閑話 剣聖のヤバい本性 [リーゼロッテside]

 私はリーゼロッテ。


 不肖ながら、剣聖をしている。


 私は勇者であり先輩のクレアとともに、半年前に免許皆伝を受け、星霊峰を下りた。


 世間一般はそう認識しているだろう。


 しかし、真実は全く異なる。


 駄々をこねて勇者を全うしない先輩。


 そんな彼女を、私が王国まで引きずったのだ。


 実は先輩クレアは、私が門戸を叩く頃には免許皆伝を受けていた。しかし先生のもとを離れたくないため、免許皆伝を受けても先輩は道場に居続けた。


 そしていつまでたっても旅立つ気配がしないため、私が免許皆伝を受けたタイミングで先生から頼み込まれて、先輩を王国まで連行したというわけだ。


 その後、私は冒険者に登録し、ランクアップの最短記録をこれでもかと塗り替えていった。


 C級冒険者だった頃には『ライバル』となるメイリンと出会い、戦乙女を立ち上げた。その後は、私やメイリンのことを聞きつけたアン、そして魔物から助けたロロも加入し、バランスの取れたパーティへと成長した。


 そうしてA級まで勝ち進んできた私だが、どうしても叶えたい願いがある。


 それは……。


 先生との御子を切望していることだ。


 もう一度言う。


 私は先生と御子をつくりたい。


 何故なら、先生は勇者や剣聖すら超えてもはや人類の宝だから。


 いや、人類の宝という言葉では失礼に値しますね。


 世界の宝……世界の宝です。


 そんな先生の血を絶やすことは人類の損失。


 私は、その偉大な先生の血を受け継がせるおんなとなり、その御子をつくりたいのです。


 そしてこの考えに先輩も賛同してくれている。勇者の後ろ盾が得られているのはとても大きい。


 そこでメイリンたち3人を先生に特訓させている間、私は作戦を実行しようとした。


 だが前とは違い、その作戦を実行するにあたって障害となる存在がいた。


「貴様。今……何と言った」


「だからぁ~。キューはシンを番にしたいと言ったんだよ~。大きくなって人化できるようになったら、シンをペロリといただくの~」


「まず、先生のことを呼び捨てるな! 私や先輩でさえ、まだ名前で呼ぶことにはばかるというものを……」


「じゃあ、キューが今のところシンに最も近いメスだね~。こういうの何て言ったかな~。あ、正妻だ。正妻というんだよね~」


 フフッ。フフフフフフフッ。


 はじめてですよ……私がここまでコケにされたのは。


 はらわたからドス黒いものがせり上がる。


 このぽっと出の邪竜を前にした先輩も、今の私と同じ気持ちだったに違いない。


 5日前に先輩から届いた手紙が、この邪竜のことで埋め尽くされていたからだ。


魔纏まてん、抜刀! 貴様……。覚悟は出来ているのだろうな」


「相手になってもいいよ~。キューも肉を食べたから、食後の運動をしたかったの~」


「遺言はそれだけか……」


「へっへ〜ん。むしろ、キューより先にくたばらないで欲しいかな〜」


 それを皮切りに、私の天使竜エンジェル・ドラゴン討伐は始まった。


 さすがにSS級。A級のワイバーンとは強さが段違いだった。


 そらよみで行動を読みきり、たちかぜでしっかりと首を狙ったにも関わらず、爪で軽く防がれる。


 その飛翔スピードも桁外れで、空中を自由自在に駆け巡り、私の隙を伺っている。


 しかもあの邪竜。私と同じようにそらよみを使って、こちらの動きを読んでいる。


 竜であるため、空気の扱いは人間の私よりはるかに長けている……。


 ブレスでも使われてしまえば、私に勝ち目はない。


 悔しいが、本気を出した私でもこの邪竜に勝つことはできない。


 幸いなのは、まだアレが幼竜であること。まだ先生と御子をつくるには未熟な体であることだ。


 そのことに一時の安心を覚えつつ、私は食後の運動を終えた。


 ◇ ◇ ◇

 

 ある日の夜。

 

 素振りで疲れ果てた3人が寝静まった頃、私は足音を立てずに1階へと下りた。


 無論、先生の寝室へと足を運ぶためだ。


 先生は夕食で、私が用意した水を飲んで下さった。あの水には、王都で買いつけておいた精力剤を入れてある。


 さらに予め、先生の寝室にはリラックス効果のあるお香を焚き、すぐに熟睡できるようにした。


 先生はぐっすりと眠っていた。


 寝顔は少年そのものであり、可愛いの極地を行っていた。


「ハァ……ハァ……。わ、私にどうかお情けを」


 邪魔者はいない。


 御子をつくる条件はすでに整った。


 後は服を脱ぎ、そのまま肌を重ねれば……。


「あ?」


「ん?」


 しかしまたしても、私の前には忌々しいものが立ちはだかった。


「貴様。何をしにここへ来た……」


「そっちこそ、シンに何をしようとしてたの~? というか、匂い嫌~。シンの寝室を汚さないでよ~」


「汚したのではない。浄化だ。儀式のため、この身を捧げるために浄化したのだ。貴様が土足で踏み入れてはならない神聖なもののな!」


「き、気持ち悪いの〜。キュー、吐き気がするの〜」


 その後、私と邪竜は『どちらが先生と添い寝するか』を理由に取っ組み合いをはじめた。それは朝まで続き、先生が目覚める気配を感じた私は急いで竹刀を手に取って朝練を始めた。


 邪竜は2階へと消えていった。


 作戦は失敗した。


 次は邪竜の夕食に睡眠薬を盛っておくことを忘れなければ。


 朝練を終えた私は懐からメモ帳をとり、次の作戦を練り始めた。


 ――全ては先生から寵愛を賜るために。


ーーー


[作者からのお知らせ]


次回から、指南後半戦始めます。それに先立ち、指南後半戦のあらすじを紹介します。(シン繋がり)


それでは、どうぞ!


テーレッテー♪


人類の国が魔族に襲われた!


だが、弟子たちを信じるシンの心は4国を拒む!


次回、『天果の剣』


「邪神におびえる者よ! シンの熱き心の叫びを聞け!!」


天果の掟は、俺がまもる!


※このあらすじはフィクションであり、架空のものです。

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