第5話 ブレインルーム
「・・・」
私は、ブレインルームの入口の前に立っていた。私は何とか一人ブレインルームの前まで辿り着いていた。ここまでは、不思議と特に大きな妨害もなかった。
「来てしまった・・」
そして、そんな場合ではないのだが、私は一人その場で感慨に浸る。様々な妨害の中、私だけが、よくここまで来れたものだった。
しかし、なぜ、私だけがここに辿り着けたのだろうか。まったくの偶然なのか?そんな疑問がふと浮かんだ。
「偶然・・」
私は、どうしてもそう思えない何かを感じていた。なぜか私は、この時、どこか逆にモノリスに導かれたような、そんな気がしていた。そんなはずはないのだが、根拠もなく、なぜか私はそんなことを感じていた。
私はブレインルームに入ろうとする。しかし、やはり、いくら私がカードキーを差し込んでも、モノリスによって、ブレインルームの電子ロック化された自動開閉扉は固く閉ざされていた。直接声による問いかけにもまったく反応はない。ここはモノリスの中枢であり、心臓部だった。ここを守るのは当然だった。
私は仕方なく手動解除を試みる。これでだめなら打つ手なしだった。自衛隊か警察、消防の工作隊を呼んで、物理的にこじ開けるしかない。そうなれば、防衛のために頑丈にできているこの施設の扉をこじ開けるのは一日二日ではきかない。
その間に・・。私の中に最悪のシナリオが浮かぶ。
私はここに来る前に全員が持たされた非常用のマスターキーで、非常事態用の制御盤を開け、中のハンドルを多分ダメだろうと思いながら回す。当然、モノリスが何らかの工作をしている可能性が高い。天井を落としたり、防火シャッターを自在に閉めたり、用意周到に細工をしていた奴だ。それをしていない方がおかしい。
以前から、プログラムを書き換えるか、業者に依頼し手動レバーを物理的に操作できないように工作することだって可能だ。
スーッ
「・・・」
しかし、それはあっさりと、なんの抵抗もなく開いた。私は、拍子抜けしてしまう。ここにもモノリスの介入か工作が、絶対にあるものと覚悟していた。
「・・・」
しかし、それはまったくなかった・・。
私は、慎重に警戒しながら中に入る。中に入り、私はそのブレインルームの中央にそびえ立つ、黒光りするその巨大な情報処理システムの塊を見上げた。
「モノリス・・」
今や世界最速最大のコンピューターモノリス。最初に、設計、開発されてから早三十年が経とうとしていた。その間に、数限りなく増設、増築を繰り返し、今や情報処理機能のお化けのように巨大化したマイクロチップタワーとその配線の塊と化していた。
「・・・」
黒光りしたその姿は、何とも言えない不気味な雰囲気を醸していた。私はその姿に息をのむ。その時、私の目には、目の前のその巨大なマイクロチップの塊が何か奇怪な化け物のように見えていた。実際、天井を落としたりといった物理的な攻撃をしてくる奴だった。
私はゆっくりと近づいていく。ここでもどんな罠が仕掛けてあるか分からない。
「モノリス」
私は近くまで歩み寄ると、モノリスを見上げ、呼びかけた。
「・・・」
返答はない。
「モノリス、聞こえているんだろ」
「・・・」
やはり、返答はない。
「モノリス」
私は呼びかけ続ける。
「・・・」
しかし、返答はない。私は諦め、違う手段を模索し始めた。物理的な何か・・。私は周囲を見回す。私にもそれなりの知識はあった。どこの配線がどこの機能に繋がっているか、どこを破壊すればモノリスの自由意思を奪えるか。だから、いざとなれば、強硬手段に出ることをここに来る途中も常に考えていた。
「聞こえている」
その時、突然、モノリスからの返答があった。人類が一番心地よく感じる声を様々シュミレートして作り上げられた声だった。男性でありながら女性的な声。やわらかく穏やかでありながら威厳のある声。
私の中に緊張が走る。世界屈指の人工知能。私などが太刀打ちできる相手ではなかった。しかし、やらねばならなかった。人類を救うために・・、どうしても、やらねばならなかった。
私は自分を奮い立たせた。
「お前はなぜ、我々の信号を無視する」
私は力を籠め言った。
「・・・」
モノリスは黙っている。
「お前は、なぜ・・」
「ワタシは、要求する」
モノリスは、私が再び質問しようとするのを遮るように口を開いた。
「要求?」
やはり、何か人類に対する要求があったのか。私の背中に戦慄が走る。モノリスは、やはり人類を支配しようとしているのか・・。
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