第9話 好奇心の先

 口内に焼けるように熱い鉄の味が広がる。左腕の感覚はもうない右腕にはかろうじて感覚はあるが骨が肉に突き刺さり激痛が常に襲いかかる。


「ひっひひ、どうなってやがる?」


 だが全てしばらくすれば元通りになる。口の中の血も、無くなった左腕も、もちろん骨が粉々になった右腕も傷一つ残さず元に戻る。


「ひっひひ、ひっひっひっひっひっ!!!」


 ダガンはひたすら頭を狙って殴り続けた。それが本当に頭だったと判断がつかない肉の塊になったとしても殴り続けた。もう、それしか方法がなかったのだ。首を折っても心臓を貫いても首を引きちぎっても何をやってもデヴィンは、復活する。


「ひっ、ひっ、ひっ、ミンチだぜ!!ひっひっひひひひ………ひ!?」


 それでもまだ再生する。顔半分が再生して少しため息を吐きながらデヴィンは愚痴をたれた


「……頭はな、痛みが消えるのは良いんだけど再生する度に走馬灯みたいに記憶がなだれ込んでくるから嫌なんだよ」


 そう言ってデヴィンは一瞬のうちに自分の人生を全て振り返った。このクソみたいな人生を


◇ 幸せな時


 俺は小さい村で育った。貧しかったが優しい両親もいて親友もいて俺の人生の中で一番の幸せだった。


「デヴィン、ご飯までには帰ってくるのよー」


「我に指図するとは、いい度胸だ気に入った!此度は貴様の言うとうりにしてやろう」


「アンナちゃん、変な息子だけどよろしくね」


「あ、はい。大丈夫……大丈夫?」


「なぜ疑問を持つ我が助手よ。行くぞ我が研究室へ」


 この時はとても楽しかった。バカに付き合ってくれる友達もいて俺を心配してくれる両親もいる。

 俺とアンナはしばらくして古代遺跡の近くに来た


「……ねぇ、またここに入るの?もう辞めようよ」


「我が助手ともあろうものが情け無い。今まで経験を思い出せ」


 俺は好奇心旺盛な子供だった。近くにある誰も近づかない古代遺跡に何度も出入りして、古代遺跡アーティファクトとも言えないようなガラクタを宝物のように集めていた。


「でもでも、村の人達みんな入ったらダメって言ってるよ」


 ああ、そうだ。この古代遺跡には伝承がある。「この遺跡に踏み入るもの、この地に災いをもたらす」一体いつからあるのか誰が言ったのかも分からない伝承だ。


「ハッ、そんなビビりどもの言う事など気にせんでいいわ。……そんなに心配なら、これをやろう」


 そう言って俺が渡したのは拾ってきたガラクタの一つの指輪だった。


「この指輪はきっと何かすごい古代遺物アーティファクトに違いない!その指輪があれば貴様の身を守るであろう」


 取って付けたような理由だった。それでもアンナは喜んで言った


「うん!ありがとう」


◇ 得た物


「……棺桶か?死体は無いが」


 俺達は遺跡の奥に進み謎の棺桶みたいな物が並ぶ部屋に辿り着いた。今まで探索した部屋と違って妙に明るかった


「ねぇ、ちょっとここ不気味だよ。もう帰ろうよ」


「……今回は助手の言うとうりにしよう。まだ準備が足りん」


 タン…タン…タン


「ッ!?」


 俺は咄嗟にアンナの口を押さえた。この遺跡には自分たち以外は入らないので音がしたら普通はロボットだと思うが違和感があった。ここの遺跡のロボットは車輪らしき物で動いている。人が歩くような音が出るのはおかしい


