第3話 弟子(剣聖)のパーティーとエンカウントした

「太刀筋が鋭くなっているな。ちゃんと1日欠かさず特訓したことの、れっきとした証拠だな」


「恐縮です。まだまだ未熟者ですが、これからも精進していく所存です」


 少女は緑色のオーラを纏っている剣を持ち、そんな彼女の前にいる俺は緋色のオーラを木の枝に纏わせている。


 剣を持っている少女はクレアと同様、俺の弟子の1人だ。


 どうしてこうなったかというと、1時間前までさかのぼる。


 ◇ ◇ ◇


 キングミノタウロス(高級の牛肉)を討伐した俺たちは、討伐部位を金に換金するべくギルドの中に入った。


「なんだ、あのちんちくりん」


「見ない顔だな。E級か」


 若い冒険者からすれば、俺のことは10代前半の少年に見えるだろうな。


 若い証拠だ。伸び代がありそうでワクワクするものだ。


 そしてキューは相変わらず体を小さくし、俺の服の中に潜っている。


「お疲れ様です、シン様。いつも通り、換金でよろしいですね」


「話が早くて助かる。これらを換金してくれ」


 ゴブリンの棍棒、ウルフの毛皮、キングミノタウロスの角などの討伐部位をアイテムカバンから取り出す。受付嬢はそれらを流れ作業として受け取り、数分後にはすべて換金していった。


 その手腕には敬意を払うばかりだ。


「合計で金貨16枚となります。いつもより少ない所をみるに、本日は食料調達メインでしょうか」


「鋭き観察力、おそれいる。あなたたち受付の観察力には、尊敬するばかりだ」


「ありがとうございます。シン様のように、さり気ない点をお気づきになられる冒険者が増えることを願うばかりです」


 互いに会話を弾ませた後、道場へと帰還しようとした時、冒険者ギルドの入り口からざわめきが起こった。


 おお、よもやこのような所で再会するとは!


「おい、嘘だろ。あれって、A級パーティーの……」


「ああ。『戦乙女ヴァルキリー』だ。ランク更新最短の超新星じゃないか」


「ああ、ワンチャン加入してもらえないかな」


戦乙女ヴァルキリー』。


 確か弟子のリーゼロッテからの手紙によると、彼女をリーダーとする4人からなるパーティーときく。


 メンバーは剣聖のリーゼロッテ、魔術師のアン、拳闘士のメイリン、そして僧侶のロロ。


 最近の手紙では、ワイバーンを討伐してA級に昇格したとかあったな。


 師範としては、弟子の活躍には嬉しいばかりだ。


 そんな戦乙女のリーダーで剣聖のリーゼロッテは、俺の存在を見つけると真っ先にこっちへと進んでいった。


 最短距離の、直進ルートで。


「ご無沙汰しております、先生。その隙のない佇まい、感服いたします」


「君こそ増長しているものかと思っていたが、どうやら余計な心配だったようだな」


「とんでもございません。先生の強さを一度知ったこの身となれば、そんな愚かしき真似など出来ようがありません」


「相変わらずかたいな。もっと肩の力を抜いて接したらどうだ?」


「そんな。ならともかく師匠には到底、出来ません」


 うーん。その謙虚さは評価すべきだが、俺相手に敬いすぎる癖はどうにか直してもらいたい。


 俺がこうして思案していると、残りのメンバーがこちらにやって来た。


「この子がリーダーの先生?」


「本当に強いのか?」


「少し信じられませんね」


 彼女らは……いかんなあ。眼を曇らせようとしているな。放っておくと、『おごり』という悪癖をつけてしまいそうだ。


 常に最適な選択を求められる戦場において、初見で力量を見誤ることは命取りにつながる。


 そうだな。少しだけ揉んでやったほうが良いだろう。


「リーゼロッテ。この後、時間はあるか? 久方ぶりに手合わせをしてあげよう」


「ありがたき幸せ。場所はギルドの訓練場でよろしいでしょうか?」


 俺から戦いを申し込まれたリーゼロッテは、後ろにいる3人を一瞥してすぐに返答した。


 どうやら俺の考えていることを察してくれたようだ。


「それでいい。受付の方、今から訓練場を使用しても良いか?」


「問題ありません。シン様の剣術を一目見られるだけで、使用許可の動機としては充分です」


 受付の方の許可が下り、俺たちはギルド裏の訓練場へと案内された。外野からはリーゼロッテへの応援がほとんどで、リーゼロッテは大きなため息をついていた。


「それでは、シン様対剣聖リーゼロッテの1本勝負、開始!」


 受付の方による開始の合図とともに、リーゼロッテは剣を抜いた。


魔纏まてん、抜刀!」


 リーゼロッテは愛用の剣に魔力を纏わせ、緑色に輝く剣を形成させた。外野はその剣を見て歓喜の声をあげた。

 

