1人目

第1話

言われた通り警察署にやってくると、4人のいかにも強そうな警察官に囲まれて取調室に通された。道中見た警察署はとても忙しそうで、ピリピリしていた。きっと今市内を揺るがす連続殺人事件の対応に追われているのだろう。自分は悪くないのに囚人のような扱いを受ける気分はなんとも爽快で不快であった。しばらく歩いていると、狭い殺風景な部屋に押し込められた。灰色の薄暗い部屋に灰色の机と灰色の電灯が一つ。隣の大きな窓には数人の警察官がいる。椅子に座って刑事が来るのを待つ。しばらくすると、警察官がひとりパソコンとともにやってきて言った。

「念の為指紋を採取させていただきますので、スキャナーに両手をおいてください。」

「わかりました。」

後ろめたいことは何一つなかったので素直に従って指紋データを採取してもらった。

「ありがとうございます。続いてDNA採取の方もおこなわせていただきます。」

その後、別の担当者がやってきて、専用の綿棒で口の中をこすられ唾液を採取された。そこからDNAデータを集めるのだろう。

「申し訳ありませんが、一応あなたも容疑者の一人ですので。ご協力ありがとうございました。」

「いえ、とんでもありません。あなたも仕事をこなしているだけでしょう。私としても、事件解決のためにできることはしたいと考えています。」


 しばらく待っていると、刑事が2人やってきた。一人は女で、もう一人は男だった。女のほうが口を開いた。

「京都府警捜査一課の佐々木と和泉です。この度は捜査にご協力いただきありがとうございます。まず、最初にあなたには黙秘権が保証されています。我々がする質問のうちあなたが答えたくない質問には答えなくても大丈夫ですので、できる範囲でお応えいただければ結構です。」

「わかりました。」

「では事情聴取に移ります。まず、事件当日の夜のことを教えてください。」

私は言い間違いや記憶違いがないよう、言葉に気をつけて話し始めた。

「酒に酔っていて記憶が曖昧ですが、夕食後しばらくしたら、ええと、8時ぐらいでしょうか。自室で酒を飲んでいたら部屋に松田さんが来て一晩止めてほしいと言ったんです。それを受け入れた私は彼女を部屋に入れました。しばらくすると彼女は寝てしまったんですが、私は椅子に座って寝ずの番をしようとしていました。ですが、10時30分ごろ、急に眠くなって寝てしまったんです。」

「そしたら、京都駅で目が覚めた、ということですか。」

「そうです。」

「オイオイ、女がいきなり見知らぬ男の部屋に来て部屋に泊めてほしいなんて言うわけがあるかよ」

そばに控えたいた和泉が喧嘩腰で口を挟んだ。

「いや、彼女が昨日の夜に起きた殺人事件の犯人に追われていると言って来たんです。」

「だとしてもだぜ、人ってのはなあ、どこでもドアを持ってるわけじゃねぇんだ。自分の足で歩かねーと、元いた場所からは離れねえ。しかも、男女が一晩同じ部屋にいて、朝になってみれば女は殺されて男は別の場所にいた。こりゃあ明らかに一夜のうちに何か間違いがあって揉めて男が女を殺した。そして男が怖くなって逃げた。そうに決まってるじゃねぇか!」

「和泉くん、やめなさい。まだ証拠があるわけではないし、第一部屋に争った形跡がなかったのはあなたもよく知っているでしょう?」

佐々木に一喝され、和泉は舌打ちをして渋々引き下がった。

「大丈夫ですか?怖がらせてしまったのなら、落ち着くまで一度休憩を挟みますが。」

「いいえ。大丈夫です。」

私は続きを促した。

「松田さんが部屋に来てからあなたが寝てしまうまでに、誰かが部屋に来たり呼び鈴を鳴らしたりしましたか。」

「いいえ。誰も来ませんでしたよ。ところで、事件現場を見せてもらえませんか?そこに行けば、何かわかるかもしれないですし。」

「分かりました。ホテルまでは歩いて数分なので、行きましょう。」

事件の捜査という今までにない体験をするのも気分転換に含まれるのだろうか。この旅行の行く末を思いやって、私は苦笑した。

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