第5話 白いチューリップ

白いチューリップ姫は、真っ白な髪を腰あたりまで伸ばしています。

細くて美しい髪はふんわりして風が吹くと

広がり、そよそよと漂うのです。

真白のドレス。

首元まで隠れるドレスはシフォンで作られたようでしなやかでした。

長い袖は手先を隠し姫が手を動かすと舞うのです。

ドレスは何十にも薄いシフォンが縫い重ねられていました。

長い長い裾は姫が歩くとまるで波うつようで

誰もがため息をつく美しさでした。


「私を選ぶ人は誰でしょう?

私に似合う人は誰でしょう?」

チューリップ姫は、呟きました。


白いチューリップ姫を見つめる人がありました。

その人は歳をとっていて、白髪のおばあさんでした。

杖をついてはいましたが、白いブラウスに

白いズボンを履いていました。


「嫌、嫌。

こんなおばあさんなんか、私に似合わないもの。私を連れて行かないで!」

チューリップ姫は叫びました。


しかし、おばあさんはとても気にいったようで

白いチューリップ姫はおばあさんのところへ

連れて行かれました。


そこは、古い団地の部屋でした。


「嫌、嫌、こんな畳の薄汚い部屋なんか!

私に似合わないわ。」

チューリップ姫は泣きそうです。


おばあさんは、古い木彫りのチェストに

チューリップを置きました。

それは、外国の物のようでした。



チューリップ姫は拗ねていましたが、

部屋の周りを見渡してみました。

あちこちに古い写真立てが置いてあります。

そこには、美しいバレリーナが写っていました。

「あら、素敵な衣装、それになんて美しい女性なんでしょう。」



おばあさんは話しかけました。

「私はバレリーナだったのよ。

若い頃はフランスに留学もしたのよ。

プリマだったの。

でもね、ある日、靭帯をきってしまったの。

昔だったから、もう、バレエはできなくなってしまったの。

足もね、あれからは杖が離せなくなっちゃった。

悲しかったわ。私の全てだったから、、。

私、あなたを見つけた時に白鳥の湖のオデットを踊っていた私かと思ったのよ。

私ね、ずっと何をやっても上の空だったの。

その呪いを解いてくれたのよ、チューリップさん。うふふ。」


おばあさんは、白いチューリプ姫を

とても優しく愛してくれました。


「私、良かったわ。

この人は私に似合ってる。

私、とっても幸せだもの。」


部屋には、レコード盤から白鳥の湖が

流れていました。




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