戦争の十戒

ベニテングダケ

第1話 壊れた夢

「このCockroach野郎!身分を弁えろ!!」

目の前の男は俺の体を突き倒し路地裏のゴミ袋に俺の体が落ちる。

「どうしたんです?店長。怒らないで」

「どうしただと!?てめぇ!俺を騙しやがったな!ジャポーネの分際で、イタリアンを名乗りやがって!」

「…あの客か」

この前俺の鼻を殴ったイタリアンの客。あいつの拳に付着した俺の血が、あいつのアレルギーに反応したんだろう。この時代には珍しく無い日本人変作動(ジャポーネアレルギー)というやつだ。

「こいつは今日までの給与だ。もう二度とこの店に近づくな」

店長はそう言うと、給与を捨て置き、舌打ちをした後、路地から店に戻った。

「給与…大幅カットされてんな。3万しかねぇ」

俺は制服を脱ぎ、私服のフード付きジャンバーを着た。

「あの客…今度見たらぶっ殺してやる」

全部あの客のせいだ。とりあえず外に出よう。ここの空気は悪い。

「ジャポーネに人権はない!私はイタリアンの皆様に、平和に暮らしていただきたい!それだけです!どうか私に清き一票を!」

「…ジャポーネ差別は消えねぇな」

2031年、今から9年前の事だ。元から日本に敵対心を抱いていた国が日本と戦争を起こした。

特に、日本に敵対心を持っていた、イタリア、中国、インドの3国が集まり、日本を潰そうとした。

その結果、日本は潰され、人口は1億から2千人に大幅に消されてしまった。

「…?」

携帯電話が鳴る。

「…はい。もしもし」

「緘…雛岸です」

「雛岸か…どうした?今俺はイタリアにいるんだ。お前の相手はしてやれねぇぞ」

雛岸纏、俺の施設からの友人で、今は日本で暮らしている。

「忙しいのは分かってるけどこっちも大変なの。とりあえず今イタリアにいるから。待ち合わせましょ」

「…分かった」

俺は渋々承諾する

「コロッセオ駅に30分後」

「了解」

俺がそう答えると、通話が切れた。

俺は昔から雛岸に甘い。これも全部あの時雛岸に助けられたからだろう。

9年前、俺と雛岸は8歳だった。

施設での日々に飽き飽きしていた僕はは施設を出て川沿いに来ていた。そこに。

「この時間にジャポーネが歩き回るなんて…自殺する様なもんだぞ」

ナイフを持った巨体のイタリアンがいた。

「やべで…やべでよ!」

僕は体中をナイフで突き刺され、ボロボロになった。

「なんで…こんなごとするの…?」

「なんで…?ジャポーネを殺しゃ金が入るのさ。貧乏は嫌なんでね!俺の為に死ねぇぇ!」

僕は目を瞑り、少しでも痛みを感じない様にする。

だが、俺に次の痛みは来なかった。

「…なんで…ジャポーネが」

僕の前のイタリアンは身体に何かを突き刺され、足をぶら下げた状態で死んでいた。

「…大丈夫?緘君」

「雛岸…?」

そこには身体から、触手の様な物を出し、イタリアンを殺す雛岸纏がいた。

「雛岸…何それ…」

「…施設から出たら危ないんだよ緘君」

「雛岸…違う。僕の聞きたいことはそんな答えじゃないよ」

雛岸は虚ろな表情で僕に言う。それはきっと忠告ではなく警告。これ以上私に関わるなと言う警告なのだろうと、その時の俺でも分かった。

その後、川の影に座り、彼女と話した。一番に聞きたかった事をまず聞いた。

「その…身体は?」

「……改造」

「え?」

「イタリアンや他の国に立ち向かう為の改造、それを受けた」

「どこで…」

「施設」

「!?」

施設と言われて「どの?」と聞くことは、なかった。分かっていたからだ。俺達が通っている施設には、悪い噂があった。人間を人間では無い物に変える。その噂と雛岸の身体で僕の中で噂では無くなった。

「…いつ受けたの?」

「先月、誕生日会の後」

「…なんで僕らに言ってくれなかったの?」

「脅されたから」

「脅されたって…」

「緘君の改造を強い物にするって」

「!?」

自分の名前が出た事に驚いた。

「なんで…僕」

「緘君の身体は改造したらすごく強くなるんだって…でも私が頑張ったら緘君は改造しなくていいって」

「…なんで雛岸は僕を守ってくれたんだ?雛岸と僕は関係ないだろ」

「誰だって痛いのは嫌でしょ。私だって緘君だって」

「…ごめん。ありがとう…でも俺」

「逃げよう緘君…私達は」

雛岸が、そう言った時、ライトを持った施設の人間が来た。

「纏ちゃん。ダメじゃ無いか…緘君にだけは言っちゃ駄目だ」

「逃げるよ緘君!!」

「うん!」

小さい僕でも分かる。この先はどちらに転んでも地獄だと。なら軽い地獄に行くだけだ。

「やれ勝巳」

「はい」

施設の人間が、筋肉の発達した奴に指示を出す。すると、雛岸と同じ様に腕が、触手になり僕の腹を潰した。

「がっ…あぁ!?」

「薬を打て山田」

「やだ!緘君だけは!私なら何度使ってもいいから!」

「お前はもう用済みだ纏」

そう言うと山田と呼ばれた細い人間が、雛岸を思いっきり蹴る。

「つっ…」

「…はぁ…はぁ…雛岸ぃぃぃ!」

雛岸の身体が軽く飛ぶ、それに応じる様に注射を打たれた右腕が、疼く。

「!?おい!緘から離れろ!」

「雛岸…!雛岸ぃぃぃぃ!!」

感情のまま叫んだ時、僕の腕が、黒い刀の様になる。

「刀…いやそれより薬だけで、何故覚醒を!」

「雛岸…嫌だっ!君だけはぁ!」

僕の悪感情に応える様に僕の力が、無理やり動く、切れ味の良すぎる刃物の様に、3人の大人をサイコロ状に切り刻んだ。

「まさか…ははっ…」

最後に誰かも認識できない口が笑みを浮かべた。

僕はそれを足で潰した。

「…僕はこれで…殺人者だ」

その日の月は青く光り輝いた。

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