第4話 異世界と少女

 どこか遠くを見ているその姿は少しばかし上の空のようで儚く見える。


 「ごめんなさい...それで尋ねたいことって何かな」


 私の頭を撫でていた手が離れていくのと同時に温もりがどこかにいってしまう。人の温もりに体温、それらがとても心地よくて物足りなさを感じる。


 きっと撫でられてる側はこんなことを感じてるんだろう。だけど何かが違う気がするのは何故なのだろうか。


 「ここってどこですか?」


 私がそう言うと目の前の少女は毛深しめな表情を浮かべながら何か考え事をしている。そんな少女の様子に私とみどりは焦る。


 「......ね、ねえみどり...もしかして聞き方間違えたかな?」


 「......ド直球すぎたと思います...」


 私とみどりは考えている少女に聞こえないぐらいの声量で話をする。お互いに内心まずいことを言ってしまったのではないかという不安が過る。


 そんなことを思っていると考え終えたのか少女が話しかけてきた。


 「まずその前に私の名前はヨルスィ・キーっていうの」


 少女の名前はヨルスィというらしい。しかし、この十数年生きてきた人生で一度も聞いたことのない名前に独特の訛りというか発音に驚いてしまう。到底日本語の発音ではない。それだけでここが私の知っている世界とは違うということが理解できる。


 「ここはあなた達が知っている世界とは異なる世界、俗にいう異世界」


 「...異世界......」


 異世界、創作物でしか聞いたことがない。魔法だったり魔物だったり、現実とはかけ離れているイメージが浮かんでくる。非現実でしかないが妙に力が強くなっているうえ、足が少しばかし早くなっている。何より身体が軽い。


 私はみどりの方に視線を向ける。みどりは困惑しているがその奥に見える顔には笑っているかのように映っている。


 「なに唯花?そんなに私の顔なんてみて」


 「な、なんでもないよ......」


 みどりは困惑した表情から笑みを浮かべからかうかのように私を見てくる。私は逃げるように視線をヨルスィさんの方に向ける。


 ヨルスィさんは先程と同様にどこか遠くを見ている。その姿はとても儚くそして、すぐに壊れてしまいそうだった。


 「魔法だったり何かしらの能力だったり、あなたたちの世界では普通ではないことがこの世界にはあるの」


 「じゃあ、私達も魔法を使えたりってできるんですか?」


 ヨルスィさんは黙って頭を横にふった。はたからこの世界の人間じゃない私達が使えるとは思っていなかった。期待は少しばかしあったが仕方のないことだ。


 「ご、ごめんね。期待させちゃったよね」


 ヨルスィさんは暗い雰囲気身に纏っている。期待させてしまったことを悔やんでいるかのように暗く、どこか自分のことを責めているかのように見える。

 それを見た私は途端に罪悪感に心を蝕まれるような感覚に陥ったので、ヨルスィさんの頭を撫でる。


 「な、なんで頭なでっ・・・!」


 「ヨルスィさんは悪くないです・・・!だから自分のこと責めないでください」


 私がそう言うと、ヨルスィさんは私の背中に腕を回し涙を流し始める。心のなかに溜まっていた様々な感情を一気に放出させるかのように泣いている。そんなヨルスィさんの姿は儚げな少女ではなくか弱いたった一人の少女に見えた。


 




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