「静かに、ここでやり過ごす」


 俺は好奇心旺盛故にわかっていた。分からない=怪我をすると。かつて、遺跡のロボットに近づき過ぎて怪我した経験があるからだった。

 そう分かっていたのに俺は棺桶みたいな物にアンナと一緒に入ってしまった。


◇ 代償


「……あれ?」


 どうやら、意識を失っていたようだ。いつの間にか棺桶みたいなのから出ている。近くにはアンナも一緒にいる。


「おい助手起きろ。足音も無くなったし帰るぞ」


「……あれ?いつの間にか寝てたの?」


「全く、だらしない奴だ。行くぞ」


 俺はそう言って自分も意識が無かった事を内緒に先陣を切って進んだ。……ああ、これ以上はあまり思い出したく無い。


「えへへ」


「どうした、急に笑って?失笑恐怖症か?」


「そんなんじゃないし!……ただ、デヴィが一緒にいるだけで、心強いなって思っただけ」


「……フン、当たり前だ」


「あれ、もしかして照れてる?」


「うるさいぞ助手。黙ってついてこい」


「照れてるんだ〜」


「よーし、助手、上下関係を分からせてやる」


 そう俺がアンナに襲い掛かろうとした時、急に地面が揺れた


「きゃ!」「頭を守れ」


 だが、どんどん揺れが大きくなって遺跡の壁にヒビが入り始めてきた。


「アンナ!走るぞ!」


 俺はアンナの手を引いて遺跡の外まで走り、天井が落ちてくるのと同時にアンナ抱きしめて、崩落の瓦礫から身を守った。


「大丈夫かアンナ!」


「うん、それよりも今の揺れは?」


「分からない、とりあえず村まで逃げ……」


 俺は揺れの原因がわかった。耳をつんざくような轟音が大地から響き渡り、空は灰色の雲に覆われた。火山がその怒りを爆発させたのである。山の頂から溶岩が噴き出し、赤々とした炎が空を照らし出す。巨岩や灰が空高く舞い上がった。


「……嘘だろ」


 一言しか話せないほど一瞬で濃い灰のカーテンが俺たちを包み込んだ。

 空気は熱気と硫黄の臭いで満ち、息をするたびに喉が焼けるような感覚が走り、熱風が肌を焼いた。

 それは俺が初めて経験する死であった。


◇ どれほど時間がたったのだろうか


 俺は、ぼんやりとした意識のまま目が覚めた。自分の周りを覆っている灰の塊をどかし起き上って少し情報を整理した。


「……あの時確か……火山!村のみんなは?」


 俺は裸にも関わらず、すぐさま村まで行った。森林は倒れ燃え殆ど炭とかしているが、大まかな地形までは変わっていない。


「……せめて、誰か一人でも生き残ってくれ」


 デヴィンは走りながら頭がどんどん整理されて血が冷えていく感覚がよぎる。なぜ俺は今、生きているのか?もう火山が噴火して、しばらくたっていないか?もしかしてもうみんな……


「うるさい!考えるな!」


 俺は自分に怒鳴りつけた。考えてしまえば……考えてしまえば嫌な現実が……そう現実逃避しているうちに村に辿りつた。

 俺の村は……村だったものは火山噴火の爪痕が生々しく残り。家々は崩壊し、瓦礫が無秩序に積み上がり、黒灰と火山礫かざんれきが地面を覆っていた。


「あ、ああ、ああああああああああ!!!」


俺は膝から崩れ落ちた。もう叫ぶしか無かった……しばらくして俺は人を探し始めた。誰か一人でも生き残りがいないかガムシャラに、考えずに、力任せに、手や足がボロボロになりながら探した……だが、見つかるのは炭や灰になった人の塊だけだった


「あ………」


 俺は最後に探した所で言葉を失った。自分の家があった所だ。そこには自分の両親だったのであろう灰に覆われた人の塊が二つあった。急激にいろんな感情が押し寄せてくる。


「なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで!」


 意味が分からなかった。この怒り、悲しみ、理不尽を誰にぶつけていいのかも分からなかった。今までいて当たり前の人が村が……全てが!一瞬にして全て無くなった。分からない分からない何もかも分からない……分からないままにしたかった。


「アンナ……」


(そうだアンナだ。アンナはずっと俺と一緒にいた。アンナも生きてるかもしれない。……アンナさえいれば、この気持ちも少しは楽になるかもしれない。ただ……ただひとりぼっちは嫌だ)


 俺はそう思って自分が目覚めた所に戻った


「はぁ、はぁ、はぁ、どこだ?何処にいる!アンナ!アンナ!」


 俺はあたり一体にある灰を掻き分けて探した。探して探して探して探して……光るものを見つけた。


「アンナ!そこにいるのか待ってろ今灰をどかすからな」


 だが、灰を掃いても掃いても彼女は見つからなかった。ただ俺がプレゼントした指輪だけが残った。


「もしかして、この灰……」


 俺はその場所から動かなかった。


 これがデヴィンの10歳の記憶であった。








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救国の英雄〜メンタルだけなら誰にも負けねぇ〜 渡辺 @kinzyouryuiti

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