第2話 師範のペット(ドラゴン)はお肉が好き

 何だかんだでクレアは1泊どころか3泊してから、道場を後にした。去り際にクレアはすっごい物騒な表情を浮かべながら、次のことを言っていたな。


「落ち着き次第、必ず先生のもとに向かいます。ええ、絶対に」


 クレアは勇者以前に、俺の弟子。俺の道場を『第二の実家』みたいに見てくれているのだろう。


 あれくらい気合いが入っているなら、クレアは大丈夫だな。生きようとする気概こそ戦場において、大事になっていくのだから。


 クレアが旅立ってから1週間後。


 俺はキューとともにとある洞窟へとやって来ていた。


「シン~。今日はなにしに来たの?」


「今日はな。肉を調達しに来たんだよ。キューの大好きな牛肉を調達しにね」


「じゃあ。今日は焼肉だね。楽しみ~」


 キューのテンションが上がった所で、早速参りましょうか。足元は岩でごつごつしているから、足運びには気をつけないとね。


 ◇ ◇ ◇


 洞窟を歩いて数分。


 俺たちの前に5匹のゴブリンが現れた。


 小汚い緑色をしていて、片手に棍棒を持ってこちらを威嚇している。ぎゃっぎゃっという鳴り声がいつ聞いても不快だ。


 しかも奴らの厄介なところは、必ず単体ではなく複数の群れで行動する点だ。


「いや~。キュー、ゴブリン汚くてきらい。燃やし尽くしてやる」


「待て。ここでブレスを吐くとすぐに酸欠になる。俺やキューはともかく、一般の冒険者たちが倒れてしまう」


「じゃあどうするの~」


「俺がやる。せっかくの真剣をふるう機会だ。感覚を鈍らせては駄目だからな」


 俺は腰にある剣を抜くと、一瞬でゴブリンたちの背後を取り、正確に首を斬る。


 余計な力を削ぎ、剣を体の一部にし、流れに身を任せるのが基本だ。


「こんなものか」


「シンすご~い。やっぱ勇者よりつよ~い」


「弟子より弱いと先生の威厳は保てないからな。師範たるもの、常に弟子の先にいるべしよ」


 そもそも俺は魔力なんて流れていないし、剣術しかない。


 その剣術で他の人たちに敗けたら俺は、師範を捨てて道場をたたまなければならなくなるからな。


 まったく……クレアやキューみたいに魔法を使ってみたいものだ。魔法さえ使えれば、道場の保管庫やコンロなんかに魔石を使わずに済むからさ。


 まぁ、を体得できたから、そんな贅沢は口に出せないけれど。


「さて、早く進もうか。早くしないと日が暮れてしまうからな」


 剣を鞘におさめ、道中のゴブリンやスライムなどの魔物を狩りつつ、俺たちは洞窟の奥へと進んでいく。


 奥に進むと階段があり、その階段を降りて第二階層に進むと、より強力な魔物が出現するようになる。


 その魔物はアオーンという遠吠えとともに、俊敏な動きでこちらへと襲いかかる。


「ウルフか。視力を鍛える最良の魔物だな」


「キューはウルフと遊ぶの好き。こうやってホイホイ出来るから~」


 キューはそう言いながら、ウルフの突進をヒラリと回避している。


 いつ見ても微笑ましい光景だ。こうしてペットと野良犬が遊んでいるのを見ていると、心が和んでしまう。


 こういうのを癒しと呼ぶのかな?


「さて、こっちも集中しないとな。キュー、飽きたら討伐しろよ」


「分かった~」


 キューは魔力を爪に流し、回避と同時に爪でウルフを切り裂いていく。こちらもウルフの突進を回避しながら、すれ違いざまにウルフを剣で真っ二つにする。


 カウンターというよりは、突進上に剣を置く感じに。


 そうして苦労することなく次々と階層を進んでいき、ついに俺たちは目的の第八階層へと到着した。


「あ~牛肉みつけた。お肉。A級ブランド牛~」


「キュー。あれはお肉ではなく、キングミノタウロスと言うんだ」


「そんなのどうでもいい~。お肉が1匹、お肉が2匹。じゅるり」


 キューよ。そんなことを言っているから、キングミノタウロスたちがキューを見た瞬間に逃げ出していくんだよ。


 取りあえず、近くのキングミノタウロスを標的に定めて剣を振るう。


 すると、数キロ先のキングミノタウロスの首と胴が離れ、そこから血しぶきが舞う。


 空気の流れを感じ取る力も鈍ってないな。


「キューは今の空気の変動が読めたか?」


「読めたよ~。というか、これくらい読めないと離れた場所からボコボコにされちゃうよ」


「えらいぞ、キュー。空気の流れを読めないと敵の隙を見つけられないからな。この調子で後2匹倒しておくか」


「は~い」


 その後、俺とキューでそれぞれ1匹ずつ倒して解体し、討伐部位――討伐した証拠となる魔物の一部――と肉をアイテムカバンに入れた後、引き返した。


 洞窟を出ると、すでに夕暮れになっていた。


 洞窟へと向かう前に買い物を済ませておいて大正解だったと、俺は自分を賞賛した。


「急いで帰るぞ。今日からしばらくは肉料理だ」


「やった~。早く帰ってお肉パーティだ」


「キュー、ステイだ。その前に寄るべき所があるだろ?」


「ギルドだよね。キュー、あそこ嫌い。皆キューのこと、いじめようとするから」


「分かった。換金したら帰るぞ。俺もお腹減ったからな」


 キューを拾って1カ月経つが、まだキューが慣れない場所はある。


 徐々にだが、慣れさせないとな。


 キューの課題を見つけつつ、俺たちはギルドへと向かった。

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