「その洗練された魔力、衰えなし! 鬼剣きけん、抜刀!」


 そんなリーゼロッテに応えるよう、俺は訓練場に落ちていた木の枝を拾って緋色のオーラを纏わせた。


 この緋色のオーラは、魔力のない俺が長年修行した果てに体得した産物。


 魔力のようで魔力でないもので、俺はこのオーラを鬼力きりょくと名付けた。


「素晴らしい。その剣こそ、私の憧れであり目標。その猛々たけだけしさ、先生こそ見事な御業です」


 俺とリーゼロッテは互いの剣をたたえあった後、交えた。


「太刀筋が鋭くなっているな。ちゃんと1日欠かさず特訓したことの、れっきとした証拠だな」


「恐縮です。まだまだ未熟者ですが、これからも精進していく所存です」


「よかろう。可能な限り、食らいつきに来い!」


「はい。先生」


 緑色と緋色の織り成す剣舞。


 少年という外見に惑わされ見誤った冒険者すべてはその戦いを見た瞬間、開いた口が終始塞がらなかったという。


 後に、この剣術指南は冒険者の間で空前の剣術ブームを巻き起こし、その歴史的な瞬間を以てこう名付けられることとなる。


 ――双剣舞踏そうけんぶとうと。


ーーー


[補足説明]


1.キングミノタウロス


ミノタウロスの上位個体。討伐ランクはワイバーンと同じA級で、A級冒険者と渡り合う強さと脅威を誇る。


その肉は絶品で、王都の高級な宿屋でも滅多にお目にかかれないほどの代物である。


討伐部位は角で、討伐報酬は1匹で金貨5枚。


2.貨幣


銅貨1枚:日本円で100円。


銀貨1枚:銅貨10枚分。日本円で1千円。


金貨1枚:銀貨10枚分。日本円で1万円。


王金貨1枚:金貨10枚分。日本円で10万円。


3.冒険者ランク


E級からSSS級まで存在する。


・E級


初心者。冒険者全体の2割が該当する。

採集クエストが主で、このクエストを通して、魔物が存在する地形環境に慣れていく。


平均戦闘力:懸賞金額にすると1000万ベリー未満。


・D級


新兵。冒険者全体の2割が該当する。

このランクから本格的に魔物討伐がはじまる。

ゴブリンやスライムなどE級魔物との戦いを通して、経験値を積むのが主となる。


昇格条件:E級冒険者がクエストを10~30達成すること。細かい内容は、ギルド側が冒険者の素行や実績などから適宜対応する。


平均戦闘力:懸賞金額にすると1000万ベリー以上~5000万ベリー未満。


・C級


一般兵。冒険者全体の4割が該当する。

魔物だけでなく盗賊など、討伐クエストが多く多彩になる。

また、これまで受けられなかった類のクエスト(主に遠征)も受けるようになる。


冒険者全体の割合が一番多く、かつ挫折・死亡割合も多いランクである。その最大の理由は人殺しに慣れない、知能のある生物との戦いで必要とされる『臨機応変力』の不足、慢心、実力不足など。


昇格条件:D級冒険者がクエストを40、かつ討伐クエストを10以上達成すること。


平均戦闘力:懸賞金額にすると5000万ベリー以上~1億ベリー未満。


・B級


熟練兵。冒険者全体の1割が該当する。

指名クエストが入り始めるのもこのランクからになる。


昇格条件:C級冒険者がクエストを80、かつクエストを全系統それぞれ3以上達成すること。


平均戦闘力:懸賞金額にすると1億ベリー以上~3億ベリー未満。


・A級


精鋭兵。冒険者全体の0.7割が該当する。

指名クエストが半数を占めるようになる。


昇格条件:B級冒険者がクエストを100、かつクエストを全系統それぞれ10以上達成すること。


平均戦闘力:懸賞金額にすると3億ベリー以上~10億ベリー未満。


・S級


主戦力。冒険者全体の0.29割が該当する。

指名クエストがほとんど。


昇格条件:ギルドマスターが適宜判断。


平均戦闘力:懸賞金額にすると10億ベリー以上~20億ベリー未満。


・SS級


人災。指で数えられるほどしかいない。

勇者や魔王など、国1つを容易に滅ぼせるほどの力を持つ。

S級でも困難なクエストが出た場合、国から直々に依頼される。


昇格条件:国の王が適宜判断。


平均戦闘力:懸賞金額にすると20億ベリー以上~50億ベリー未満。


・SSS級


天災。存在自体が最高機密扱い。

SS級では説明がつかない、とある人物のためだけに用意されたランク。

SS級すら軽くあしらうほどの力を持つが、普段はその一欠片すら完全に隠されている。


昇格条件:全ての国の王が適宜?判断。


平均戦闘力:懸賞金額にすると50億ベリー以上。


4.パーティランク

パーティを構成するメンバーの冒険者ランクを平均して、決められる。

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