第7話 召使い

 遠回りは少し面倒だったが、あの集団を通り抜ける勇気は無かった。一年生の中を静かに抜けて再度階段を登って風紀委員室に着いた。そしてドアをコンコンすると、


「入って」


 篠原さんの声が聞こえたので、ドアを開けると想像外の出来事が起きていた。篠原さんは真正面の席に座って小型ゴーグルを付けており、絶賛ゲーム中だった。


「あの......ここ学校だよ」

「もちろん」

「なら」

「私は自然体で生きていきたい」


 話が通じない人だったと新しい発見ができた。しかし、何故呼んだ。ゲームの監視役でもしたらいいのか?僕は小型ゴーグル持っていないぞ、


「それじゃあカバンから弁当取って」

「普通に嫌だけど」


 拒絶気味に拒否したら携帯が鳴った。この音はと感じて携帯を見ると、当然の様にチャットが送られていた。


<侍2世:クリスタルソード綺麗ね>


 脅しは良くない。クリスタルソードを取られたら僕は生きていけない。それくらい気に入っていた。愛着だって1日程度でカンストしてるし、今は従うしかない。


「分かったよ。バック開けるからな」

「了解」

「はぁ..........ほい、置いたぞ」

「食べさせて」


 コイツは何を言っているんだ。もしかしてその為に呼んだのか?もしそうなら帰らせてもらう。しかし、クリスタルソードを人質にとられている僕は、


「はいどうぞ、ハンバーグ」

「はぁ.....い、うん美味しい」

「そうですか」

「次」

「白ご飯どうぞ」

「うむ」


 少し嫌がらせをしたかったので白ご飯を篠原さんの口にギリ入るくらいの大きさで持っていったが、自然な感じで食した。目は見えないが、少し笑ってしまった。ハムスターの様に食べる様子に、


「それじゃあ宜しく」

「あいよ」


 弁当を交互に食べながら僕達は昼休みを過ごした。篠原さんが今何をしているのか分からなかったが、ピンチである事は分かる。何故なら足がバタバタしていたからだ。


「大丈夫?」

「今ヤバイ、落とし穴落ちた」

「ふふふ、ドンマイ」

「もう少しでロスしそう」

「そっか」


 僕を召使い並に動かした罰だ。ロスするのは可哀想だがそれはそれで面白い。しかし、何故か篠原さんは余裕気味だった。ロスって1番心に傷をおう行為だぞ、何故そんなに静かなんだ。すると、


「あぁ......クリスタルソードが」

「え?」

「言ってなかった?少し借りたのよ」

「言ってないし、聞いてない」


 クリスタルソードを某実況者が自慢しているのを数ヶ月前に見て、僕の物欲センサーが吹っ切れてダイヤゴンを探していたが、僕はまだ使っていないのに消えるのか、


「ちょ.....回復薬飲んで」

「えぇ.....どうしよっかな」

「何でもするから」

「了解しました」


 立って篠原さんの肩を揺らしながら説得して回復薬を飲んでもらった。落とし穴に落ちたのも偶然なのだろうか?現在篠原さん兼侍2世を無性に疑ってしまう。


「良し、上がったよ。褒めて褒めて」

「ありがとう」

「痛」


 僕はクリスタルソードの代わりに優しく篠原さんの頭をチョップした。篠原さんは少し驚いていたが、その後は無事宿に戻って小型ゴーグルを外して本題に入った。


「分かった?私はこれを日常にしたいの」

「普通に無理」

「そう、ならパーティー解散ね」


 侍2世とは長年一緒に冒険したが、少しずつ目指す道が違う事に違和感を抱いていたので、相手側がそう言ってくれるなら、


「良いよ」

「分かったわよ。私も大人気なかったわ、これからも仲良く冒険し.........今なんて?」

「だから篠原さんが良いなら別に解散でもいいよ」

「そう」


 次の授業まで後20分、その間篠原さんに仲間の大切さ、2年間の思い出、ファンタジアルの面白さを熱弁&説教をくらった。最近説教が増えているので、現実世界で耐性ができてしまった。


「もう時間ね、先に出て」

「おう」


 よく分からない時間を過ごして風紀委員室を出た。この部屋は角側にあるので人通りは少なく、誰にも会わずに教室付近まで戻れた。


「お、帰ってきた」

「一也か」

「まぁ座れよ」


 いつもニコニコしている一也を見てコイツはお花畑だと勝手に感じて、少し女子の香りがする場所に座った。はぁ......僕が去った時に誰か香水を付けた人が座ったんだろう。


「それでどこ行ってたんだ」

「風紀委員室」

「ん?何で」

「呼ばれたから」

「誰に?」

「篠原さんに」


 一也はスムーズに聞いてきたので、僕もスムーズに質問を返すと、一也は少し悩んで口を開けて僕に告げた。


「あの人か」

「どうした?」

「いや....今朝挨拶で会った時何故か睨まれたから少し怖いんだよな」


 あの一也が睨まれただと、小学生から知っているが、一也が異性に睨まれる事は一度も無かった。もしかして同族嫌悪というやつか、しかし、僕のキュンキュン計画がチリに消えた。


「そっか、ドンマイ」

「いや、誰とでも仲良くなれないには分かっているから別にいいよ」

「でも篠原さん、一也と合いそうだけどな」

「いや逆だろ、凛の方が合うと思うぞ」

「それはごめん無理」


 クールな姿は好印象だが、これ以上召使いにはなりたくない。それにゲームと現実世界はきっちり分けておきたい。篠原さんは少し曖昧な気がするけど、


「よし、午後も頑張るか」

「そうだな」


 今日も変わらず午後の授業を受けて、当然の様に放課後になり、僕はいつも通り一也に別れを告げて教室を出た。特に用事は無かったが、最寄りにあるゲームショップに行った。

 最近、ファンタジアルプレイヤーが増えたお陰でゲーム会社が新たなゲーム機を発売したらしく、今日はその小型ゴーグルを拝見しに来た。でも、横の人を呼んだ覚えはない。


「これも可愛いわね。でもこっちも捨てがたい」

「そうだね」

「凛君はどれがいい?」

「名前呼びなんだな」

「だってゲーム仲間だし」


 ..................やっぱりコイツゲームと現実世界との区別が定まっていない。

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