終章
繋がれ、ロリータの心
あの兄貴の女装騒ぎから2年が過ぎた。
それから兄貴は無事大学に進学して、私は大学入試に向けて絶賛受験勉強中である……というはずだっだ。
「本当はこんなことやってる場合じゃないんだけどなあ……」
模試が来週に控えているというのに、私はあの皇子ロリータの服を着せられて創作ハンドメイド即売会の売り子をやらされている。せっかく秋風が気持ちのいい土曜日だっていうのに。
「でもいいだろ、受験には息抜きが必要だ」
「息抜きっていうか、私にはアウェイで息が詰まるんですけど……」
隣で甘ロリではなく、ゴシックメンズの装いの兄貴がやっぱりニヤニヤしている。黙っていればどっかのヴィジュアル系バンドのボーカルみたいな出で立ちなのに、やっぱり喋るとクソ真面目な天然ボケなのは健在だ。
あれから兄貴はロリータというか、そういう服飾の世界にすっかりのめり込んでいった。それで服のデザイナーというか、アクセサリー作りの方向に進んでいった。若い男でハンドメイド作家というのがウケたのか、そこそこ人気があるようだ。作っているのはスチームパンク風のネックレスやブレスレット。あとベルトのバックルをよく作っている。仮面ライダーで育っているのがよくわかる。
学園祭の後の進路相談で急にインテリアコーディネーターになるとか何とか言って、大学は建築学部のあるいいところに行った。課題だの試験だの忙しくしていたり、特技の英語と数学を生かして塾のアルバイトをしたり、その合間にアクセサリー制作をしたりと毎日やることに追いかけられているみたい。
「今日は塾の自習室で形容詞範囲の復習しようと思ってたのに……」
「しょうがないだろ、ジュンさん今日は来れないんだから」
兄貴は受験勉強とハンドメイド作家を器用にこなして、大学生活が落ち着いてきた夏休みにようやくずっと片思いしていたジュンさんに告白した。そして現在、めでたく交際に至っている。専門学校を卒業してアパレルメーカーに就職したジュンさんは忙しいようで、今日はどうしても休みが取れなかったようだ。
ジュンさんが休みだったら、こいつはブースできっとジュンさんといちゃいちゃしてたんだろうな。畜生、私も早く大学生になって思いっきり好きなことしたい。
「これ終わったらアイス買ってやるから」
「じゃあハーゲンダッツ買ってね」
「わかった、クリスピーでも何でも買ってやるから」
「わぁい」
ブースの中には差し入れが届いている。兄貴のファンの女の子たちからの他に、同級生だった
やっぱりお兄ちゃんは、私の自慢のお兄ちゃんだ。
「……で、このサークル名変えないの?」
「なんか語呂だけすごく気に入ったから、もうこれでいい。結構覚えてもらいやすいし」
確かに覚えやすいと言えば覚えやすい。そうなんだけど……。
「でも、やめようよ……私、妹だからさ……」
私は『オリジン工房』の看板を見て、いつものようにため息をついた。やっぱりこいつ、天然なんだよなあ……。
まあ、そこがいいところでもあるんだけどね。
<了>
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。よろしければ読了の記念に★や♡をお願いします。
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