第3話

「ごめんなさい。」

ここ数日で最低でも10回は聞いた言葉は、私に悲しみ以上に呆れをもたらした。彼女ができるかもしれない、というつまらぬ妄想を持っていた私自身が愚かだったのだ。そのことにようやく気がついた物陰からこちらを覗いて爆笑している友人バカ5人を尻目に、私はやれやれと思いながらその場を離れた。


「藤原くんの記念すべき10回目の告白失敗を祝しまして、かんぱ〜い!」

その日の夕方、私は件の友人バカとももにカラオケで慰労会という名の私を馬鹿にする会を開催していた。告白とか好きとか嫌いとかどうでも良くなっていた私は私を煽ってくる彼らに怒り返す気力も無く、ただただ歌を歌って飲み食いを楽しんだ。しばらくして、友人がふとこんなことを言い出した。

「そろそろ連休だし、せっかくだからどっか旅行に行ってきたらどうだい。君も色々疲れただろう。景色のいいところにでもいってリフレッシュしてこいよ。」

「いいけど、今お金ないし。行けたら行くよ。」

どうせ行かないだろうと思ったのか、友人は次言おうとしたことをジュースを一口飲んで飲み込んだ。

それ以上、旅行の話は出なかった。


私たちは夜になると解散した。最寄駅で降りて家への見慣れた道を歩いていると、見慣れない騒ぎが道で起きていた。カラオケの大音響で頭がキンキンしていた私はうるさい、と思いながら通り過ぎようとしたが、福引器(よく言うガラガラである)のブースに書かれた一等の内容が視界に入った。

「一等:京都旅行 3泊4日」

そこで旅行に行ってこいという友人の言葉を思い出した。これならお金がなくても行けるじゃないか。当たらないという可能性は頭からすっぽり抜け落ちていた。誘われるように列に並んだ私は自分の番になると福引器を回した。

「一等賞、おめでとうございます!」

運営のおじさんが大声を張り上げてベルを鳴らしているのを私は放心しながら聞いていた。この私が、つくづく運の悪かったこの私が、一等を?当てた?その後のことはあまりよく覚えていない。事前に言われていた通りのホテルを予約し、新幹線に乗り、この物語の冒頭に至る。




夕食は何を食べたのか覚えていない。それなりに美味しかった気はするのだが、そこからおこる一連の出来事により、霞んでしまったのだろう。あれがこの京都旅行での唯一の落ち着いて食べられた食事だったのだろうと、全て終わった後から見ると、思う。


気づけば外は日が暮れており、ホテルの窓からは京都の夜景がのぞいた。東京よりはまばらなその光の中に、けたたましく点滅する赤い光があった。京都の風を感じつつ、今日という一日を振り返りながら、私はやけ酒を飲み、視界はぼやけていった。静寂と夜景の趣の中で、突如、部屋のチャイムが3回なった。


誰だろうと不思議に思い、おぼつかない足取りでドアを開けると、そこには、私が告白したどの女性なんて比較にならないくらい妙齢の美しい女性がいた。

「一晩あなたの部屋に止めてくださいません?」


私は驚愕した。私は狂喜した。神は私を見放していなかったのだ。喜びのあまり叫びそうになっていた私とは裏腹に、どこか冷めている私がいた。私はこの数日でなにを学んだんだ。そうすぐに勘違いして浮かれてどうする。

改めて自分の単純さを思い知って、私は苦笑した。

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