”僕の心”
夢道ライト
プロローグ
”プレイセット!!!”と審判が言った瞬間、チームメイトがマウンドの方に走って近づいていた。俺は7回で後退していた。監督がいうならみんなで勝ち取った勝利。全国大会決勝6対0で圧勝した。これが最後の大会だった。これが最後の試合だった。これが最後の。みんなで、勝ち取った試合?みんなじゃない。俺以外のみんなが勝ち取ったんだ。俺の野球人生は終わったんだ。その試合を俺は病院のテレビの前で見ることしかできなかった。
右肩筋挫傷。重度の肉離れにより、半年間の運動停止をくらった。
大会も終わり部活も引退した俺は、友達と受験勉強をしている。シーンとした図書室で黙々と勉強していた。人の鼻息や風の音が普段より大きく聞こえる。スースー、ふゅーふゅー、緊張した空間が続く。突然、俺の耳に腑抜けた声が入り混じる。
「疲れた~。」
俺の目の前に座っている女子が言う。勉強をから3時間が経っていた。疲れたといいたくなる気持ちはよく分かった。
「時間も時間だから今日は帰るか。」
時間は午後7時半。図書室には俺ら三人しかいなかった。片付けを始めると、女友達が教室に行くといい、先に帰ることにした。
「何気に3時間は疲れるな」
男友達が言う。それもそうだ。勉強を習慣付けてない俺たちからすると、かなりの苦難だ。普通の受験生は毎日勉強するのが当たり前らしいが、俺らは遊び彷徨いていたため、勉強はかなり久しぶりだ。
「帰りにコンビニ寄るか」
そう俺が提案すると男友達は嬉しそうに「うん!」と言った。お腹空いていたのだろうか。
図書室を出て家に向かう帰路を歩いている。さっきまで降っていた雨が嘘のように思えるほど明るく、暗い。もう9月も終わる。そう思わせてくるような空の色だった。
俺らはコンビニにより、唐揚げ棒を一本買って2人で食べた。バイトができない中学生から設楽300円はお高い。食べ終わり十字路のところで
「じゃーな。」
それだけを言って友達と別れた。友達は右に周り、俺は左に曲がる。孤独の1人で道を歩いているとカレーの匂いやお風呂の洗剤の匂い。
窓を開けてるせいか子供が親に怒られている声、今日のニュースを見ながら酒とそのつまみに手を出して笑っているお父さん。たくさんの家庭があることを知る帰り道は俺のお気に入りなところだ。このお気に入りの道を通らなくなるのはとても辛いことである。
「来年から東京か、、、」
そうぽつりと独り言を溢す。それに反応した1人の少年がいた。阿部修(あべ おさむ)。三年野球部のキャッチャー。俺のバッテリーだ。
「東京!?」
かなり大きい声で驚かれたため、耳が痛くなった。
「うん。東京」
なんでなんでと聞いてくる阿部に諸々の事情を伝えた。
「親の事情か、、」
うん。とだけいい、少し気まずい空気になった。それを見透かしたのか
「いいな、、東京」
羨ましそうな目をしてる阿倍の反応はこの街な人からしたら当たり前だ。俺らが住んでる愛媛とは比べものにならないくらいの都会だからだ。この県にいる中高の若者たちは一回は東京にでて見たいというのが夢だろう。
「そー、かな。俺はこの街から出なくないかな」
本音だ。俺はこの街が好きだ。
「帰ってきたくなったら帰ってくればいい。夏休みとかさ!」
そんな呑気なことをいう阿部があまりにもおかしく、お腹を抱えて笑ってしまった。
次の日。阿部とキャッチボールをした。病院の人からはキャッチボールくらいはいいだろうと言われていたため、キャッチボールだけしていた。
「東京言っても野球やるのかー?」
「行ったことには肩は治ってるから、やると思うよ」
そっか!と本人のように嬉しそうに喜んでいた。
「じゃ!甲子園でどっちが優勝できるか勝負な!」
言いながら豪速球を投げてきた。
「甲子園で戦うってこと?」
「そーだ。他県で勝負ってことは甲子園しかないだろ!」
「甲子園か、、」
優勝全体で話しているのがまた阿部らしく、バカらしく、面白かった。
「受験終わったら野球みんなで野球しような!」
「おう!!」
これが最後の会話になるとは誰も思ってないだろう。中学生三年生の10月1日俺はこの街からこの愛媛県からいなくなっていた。
約束も守れることもできずに去っていった。
”僕の心” 夢道ライト @raito2020
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