第3話 一輪の花
私とみどりは異様な光景の街に足を踏み入れる。周りを見渡してみると建物が倒壊しており至るところにガラスの破片や砕け散ったコンクリが散らばっていた。また、建物に植物が絡みついていて到底人の手が加わっているようには思えなかった。
「これ......人いるかな...?」
「いるとは思います...多分......」
そんな話をしながらも私たちは前へと進んでいく。進むたび足元からガラスが割れる音が響く。
ガラスが割れる音以外にどこからか歌声が聴こえてくる。柔しく、そして哀しいそんな歌声。この荒廃していている場所に咲く一輪の花みたいに。
「...声が聴こえる......」
「えっ...?ゆ、唯花...!?」
私は歌声が聴こえてきた方へと走って向かう。本当に人がいるのであれば何かしら情報を聞けるかもしれない。
歌声の発生源である所に辿り着くと少女が一人で踊りながら先程まで聴こえていた歌を歌っている。踊っている少女はこちらに気づいている気配はなくそのまま踊っている。
踊っている姿はとても可憐で美しい。だけどもなぜだか悲しい表情を浮かべており目がうつろいでいる。
「......はぁはぁ...ゆ、唯花...!」
「ご、ごめんみどり...」
私はすっかりみどりを置き去りにしていたことに気づく。みどりは走ったのか息切れを起こしている。
そんな疲れ切っているみどりの頭に手を置き撫でる。急に撫でられたということもあり、みどりは驚きバックステップをしながら私から距離をとる。
「なっ...!急に頭撫でないで...!?」
「だ、駄目なの...?」
みどりは私から視線を逸してぶつぶつと何か言ってる。少しばかし不気味だと感じる。そんなみどりをよく見てみるとほんのりと耳が赤く染まっており不気味だと感じていたのに不思議と可愛いと思えてくる。
「だ、駄目じゃない......撫でて?」
「う、うん...!」
みどりは頬を赤らめながらそう言う。そんなみどりがとても可愛くて萌らしくて愛でたくなる。
私はみどりの頭を撫でる。髪の毛がとてもサラサラで撫でてて今までに味わったことのない何かを感じる。幸せというものなのかもしれない。
だとしたら、今私の心は溢れんばかりに幸せという気持ちで満たされている。友好関係を築くこともなく、ただただ一人で無駄な時間を過ごしていた時とは違う。
「えっと、お邪魔かな?」
先程まで歌っていた少女が私たちの方を見てそう言葉を放つ。先程までの悲しい表情はなくなっており笑みを浮かべている。
「い、いえ......あの尋ねたいことがあって」
「そうなんだぁ......!」
少女は目を輝かせながらこちらを見つめてくる。嬉しいのか言葉の語尾も上がっている。なぜだか申し訳無さそうな表情をして私を見つめてくる。私は見られていたことに気がつき頬を赤らめてしまう。そのため、私はみどりから距離をとり顔を逸らす。
「なんで撫でるのやめるの...?」
「ちょ、みどり...!?」
みどりは頬を膨らませて見るからに不満を顕にしている。そんなみどりに私は動揺し咄嗟に少女の背後に回り込む。少女は驚くが暫くすると微笑み私の頭を撫でてくる。
「え...?......っ!?」
「なんだかあの二人を見ているかのようで懐かしい気持ちになれます」
少女はせつなそうな表情でそう言う。視点の先は今の景色ではなくどこか遠くの景色に向いていた。
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