第3話
和泉は悩んでいた。ここ最近殺人事件続きで3日連続で寝ていない。一応2時間の睡眠時間はもらっているのだがこう殺人時間が続いては寝たくても眠れない。しかもこれらの事件には不可解な点もあり正直参っている。どの事件も容疑者が多すぎて、絞ることもできず、しかも犯人だと思えば誰もが犯人だと思えるほど怪しい奴らばかりで、正直参っている。ストレスから舌打ちをする癖が深刻だ。この前電話をかけて来た新聞記者は、人が死んでいるのに仏像どの因果とかいう意味不明な不謹慎なことを聞いて来て、思わずボコボコにしてしまった。被害届を出されて減俸処分を受けたのはここだけの話。このことは誰にも言ってはいけない。
自分語りは置いておいて、取り敢えず先程挙げた容疑者全員に話を聞くことになった。
1人目は伊藤陽介(25)という人である。
「被害者との関係は?」
「千恵は昔の僕の恋人でした。数年ほど前に別れたまま、連絡はとっていません。」
「昨日の23時30分ごろにエレベーターホールにいたそうですが何をしていたんですか?」
「今の恋人と部屋にいて、彼女が帰る時間だったんですが酔い潰れていたので仕方なく京都駅の新幹線ホームまでおぶってやったんです。
「それを証明できる人は?」
「さあ…おぶってやった彼女ならできるでしょう。名前は鈴木瞳で、番号はXXX-XXXX-XXXXです。」
彼は特に不快そうにするでもなく答えた。
佐々木警部が自分の方を見てうなづいたので、一度退室して鈴木瞳に電話をかけることにした。
「留守番電話に接続します。発信音の後に…」
30秒ほどのコール音の後も、彼女は電話に出なかった。
「出ませんねぇ。本当ですか?」
「さあ…寝てるんじゃないですかね。」
「嘘じゃねぇのか。」
「本当ですよ。」
こうして何度か押し問答を続けたが、彼は苛立つ素振りもなく真摯そうに答えてくれた。それに毒気を抜かれ、あと佐々木警部からの視線に耐えきれなくなった自分は舌打ちをして引き下がった。
「失礼ですが、松田さんと別れることになったきっかけは?」
「金銭トラブルです。彼女がどうしても必要だと言うので僕の金を300万円ほど貸したんです。そしたら彼女はそれを着服してギャンブルに使っていたんです。結局貸した300万のうち帰って来たのは50万ほどでした。」
「それで、どうなったんですか?」
「しばらくして彼女がいきなり120万円を持って来て言ったんです。もう世話にはならないからこれで手打ちにして欲しい、と。一応僕は受け入れて、彼女とは連絡をとっていません。できれば、全額返してほしかったとは思いますが。」
動機はあると言ってよさそうだ。
《中略》
こんな感じでしばらく質問を続け、もう話せることはなさそうだったので、一度終わらせることにした。
「なるほど、わかりました。また連絡しますので、待機室に戻ってください。」
「僕もまた思い出したことがあったらお教えします。」
伊藤が帰ると、自然と舌打ちがでた。ダメだ、とても怪しすぎる。仮に恋人の話が本当でも、元恋人と同じホテルに泊まるには偶然が過ぎる。しかも松田千恵と伊藤陽平はかつて金銭トラブルが原因で別れたという。それがまだ続いているらしく、動機も十分ときた。まるで神が犯人を見つけさせないようにするかのように、怪しいやつしかいない。コーヒーを飲んで、次の容疑者を呼んだ。
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