第14話 勇者パーティーがやって来た

 海で海産物を獲ったり、洞窟で狩りをしたり、店で買い物したりするうちに、冬がやって来た。


 俺ことシンの道場は、星霊峰の標高2,500メートル地点にある。


 そのため、目の前には雪景色が広がっていた。


 登山はおろか下山すら困難になる季節。


 それが冬であり、買い物に行くにも時間がかかるため、俺は冬支度を心がけている。


「冷えるなぁ。キュー、少しブレスで雪をとかしてくれ」


「え〜やだぁ〜。もうコタツから離れたくない〜」


 なんてことだ……。


 キューがすっかりとコタツにこもってしまった。


 まるで猫だ。


 さすが、ティツールの技術とジパングのデザインがコラボレーションしてできた超傑作。


 SS級魔物すら、ノックアウトしてしまったか。


 仕方ない。俺一人で雪かきするか。


「ファイアボール!」


 詠唱とともに、火の玉がこちらに向かって飛んでくる。


 雪を溶かしてくれるのはありがたいが、このままでは道場に直撃する。


鬼剣きけん、抜刀!」


 腰に差していた竹刀に緋色のオーラを纏わせ、火の玉を斬り落とす。


 火の玉は2つに分かれ、左右の雪を溶かして消えた。


「きちんと俺に向かって撃ってきているな。そんなに魔族との戦いはピリついたものなのか?」


 雪道の先にはローブととんがり帽子を身につけ、杖を構えている少女がいた。


 彼女はマリン・ティツール。魔法国の長の孫娘にして、今代の大賢者。


 ウェーブのかかった銀髪、相手の奥底をのぞき見るかのようなあおい瞳が特徴的だ。


「先生、覚悟。ウォータバインド」


 溶けた雪解け水が触手の形になり、こちらに襲いかかった。


 今度は水で動きを封じるか。


天果流てんかりゅう四我三行しがさんぎょう!」


 四方八方から来るなら、俺の周囲に斬撃を放てばいい。


 水で出来た触手すべてを一瞬で斬り伏せ、俺は一気に間合いをつめる。


「!? サンダーショッ――」


「遅い!」


 パシィンッ!


「痛い」


 そして、竹刀で軽く頭を叩いて、はい終了!


「魔力感知だけでなく、そらよみも併用しろ! ファウストに頼んで、大賢者から『大』を抜かせるぞ!」


「先生、速すぎる。やっぱり先生の光狩ひかりは段違い。無念」


「次」


 マリンを倒したのも束の間、光の鎖が後ろから飛んでくる。


 俺はそらよみで軌道を読み、真上に飛んで回避する。


 狙いどころは悪くない。だけど回避すれば、敵の位置を簡単に知らせる目印に成り下がる。


 光の鎖に着地し、敵の所まで走っていく。


 はい、見つけた。


「背景に紛れ、相手の隙をうかがう。戦略的に悪くないぞ! テレジア」


「見つかっちゃいました。でも」


 間合いを詰め、勝負をつけようとした時、光の鎖が左右からのびて体に巻きついた。


「……雪の下に魔法陣を忍ばせたか」


「正解です。先生、捕まりましたね」


 白い法衣を着たテレジアが、ブラウン色の長髪をなびかせながら袴に手をのばした。


 何を考えている!?


 おい、脱がそうとするな。


 うわ!? 匂い嗅いでやがる!?


「さあ、脱ぎ脱ぎしましょうね。先生は何にもしなくていいんだよ。テレジアお姉ちゃんが全部してあげるんだから」


 テレジアはもう駄目だ。髪と同じ色の瞳が血走っている。


 ガンギマリ聖女とか、教皇が見たら頭を抱えるぞ。

 

「いい加減にしろ!」


 俺は身の危険を感じ、予め腰に差し直しておいた竹刀の刀身を捻って、鎖を外した。

 

洙泗返しゅしがえし!?」


「マリンもそうだが、俺を相手にする時はなぜ拘束系統ばかり使うのだ!? 俺が教えた剣術を使え!」


 さらに竹刀を抜き、脇腹にパシンと一撃加えた。


 ちょっとお灸を据えるため、強めにした。

 

「あ、いったぁい。こんな風に育てた覚えないのに〜」


「俺が君を(剣士として)育てたんだよ! 何度も言うが、俺はテレジアよりはるかに年上だぞ」


「分かった。反抗期。反抗期なんだよね。もう、先生はシャイなんだから」


 どうしよう、この自称姉。全然、俺の気持ちが伝わってない。


 これまでいくら反論しても、この姉なる者には通じず、俺はその度に考えるのをやめるのだ。


 そう、諦めだ。


「次」


 気持ちを切り替えて、俺は竹刀を構えた。


 大賢者、聖女ときたら、ラストは彼女しかいない。


 マリン、テレジアの所属するのは勇者パーティーだから……。


「どうした、クレア? やけに真剣そうな顔をして」


 雪道の向こうから、燃えるような赤髪の勇者が歩いてくる。


「今は冬だからね。寒くて体を温めたいから、少し本気でいきたいんだ」


 勇者は引き締めた顔で、腰から剣を抜いた。

 

 聖剣『ジョワユーズ』。


 全属性の魔力が宿るとされる伝説の剣で、その魔力が黄金のオーラとして放出され、勇者のみがその膨大な魔力を受け止められるとされている。


「ああ、いと懐かしきや……」


 俺は思わず、感嘆の言葉を漏らした。


 聖剣に対してのみではない。


 かつてともに戦った盟友の影がちらつく勇者の姿に震えたからだ。


「マリン、魔力障壁を道場全体に張ってくれ。テレジア、俺も少し本気を出す。道場からアレを持ってきてくれ」


「了解」


「うふふっ。お姉ちゃんに任せて」


 1分後、テレジアが1振りの刀を持って来た。


 俺は手に持っていた竹刀を彼女に渡し、いつも使っている刀を抜いた。


 名刀『純陽尸解じゅんようしかい』。


 かつて、ジパングの刀鍛治が俺のために打ってくれた愛刀だ。


鬼剣きけん、抜刀!」


 俺の緋剣とクレアの聖剣。


 これら2つが衝突し、星霊峰が揺れた。


天果流てんかりゅう鴨脚おうきゃく!」


 クレアが居合いの構えから、俺の後ろを取ろうとする。あの技と併用すれば、攪乱かくらんにも使える戦術的な技だ。


 俺はそんな彼女を迎え撃った。


天果流てんかりゅう水鏡誘すいきょうのいざない!」


 すれ違いの狭間、俺の剣筋が飛び、クレアは聖剣で受け止めた。


 けれど、ここでクレアの悪癖創造いつものが発動した……。


 これにより、ガキィンという音とともにクレアの聖剣が宙に舞い、地面に深く刺さった。


「クゥレェア……」


「は、はい」


「この期に及んで……なぜ悪癖をつくるのかな? かなぁ?」


 久しぶりに高ぶっていたのに、肩すかしを食らったのだ。


 お灸を据えなければな……。

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