第4話 妨害

「気をつけろ。また何か妨害があるかもしれない」

 小村がみんなに向かって言った。

「おうっ」

 みんながそれに答える。小村は完全に我々のリーダーになっていた。やはり、本気で世界を救うヒーローになるつもりらしい。どこか並々ならぬ気合が入っている。

 私たちは警戒しながら進んだ。施設自体の大きさは丁度ちょっと大きな高校くらいの規模だった。それほど途方もなく大きな施設というわけでもない。我々は徐々にではあるが、確実にブレインルームへと近づいていた。それにつれ、我々の間に緊張が増す。

 ヴワ~ン、ヴワ~ン、ヴワ~ン

 その時、突然、けたたましく火災警報が鳴った。

「なんだ?」

 全員足を止める。

「火事?」

 田中が辺りを激しく見回しながら言った。

「いや、これもモノリスの妨害じゃないのか。煙も何も出ていないぞ」

 小村が言った。

「多分、そうだ」

 私が賛同する。と同時だった。

「わああああっ」

 突然、天井から大量の消火剤が降って来た。

「わああ」

 何人かがそれをもろに被ってしまう。

「大丈夫か」

 小村が私を見る。

「ああ」

 私は端の方にいたため無事だった。

「体に害はないが、一応消火剤を被ったものは引き返して洗い落とした方がいい」

 小村がすぐに言った。

「ああ」

 まともに被った田中、沢井、香山は、その場から離脱し、引き返していった。

「・・・」

 残ったのは私と小村、そして、宮城だった。宮城は寡黙な技術屋といった男で、こういった場面ではほとんど役に立ちそうもない男だった。

 幸いケガ人は奇跡的になく、だが、子どもじみた妨害ではあったが、一人また一人と確実に人数は減っていく。ここに来てはっきりとして来た。モノリスによって巧妙に罠が張り巡らされ、我々の進路は妨害されている。それは確実にモノリスの意志だった。それをはっきりと感じた。

 モノリスは攻撃している。我々を――。

「何とか一人でもモノリスの所に辿り着くんだ。そして、何としてもモノリスをとめるんだ」

 小村が言った。

「ああ」

 全人類の命がかかっているのだ。それだって決して大げさな話ではない。

「さ、先を急ごう」 

 小村の掛け声と共に、そして、我々は再びブレインルームへと走り出した。

「よしっ、この角を曲がればブレインルームだ」

 小村が走りながら歓喜にもに声を上げた。我々はブレインルームのもうすぐそこまで来ていた。

「ん?」

 その時、小村が何か異変に気づき立ち止まった。後ろにいた宮城も連動して立ち止まる。

「どうした?小村」

 私はそれに気づくのが数秒遅れ、二人よりも数歩先に進んでいた。

「あっ」

 ガシャンッ

 その時、突然、我々の間に通路を遮断する防火シャッターが下りた。

「おいっ」

 分断されたお互いが両側からその防火シャッターを叩く。だが、それはビクともしない。

「・・・」

 我々は完全に分断されてしまった。

「えっ」

 気づくと私は一人になっていた。私以外全員が、防火シャッターの向こう側だった。

「おいっ、高山、無事か」

 小村の声が壁の向こうから聞こえてくる。

「ああ、無事だ」

 私が答える。

「そちら側からこのシャッターを開けられないか」

 小村が叫ぶ。

「ダメそうだ」

 私は辺りを見回すが、それらしきものは一切ない。

「このシャッターは、手動で開けることは無理です。モノリスか中央制御室からの指令でないと・・」

 宮城が言った。

「しかし、モノリスは・・」

 宮城はそこで口をつぐんだ。

「・・・」

 全員そこで黙る。

「我々は中央制御室と連絡して、何とかこのシャッターが開くように努力してみる。お前は先にモノリスの所へ行ってくれ」

 その沈黙を破るように小村が言った。

「分かった」

 私は答えた。

「・・・」

 しかし、そう答えたものの、私一人で何ができるのか――私はまったく自信がなかった。これからも似たような妨害が待っているに違いない。その危険性もある。今までは奇跡的に誰もケガはなかったが、今後その奇跡が続くとは限らない。いや、そうならない方の可能性の方が高い。

 一人残された私は、しかし、一人でこの先に進むしかない。私一人、何ができるのか分からなかったが、しかし、何としてもモノリスはとめなければならない。今多くの命が危険にさらされているのだ。

 私は一人ブレインルームへと歩き出した。

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