第12話 約束の映画館

 今日も平和に過ごす予定だったが、悪魔との契約を完遂する為に、大切な土曜日を駅前で待っていた。前日に連絡があり、駅前10時集合を言い渡され、現在暑い中突っ立ていた。


「....人気な映画は........お、ファンタジアルの映画があるな」


 全世界で5000万ダウンロードを達成した記念に数日前から上映しているファンタジアルアニメバージョンを見つけて少し興奮した。


 前から噂を聞いていたが、行く予定もないので検索していなかったが、予告を今動画配信サイトで見て、篠原さんがよければ見たいと考えていた。


「あと、10分ほどで集合時間かな」


 僕は緊張と恐怖から30分前に駅前に来ていた。昨日の泥沼喜劇を反省しているが、電話で怒られて、リアルではまだ会っていなかったので、少し身震いしていた。すると、


「あれって、天使かよ」

「声かけたらワンチャン」

「俺らには高嶺すきる。諦めるぞ」


 周りから男の声が高くなったので、そっちを見ると集団の後方から一人の女性がこっちに向かって歩いてきた。



「おはよ、凛君今日は暑いわね」

「ああ、暑いですね」


 篠原さんは黒の英語が書いたTシャツにジーパンを履いており、黒いショート髪と合わさってそこらの男子よりカッコよかった。


「どう?感想は?」

「(多分服だよな)、カッコよくて綺麗ですね」

「なら良いのよ、ありがと」


 僕達は駅に入り、映画館が入っているショッピングモールの最寄駅に向かった。駅中でも篠原さんの輝きは止まらず、カップル、おっさん、その他大勢が視線を送っていた。


「いつもこんな感じですか?」

「勿論」


 何故か自慢げに言ってきたが、結果が示している通り、周囲を美貌で醜悪していた。良い意味で、


「篠原さん今日見る映画、ファンタジアル題材の映画にしない?」

「私も同じ考えよ」

「そっか、なら何時に見る?」

「そうね............17時とか?」


 夕方からの映画は結構良いけど、門限とかないのかな。篠原さんの母親は優しそうだったけど父親は知らないので、


「大丈夫?時間的に」

「凛君が送ってくれるんでしょ?」

「ああ、時間的にそうなるけど」

「あら安心」


 僕の背中を軽く叩いて、篠原さんは切符売り場に向かった。僕も同じく買おうとしたら、篠原さんがこっちに来て、


「はい、これ」

「え」


 買う予定だった切符を手渡して、何故か微笑んでいた。この場合、大抵は嫌な予感がする。この勘は結構当たるので、


「もし凛君が先に帰らないように切符先に買ったから帰る時に私のも買ってね」

「理解しました」


 逃がさないと言いたげな篠原さんは、カルキスキップしながら駅のホームに行った。それを見ながら、僕も同じく向かった。


「随分人多いわね」

「休日だからね」


 電車に乗り目的地の駅まで数分だったが、結構人が居たので、紳士的に紳士的にだよ、篠原さんを壁際に寄ってもらい、僕が猛獣の盾になった。


「「「「「........」」」」」


 あからさまに男性達は嫌な顔をしたが、こっちには何も関係ない。それにもし痴漢まがいの事をされたら今日が台無しになるので、着くまで目を光らしていた。実際にはビビっていたけど、



「着いたよ、行くわよ」

「分かった」


 ショッピングモールの最寄駅という事もあり、結構な人数が降りたが、逸れる事もなく無事駅を出れた。目的地は徒歩数分だったので、携帯で道を確認して向かった。


「やっぱり地元より活気があるわね」

「最近、工事現場が多いから新しい娯楽施設ができるかも」

「その時は一緒にね」


 道中は軽く会話を挟みながら歩いていた。カップルらしき数組から視線を感じていたが、大半は篠原さん目的だったので、何も言わずに歩いた。



「着いた」

「だね」


 このショッピングモールは映画館、スーパー、日用雑貨、本屋、ゲーセンなどが合体した施設であり、一日中居れる若者の憩いの場だったりする。


「それじゃあ先にチケット買おっか」

「うん」


 僕達は映画館がある最上階に行き、チケットをそれぞれ買い、近いうちに公開される映画の予告を立って見ていると、


「アレアレ」

「ん?」


 急に篠原さんが僕の腕を掴んで引っ張ってきたので、それに連れられてその場に向かうと、映画館限定のグッズがいっぱいあった。


 ファンタジアルの映画、ゲームにも出てくるNPC達やダンジョンボス、メインキャラ達がグッズになっており、手にとって色々見ていた。


「..........これもいいな」

「凛君はこれがいいんじゃない?」

「これってダイヤゴンのキーホルダー」

「好きでしょ」


 私は分かっていますよ、ってきな顔をしていたが、完全に当たっていた。ダイヤゴンは何故か愛くるしい顔をしているので即買いだった。ゲーム内では顔は無いけど、これもこれで良い。


「なら篠原さんは.........このハンカチとかどう」

「良いセンスね、買うわ」


 色々なキャラが描かれたハンカチを篠原さんは喜んで買い、僕もダイヤゴンのキーホルダーを買った。


「それじゃあ、17時まで時間あるから行こっか」

「予想していたけどやっぱり?」


「付き合ってね」

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