそいつはどれくらいでこっちに着く」

「こっちには着いてるらしいわ。能力は、分からないの」

俺は、机に出されたアラビアータを食べながら雛岸の話を聞く。

「でも一人だけだろ?それくらい雛岸で倒せるだろ」

「一人じゃ無いわ。何十人か出されたの。だから緘に話すの」

「…その様子じゃ。知り合いがいる様じゃないか」

雛岸の言い方は普段よりも暗く。何かあると感じるくらいには顔が寂しそうだった。

「神代鳴。鳴お姉ちゃんがいる」

神代鳴。施設で俺達の世話をしてくれた現在なら18の女の子。施設では、初恋ハンターと呼ばれるくらいには男人気が高かった。

「乗ってるって事は改人なのか」

「…」

雛岸が言葉に詰まっている。これは俺が悪い。

「悪い。嫌な気分にさせた」

「気にしないで。慣れてる」

「…俺行くわ。気をつけろって事だろ?」

「鳴お姉ちゃんだけは殺さないでね」

「……」

約束をできずに、俺は金を置いて店を出た。

「…ハァー」

煙草の味は嫌いだし、未成年だ。でも

「死にたいな」

早死にできるなら越したことはない。

改人は自殺ができない。無意識に再生するからだ。だが、改人に刺された時にコアが出る。それを壊せば一瞬で死ぬ。

俺は公園のベンチに座る。ここはあまり人も来ないし、俺にとっては安全地帯だ。

「ここ…座っても良いかな」

この公園に人が来るなんて珍しい。だが、イタリアンと仲良くしたくはない俺は、この人に席を譲らなければならない。

「ちょっと休んでだだけなんで退きますよ。どうぞ座って…?」

「思い出してくれたかな。久しぶり」

俺は、目を疑う。こんな早く来るなんて思わなかった。俺の目の前には。

「鳴姉ちゃん」

神代鳴が立っていた。

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戦争の十戒 ベニテングダケ @oojamiuo

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