第12話 星を管理する者

「1カ月間、お世話になりました」


 俺ことシンに向かって戦乙女たち4人が挨拶し、彼女たちは道場を後にした。


 途中まで送っていくことを提案したが、リーゼロッテから断られた。


 気を引き締めるため、道中で魔物討伐をしながら帰還するためだとか。


 そんなリーゼロッテはなにかブツブツ呟きながら、メモ帳に書いていたようだが……。


 こうしてリーゼロッテたちが旅立ってから少し経ったある日、俺は星霊峰の山頂へと来ていた。


 標高3,000メートルから感じる風はこの山頂から発生している。


 そして、その発生源である巨大な竜が今まさに、俺の目の前に立っていた。


「来たぞ、クピト」


「久しいな、シンよ。は一緒じゃないのか?」


「残念だが、まだまだ未熟だ。人化すら出来ていない」


「なら、まだ主のところに預けてもらわないとな。一刻も早くあやつには、我の後継者になってほしいのだ。我のジパング清酒巡りのためにもな」


 そう言った竜のクピトは光に包まれ、そして光から1人の女性が現われた。


 一見すれば、黒いドレスを着た白髪の長身な女性だが、彼女はさっきの竜である。


 神竜、クピト。


 その2つ名は『空の神』。


 世界に1体しか存在しないSSS級の魔物であり、俺の長年の友だ。


 彼女はここ、星霊峰の山頂にてを守っている。


「いつものやつ、持ってきたぞ」


 俺はアイテムバッグから1本の酒樽、ならびに団子が980個入った箱を取り出した。


 竹杓でジパングの清酒をすくい、2つのますにそれぞれ盛り、その一方をクピトへと手渡した。


「そうか、そうか。ちなみに……だろうな?」


「失礼な。ちゃんとした冷酒だよ。まだ冷やを持ってきたこと、根に持ってんのか?」


「当然だ。夏に常温の酒とか、温水と変わらんわ! あの時は本気で貴様を細切れにしてやろうかと思うとったぞ」


「だからあの後、一番の雪冷ゆきびえを持って正式に謝罪しただろうが。後、君と戦うのは二度とごめんだ。鬼力をものすっごい使うからとにかく疲れる」


 あれは遊び心からはじまった出来事だったな。


 『ぬるい!』という言葉とともに襲いかかり、俺は鬼剣で応対した。


 ただのけんかだったはずが、気づけば三日三晩戦っていた。しかもけんかが終わった時には、山を10峰も消し飛ばしていたっけ。


 酒を飲んでいるクピトに許可を取り、俺は歩を進めた。


 俺の目の前にあるもの。


 それはだった。


 しかし、ただの墓ではない。


 初代から前代までの勇者、剣聖、大賢者、聖女……果てには魔王の墓すらここにある。


 世界の命運を担ってきた者たちがここで眠っているのだ。


 この星霊峰が神聖地と呼ばれる所以はまさにこれであり、クピトはその墓守を担っている。


 俺はそれぞれの墓に団子を20個ずつお供えし、合掌していく。


 こうして墓参りをすることではじめて、時の移り変わりというものを実感するのだ……。


「それにしても妙なものよ。勇者らはきちんと初代から揃っておるのに……。何故だろうな、シンよ?」


「……意味ありげにこっちを見るな。俺は剣聖に関係ないと前々から言っているだろうが」


 人が物思いにふけっている所に水を差すんじゃない。せっかくの酒が不味くなるだろうが。

 

「ふふっ。まあ、この酒に免じて今日はそういうことにしておいてやろう。それで話は変わるが……」


 クピトは酒を飲む手を止め、真剣な表情で俺を見た。もう6杯目だと言うのに、未だ素面しらふなままである。


 コイツを超える酒豪は未来永劫、現われないだろうな。


「2カ月半くらい前だったかな。主の馬鹿弟子、とうとう人類に向けて宣戦布告したらしいぞ?」


「……知ってる。アイツ、律儀にここまで届くように拡声していたからな。信じているが、もしくだらない理由だったら、アイツが次ここへ来た時に拳骨を食らわせないとな」


「出来れば拳骨で済ませて欲しいものよ。主の手を煩わさないためにも、勇者には頑張ってもらわんとな」


 不安だ。


 もう本当に不安だ。


 クレアはちゃんと勇者をやっているのだろうか。


 墓参りを終え、団子を回収しつつ、俺はこれから先のことを心配した。


 団子はそのままみたらし団子にして、クピトとともに食べた。


 醤油ベースなみたらし団子が、清酒と見事にマッチしていた。


 クピトも清酒と合うみたらし団子に、舌鼓を打っている。


 今こうしている間にも、人類と魔族の戦いは進んでいる。


 しかし、俺には俺の役目がある。


 それに、今のアイツを止める役目はクレアが担っている。


 けれど……。


「……下手なことをするな。我と主は創造神様より、この世界を見守る使命を賜っている。我は高生命力体ステラ・アニマである勇者どもの墓守をすることで、魔力の源である魔素を管理し――」


「……俺はその高生命力体ステラ・アニマを教え導き、生命の巡りを管理する、か」


 俺はクピトとともに、創造神よりこの星を任されている。


 ある時はこの世界を破壊しようと、がいた。


 ある時は世界のすべてを手にしようと愚策、が存在した。


 そんな星の害が現われぬよう管理し、いざ現われたら最優先で取り除く役目を俺たちはもう、1,000


ーーー


[補足説明]


1.冷酒と冷や


「冷や」を冷たい飲み物を指す用語して使用している人がよく見られる。しかし、日本酒(清酒)において「冷や」は冷たい酒を指していない。では、冷酒とどのような違いがあるか。それを以下にまとめてみた。


・冷や


「常温の状態のお酒」を意味し、現代でも「冷や=常温のお酒」と定義していることが一般的である。


・冷酒


「冷たい状態のお酒」を意味し、5度刻みの違いで「涼冷すずびえ」(15度程)、「花冷はなびえ」(10度くらい)、「雪冷ゆきびえ」(5度あたり)などの細かな呼び分けがある。


もし上の者たちに注文を任されたら、その時は「冷酒」と「冷や」をしっかりと使い分けるようにしましょう。


2.高生命力体ステラ・アニマ


勇者、剣聖、大賢者、聖女、魔王の5人をさす。


何故、彼らがそう呼ばれているかは今後、語られるであろう。


3.星を管理する者


シンとクピトの2名を指す。


彼らが創造神より星の管理を任された経緯は今後、語られるであろう。


なお、シンが創造神と関わりがあるという設定は、キューが天使竜(天使は神の使い)であり、シンのペットになっている所が地味に1話からの伏線だったりする。


そして、キューが道場前に現われた時、世界ではある出来事が起こっていて……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る