第2話 怪しい雰囲気

 目の前の少女、幸夜翠さんは下を向きながら何かぶつぶつと呟いている。どことなしか親近感を覚える。




 「私は水乃唯花って言うよ?気軽に唯花って呼んでね」

 


 私は幸夜翠さんの手を両手で握りながらそう言う。驚いたのか顔を上げて私の顔を見るがすぐさま顔をそらしてしまう。顔を覗き込むようにして見てみるとどことなしかその顔はほんのりと赤くなっていた。

 私は自分が嫌なことをしてしまったのだろうかと少し考えてしまう。




 「あ、あの...別に嫌なことをされたとかそういうわけではないです...ただちょっと


  恥ずかしくて顔をそらしてしまってるだけです......」


 考えてしまっている私を見て察したのか幸夜翠さんはしどろもどろになりがらも話してくれた。話している最中の仕草のかわいさと頑張って喋っているところが私の中の何かを刺激してくる。


 「そ、それで......えっと、私のことみどりって呼んでほしいなって...」




 みどりは上手使いでこちらをみつめながらそう言ってくる。少し涙目になっているのも相まって私はその可愛いさの破壊力に我慢できずつい頭を撫でてしまう。突然頭を撫でられて戸惑っているみどりに向かって笑顔で、


 


 「もちろんだよ、みどり!これからよろしくね...!」




 




 


    




 何もないとわかってはいるが改めて私とみどりはあの場所を探索するために逃げてきた道を遡り戻っていった。建物の中、地面、壁。あらゆるところを見て回るが全くもってなにもなかった。人もいなければ、食糧や水だってない。そして、あの大柄な男もいなかった。



 「ど、どうする?まだ探索する?」



 「し、しよ?」



 「うん、わかった」




 それから数分....いや、数時間が経過した。数時間探索してわかったことがある。そう、本当にここにはなにも無いということだ。




 「本当になにもない....」




 「そ、そうですね......」



 私とみどりは両者ともにため息をつく。数時間かけて探索をしてもあまり成果が得られなかったことに対してのため息なのか最初からわかってたのにという後悔からくるものなのか。だけど、この数時間でわかったことが一つある。ここは日本ではない別の世界、言わば知らない世界なのだということ。外国説を考えてみたりもしたが明らかに使われている言語が私たちの元いた世界にはない言語が使われているからその説は低いと思った。

 考えれば考えるほどわけがわからなくなる気がしてくる。そことなしか頭痛がしてきたので私は一旦考えることをやめる。

 


 「何もないしここから離れない?」




 私はこの場所に留まってたって意味がないのでそう提案する。何もないのが逆に不気味さを増していてあまりいい気持ちではない。




 「は、はい!」




 みどりは二つ返事で了承すると、私の横に来て一緒に歩き始める。その姿がとても初々しくて久々に自然と笑顔が溢れた。


 


    





 「お金とか食糧ないけどどうする?」




 「......今は気にしなくてもいいと思います」




 みどりは視線を左斜め下に落とす。明らかに気にしていることが丸わかりだが今はとりあえず移動することが大事。




 「う、うん....そうだよね!」




 「そうですそうです」




 みどりはそっと胸を撫で下ろす。なぜ安堵しているのかが理解できないが可愛いは正義なので気にしないことにする。


 私はもう一つ疑問に思ったことを言う。




 「ねぇ、みどり。ここっていわゆる異世界って奴だよね?」




 私がそう言うとみどりはビクッと体を跳ね上がらせ、その場に立ち止まる。私はみどりの正面に立ち心配する。みどりは少しの沈黙の後、不意に顔を上げて冷たい声色で喋り始めた。




 「どうしてそう思うのか理解りませんが余計な詮索はしないほうが身のためですよ?」


 みどりは笑顔をこちらに向けてくる。しかし、その笑顔はどう見ても笑ってなく不気味で恐怖を感じる。背筋が凍るような思いをしたとはまさにこのことを言うんだろうなと身を持って知った。



 「......さぁ、早く行こ唯花?」


 「......っ!...そ、そうだね、そうしよう!」


 先程の声色と表情が脳裏から離れない。恐怖を感じるがそれと同時になぜか鼓動が早くなり身体が熱くなっていくのを感じる。その感情が何なのかわからないが少なくとも悪い気はしない。

 

 そんなことを考えているうちにみどりはどんどん前へと進んでいく。私は急いでみどりの後を追いかけた。




     




 あれから何分もの時間が経ったのだろうか。少なくとも一時間は歩いたと思う。それほどまでに私とみどりは脚が疲れ息切れをしている。お互いに自分の体力のなさに落ち込んではいるものの到着して喜びを顕にする。




 「やっと、人がいそうではある場所に着いた......!」




 「そ、そうですね......」




 私とみどりは歩き疲れながらも苦労の末、人がいそうな場所にたどり着いたのだった。




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