第5話 暴走気味な感情
あれから数分が経ち、ヨルスィさんは落ち着いたのか涙を流すのをやめた。
「ごめんね・・・昔のことを思い出しちゃって」
「い、いえ・・・無理しないでください」
ヨルスィさんは平然を装っているがどこか無理をしているかのように見える。現に声のトーンが少し下がっている。
「バレちゃってるよね・・・聞いてほしいな私の話」
ヨルスィさんは隠すのを諦めたのか渋々と自分の過去について話し始めた。
「私には二人の友達がいたの。一人は肩ぐらいまで髪が伸びてる子で、もう一人は
黒髪セミロングで瞳が赤い子・・・」
「特に黒髪の子は悪い人たちに利用されたの・・・その結果がこの街の有り様って
わけ」
ヨルスィさんは周りを見渡しながらそう言う。この街は見渡す限り建物が崩れ瓦礫の山となっている様子しか見られない。つまり何もない。人々の活気やそもそもの人々の姿が一切ない。街全体が廃墟とかしている。
「だからこの街には私以外の人間はいないの」
「と、友達はどうなっちゃったですか・・・」
「・・・どこか遠くに行ってしまった」
私がそう聞くとヨルスィさんは今以上に声のトーン下げてそう私達に向かって言う。ヨルスィさんの目のハイライトは消えており真っ暗になっている。
気まずい雰囲気がこの空間に広がる。どうしたらいいのかわからず私は質問したことを後悔し始める。
このどんよりとした空気のなか最初に言葉を放ったのはみどりだった。
「きっと生きてます。私達が旅をしている最中に見かけたらヨルスィさんのこと話
しておきます・・・だから安心していてください」
「・・・いいの?生きてるって保証すらないし、何より私のこと覚えてるかすら怪
しいのに・・・」
「あなたが友達のこと忘れてないのに友達があなたのこと忘れてるはずありませ
ん」
みどりは自信ありげにそう言っている。しかし、どこか暗くみえる・・・そんな気がする。まるで私のように友達がいないかのようで。
「・・・これ持っていって」
ヨルスィさんは私達にナイフを渡してきた。突然刃物を渡されたので私は驚くが横にいるみどりは一切驚いている様子はなく逆に嬉しそうな表情を浮かべている。
「ありがとう・・・!」
「・・・じゃあおねがいね?」
私が呆気にとられているうちに話は終わったのかみどりは私の手首を摑んで来た道を戻っていく。
「み、みどり!?手首から手離して・・・!」
「・・・イヤ♡」
みどりの語尾にハートがついているような気がして未知なる恐怖を感じる。だけどなぜだか嫌な気はしない。
気づけばあっという間に最初の入口の前に着いており、手首から手が離されていた。手首には摑まれたいた跡が残っている。
私は赤くなっている跡に口づけをする。みどりは私のことを見て頬を赤らめながら静止している。僅かながらだがみどりの体温を感じる気がする。
「な、なにしてるの・・・!?」
「わ、わたしなにして・・・?」
ふと我に返って考えたら今私がやったことって相当あれな行いだったのではないかと思い始め、顔が熱くなるのを感じる。そのため、私はみどりに見えないよう顔を下に向ける。
みどりはみどりで何も言ってこないため、余計に気まずくなっているのは気の所為ではないはず。しかし、もとはと言えば私の意味不明な過ちが原因である。反省はしているがみどりの体温を感じることができてとても満足している。
そんなことを考えているとみどりが近づいてくる足音が聞こえる。私は身構えようとするが身体が動かない。金縛りにあっているかのようなそんな感覚だった。
私は目を瞑り覚悟を決めるがみどりは私の真正面に立つ止まり何もしてこない。私不思議に思い目を開けるとそこには目にハートマークを浮かべているみどりの姿があった。
「み、みどり・・・?」
「・・・覚悟してよね唯花♡」
みどりは私の耳元でそう甘ったるい声で囁く。思考が溶かされるようなそんな甘ったるい声にビクッと身体が反応してしまう。
視界が暗くなっていくのを感じる。私はつい先程の過ちを悔やみながら気絶した。
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