第3話 クリスタルソード

 授業中でも教室のLEDに一也の輝きは全然負けていなかった。席は少し離れているので偶に様子を見るが、周囲の女子は先生と一也を交互に見て大変だな.....と、呑気に思っていると、昼休みになり、


「おーーい、凛ご飯にするか?」

「大丈夫でーーーーす」


 友と女子達の間に挟まれた僕は、拒否以外の選択肢が存在していなかった。どうせ一也とご飯食べてたら嫉妬の視線を全方向から感じるから気分が良くない。


「そっか分かったよ」

「なら私達と食べよ」

「そうよ、今日は良いでしょ?」


 女子の群れに消えていった友にお辞儀して、教室を出てよく昼食を食べている場所に向かった。その間も携帯にチャットが送られてくるが、一旦無視だ。結局見ても無視になるし、


「静かな空間、外の空気最高だ」


 体育館倉庫の裏は人が全くいないので、僕のベストスポットだったりする。弁当を食べながら仕方なくチャット見ると、


<侍2世:聞いた?最近初心者が強いと思ったらボーナスでダイヤゴン一個貰えるらしいよ>

<侍2世:でも私達は10個だから余裕ね>


 ファンタジアルは初心者マークが初ログインから1ヶ月は消えないから、初心者を見つけるのは楽だ。しかし、プレイヤーキルは初心者に適応されないので1ヶ月の間は初心者には手出しできない。


「実質僕の我が子だし」


 渡したのは間違いないけど、掘り当てたのは僕だし、侍2世には言っていないけどダイヤゴンの塊を砕いた時にあるスキルを解放したから今日の説教が長引いたらこれを天秤にかける。


「ふふふ楽しみだよ。侍2世がどんな表情になるか」


 何事もなく昼休みが終わり、午後の授業も普通に受けて、放課後は用事があったので一也の誘いを断り、家に帰った。時間的にまだ午後4時半だからを試す時間はいっぱいある。

 まずスナック菓子を菜箸で食しながら、ファンタジアルにログインして、ユリザークの宿屋にスポーンされ、昨日見つけたダイヤゴン5個を取り出して鍛冶屋に向かった。街では戦闘行為及び武器が所持できないのでスキップしながら鍛冶屋に行けた。


「えぇ....と、鍛冶屋に入ってNPCにダイヤゴンを見せると専用の溶炉を教えられて、そこでダイヤゴン一個を代償にダイヤゴンドが貰える」


 パッパカパカ....、ダイヤゴンドが3個完成しました。え?ダイヤゴン5個でダイヤゴンド3個はおかしいって?偶然ボックスに余りのダイヤゴンがあったからもれなく拝借しましたよ。


「昨日の続き説教はまだ1時間後だからダイヤゴンドを装備に変化させるか」


 ファンタジアル1周年記念で全プレイヤーに配布されたノーマルソードにダイヤゴンドを重ね合わせれば、..............クリスタルソードの出来上がり。鉱石でもクリスタルソードはできるが、ダイヤゴンドで作成すると専用の加護が付くから儲けだよな。それにノーマルソードは配布だからといって捨てるプレイヤーも少なくないが、この剣は熟練度を上げるとプレイヤーの職業に変化するから一種のレアアイテムだ。


「僕は職業まだできないけど」


 ファンタジアルを遊んで2年程経つが、現在職業を持っているプレイヤーは全体プレイヤー人口の約10%しかおらず、その他大勢はこのノーマルソードに興味を示さなかった。


「でも最近ある有名プレイヤーが職業取得条件を少しだけ発信してたからいずれ僕も職業を付けられる」


 その時はこのクリスタルソードが火を吹くぜ。..............、待ってくれ、クリスタルソードの刃から綺麗に見える鍛冶屋の窓に誰か居る。この次世代型インプットゲーム機は小型ゴーグルを装着してリアル空間を再現しているが、ここまでリアルに近づけなくても、


<侍2世:............私の君がくれたが無いよ>


 分かっていたいずれ気づかれる事も、分かっていたけど早くない?何で居るの?もしかして侍2世もダイヤゴンドが欲しくてかな、なら僕が行う事は決まった。


<鉄人:ダイヤゴンドを君の為に作成しました。受け取って下さい>

<侍2世:そっか、それなら良かった。丁重に頂くよ。私、君がダイヤゴンドを3個作るために私のダイヤゴン1個を奪ったものだと勘違いしていたよ>


 コイツ鋭い、結局ダイヤゴン1個が消えていったが、コイツを怒らすと今から行われる説教が長引くのでここは我慢だ。我慢のはずだったが、

 現在午後7時、宿屋で2時間程度の説教を受けていた。簡潔に言えば、僕の言動、侍2世を軽く見ている部分、発言、などが引き金になって現在ゲーム内でゲーム内だよ.........一方的に怒られています。


<侍2世:分かってくれた?>

<鉄人:勿論ですとも、今後は頑張ります>

<侍2世:よろしい、今日はもう終わろっか>


 鉄人がログアウトしました。


 よし、風呂でも入るか。服一式を持って階段を降り、風呂に入った。説教後の温かいお風呂は染みる。なんか全部忘れても大丈夫な気持ちになるな。



「少し長風呂になってしまったが、仕方ない。母さんのご飯の準備を手伝うか」


 風呂を出て携帯を部屋に取りに行った時、何故か携帯がチャット音で喚いていた。もしかして.............専用アプリでチャットを見ると、


<侍2世:おい、ログアウトが早いぞ>

<侍2世:さっきのは冗談でまだやりたい事があるから戻って来てくれた>

<侍2世:返事?>

<侍2世:おい>

<侍2世:見ろ>

<侍2世:困ったものだよ。こんなをもつと>


 約70件程アイツからチャットが送られて来ており、偶にある侍2世のかまって行動である。その対処法は楽で、


「母さんご飯手伝うよ」

「ありがとね凛、炒め物焦げないように動かしてくれない?」

「分かった」


 僕は無視して母さんが居る台所に向かった。侍2世も男だし所詮男相手に無視されても別にダメージないよな。僕はすっかりゲームの事を忘れて夜を過ごした。



 暗い部屋でベットに横になり小型ゴーグルを装着した女性、薄っすら笑いながら小型ゴーグルを外し机に置いた紙を覗いて、


「................さん」

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