第2話

ホテルには警察のkeep outという黄色いテープが貼られ、その周りには野次馬や記者が詰めかけていた。私と佐々木刑事と和泉刑事は人の合間を縫ってどうにかテープをくぐりホテル内に入ることに成功した。私の部屋がある階に着くと、大勢の鑑識がいた。佐々木刑事は一緒にいた和泉に何かを耳打ちした。和泉はうなづいて出て行った。

 

 遺体は片付けられてしまっていたが、部屋は意外にも整頓されていた。私が座っていた椅子や隣に置いておいたモップはそのままになっている。唯一変わっている点は、入り口近くの棚が倒れていて、コップの一つが床に落ちて割れているところと、床にできた大きな血溜まりぐらいであろう。それ以外はまるでここでは何もなかったかのように、不気味なほど、元のままだった。私はふと疑問に思ったことを聞いてみた。

「死亡推定時刻はいつですか?」

「およそ23時30分ごろです。あなたは完全に寝ていたのかと。だから…」

「犯人が私を京都駅まで運んだと言うことですね。」

「そう考えるのが妥当でしょう。」

「こちらから質問をしてもいいですか?」

「できる範囲でお答えいたします。」

「僕以外の容疑者は誰ですか。」

「部屋のある廊下に防犯カメラは設置されていませんでしたので、エレベーターホールの防犯カメラに写っていた人物の中で昨日夜にこの階に来た人物で、かつ23時ごろにロビーか資材搬入口から外に出た人物を和泉くんが洗い出しています。」

佐々木刑事の洞察力の高さと仕事の速さに感心しながら、私は次なる疑問を呈した。

「非常階段を使ったりロビーと資材搬入口以外の出入り口から出た人はいないんですか。」

「非常階段の扉は開けると警報がなる仕様になっていますが、昨夜警報はなっていないので誰も非常階段は使っていないことがわかっています。ホテルの出入り口はロビーと資材搬入口だけです。飛び降りたなら、話は別ですが。」

「なるほど。」

「あと、今京都で起きている連続殺人事件とは関連がありそうですか。」

「まだわからない、と言ったところです。これまでの4件の事件も、それらが同一犯によって行われたという証拠はないですし。しかし、松田さんが殺人鬼に追われていたと言ったのであれば、何らかの関わりがあるかも知れませんね。」


 しばらくすると、和泉が戻ってきた。上司の前だからか、先ほど私を怒鳴りつけていた乱暴で知性の感じられない口調から一変し、敬語を使って報告を始めた。

「佐々木警部の言う通り確認したところ、5人の人物が該当しました。名前は加藤陽平、伊藤陽介、武田茜、渡邊博敏、藤本麻衣の5人で、うち武田茜と渡邊博敏は連続殺人事件の関係者です。」

連続殺人事件の関係者、その言葉を聞いて現場にいた全員の空気がピリついた。大事件に巻き込まれることにが嫌でたまらなくて、いますぐにでも帰りたいとさえ思っている私を除いて。

最悪な旅行だ、と私は苦笑した。

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